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乙女ゲームのイケメンに憑依してしまった「彼」の悩み事  作者: 遠出八千代
乙女ゲームのモブに転生してしまった「彼女」の懸念事項
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乙女ゲームのモブに転生してしまった「彼女」の懸念事項 2


「……本当に帰ってしまいましたね」

 天才魔術師の後輩君、アルト君はぽつりと呟いた。


 彼自身口に出したとおり、クラウディンが会話の途中に帰ってしまったことに多少なりとも驚いている印象で、あどけなさの残るその顔にはゲームの中では見たことも無いような暗い表情を浮かべさせていた。


「あ、ああ。話の途中で帰るような人物ではなかったはずだが……」

「思うに、彼はこの間から変だったように感じたけど」

「この間……数ヶ月前に校舎で頭をぶつけたときか?」


「ええ。それからずっとあの調子だった。まるで別人みたいだとは思わないかい?」


 続けてフィンの言葉を補強するかのように、リーレイも同意した。


 この場所からでは、角度的に二人の表情は良く分からないが、皆共通の違和感は感じているようだった。違和感の正体とは、つまりクラウディンが本人じゃないのかもしれないというものだ。


 ゲームをプレイしていた私でも、すぐに彼がクラウディン本人じゃないと気付いたんだ。長年クラウディンと一緒にいた彼らなら、今までの彼では考えられない行動に疑問符が付くのは当たり前だろう。


「別人……でも、アルト君がチャームの魔法をクラウさんにかけられているか調べたときは何も出なかったんでしょ?」

「ええ、そのはずなのですが……それを差し引いてもあれはおかしいですよね。特にあんなにも嫌っていたエリザ先輩への好意的な態度といい」

「確かにな」

「何か理由があるのかもね」


 前回の事を振り返ったコハナの言葉にアルト君は首をかしげた。


 どうにも腑に落ちないといった感じで、それ以外にもいつもの飄々としているリーレイと仏頂面のフィンでさえその驚きは言葉を介して伝わってくる。


 うん、確かに凄い分かる。あれは本当に変だよ。

 少なくとも「彼」はこのゲームをやったことないことだけは確定している。知っていれば、これほどまでゲームと違うことは出来るわけがない。


「ううん、きっと二人は和解したんだよ。それで今はきっとラ、ラブラブなんじゃないかな。ちょっとさびしいけど……」

「一番納得できる理由としてはそれ以外考えられませんね」

「確かにね、到底信じられないけど。エリザちゃんも最近はおとなしくなって何か悪巧みしてそうにも思えないし」

「まぁ、俺はライバルが減ってほっとしているけどな」

「え?いま、なんていったのフィン君?」

「い、いやなんでもないぜ……ほ、ほらお前達も帰ろうぜ」


 そしてポツリと出たコハナの初心な発言は、周りの三人をじれったくさせるのに十分だったようだ。フィンは顔を高潮させ、アルト君は下を見ていた。リーレイはニコニコと彼らの様子を見ていた。反面私は、彼らの白々しい反応にちょっとイラっとする。


 ……コハナのフィンの小声への反応といい、本当に最悪、茂みの中にいる私にも聞こえたんだから。

 それぐらい面と向かっている自分の耳にも届くでしょ。何でこんなときだけ主人公って難聴になるのよ。私が内心悪態をついていると、皆おのおのの足取りで校舎裏を後にしていった。まるで今の空気を変えたいみたいに。


 実際彼らなりにこの甘ったるい空気は変えたかったのかも知れない。


 私は校舎裏から少し離れた茂みの中で、彼らが去るのをただだまって眺めていていることしかできなかった。


「どうしよう。もうすぐあのイベントだよ……」

 コハナたちのいざこざの一部始終を影から見ていた私は、自然と独り言がこぼれた。


 本来ならシナリオも終盤に入って、4人はお互いのコハナへの恋心に気付きけん制しているような時期だった。

 そしてこのイベントだって、本来そのけん制による緊張がピークに達し、衝突するイベントだったのだ。


 私は、クラウディン(転生者)に現在の状況を伝えるつもりで、彼を追いかけ、この場に待ち伏せしていた。

 「現在の状況」とは、つまりこの世界はゲームの世界で、彼の行動でシナリオは崩壊の危機にあるという意味だ。


 そしてコハナを犠牲にして世界を救わせるためにおとなしくしていろと伝えるつもりだったのに……まさか彼が4人が現れるとは思いもよらなかった。


 状況から察するに、どうやらクラウディンはコハナたちに呼ばれてこの校舎裏に来たみたいだった。流石に私も乗り出していた茂みから半身を引っ込めて、こうして今のいままでずっと隠れていたのだ。なんて間が悪いのよ。


 しかも今回の出来事はある意味ではシナリオどおりのイベントだった。

 そして先ほどは、シナリオが滅茶苦茶になっている割に、こんな重要なところはシナリオそのままなのかという理不尽さに嘆いていたのだ。もしかしたらこの展開はシナリオの強制力によるものなのかもしれない。


 今回のクラウディンとフィンの衝突は、元々シナリオのイベント通りで、シナリオの中盤と終盤の丁度節目になるエピソードだ。


 本来だったら、クラウディンとフィンがコハナへの愛情を自覚し、この校舎裏で喧嘩をすることになる。それをコハナやリーレイが偶然通りこの場を収めるのだが、結局二人はコハナを巡り騎士試験出対決することを約束する。


 そして決勝の戦いの最中、エリザの暗躍によって開かれた門がトーナメント会場の真上に現れ、二人の戦いは中断。シナリオは終盤に入る。

 コハナは門を誰と閉じるのか選ぶことになるのだけど……


 本来のシナリオと進み具合が違う上に、コハナが全然回りのヒーローたちと恋愛していない上に、彼らとの仲が進行していない。


 これは全てクラウディンがシナリオをかき回したせいに違いなかった。


 もし門が出現するとき、コハナが誰とも仲が良くなければ一応シナリオ上では後輩のアルト君とのバットエンド……つまりコハナとアルト君の二人だけが生き延びて、人類滅亡エンドということになる。


 だが、仲が進展していないのならそのシナリオだってどうなるかは未知数だ。世界は救われないかも知れないし、そうなったとしても私は死んでしまうことになる。それだけはなんとしても避けなければいけない。


 ……それにしても、なんで彼はエリザみたいな悪女を庇うのだろう。ぜんぜん理解できない。しかも彼女を助けさえしなければこんな展開にはならないですんだのに。おかげで時間だってほとんどない。


 はやく彼に図書館に行くことを止めさせなければならない、やることは山済みだ。


 だが、私に何が出来るというのだろう。


 そもそも私は所詮ゲームの世界に転生した一般人だ。この先の展開を変える力もない。出来るとすれば、彼に忠告をするくらいだろう。



 私はその場で茫然としながら、この後に起こるであろう展開をただただ考えていた。



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