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ススメ、悪ノ秘密結社  作者: よぎそーと


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6-3 ススメ! 悪ノ秘密結社(暫定最終回)

「選挙に出る」

 翌日、会議で呼び出された三人の幹部に、総統閣下ははっきりと言った。

「ほう」

「ふむ」

「へえ」

 三人三様の返事をする。

「しかし、昨日の今日で」

「いきなりすぎる気もするが」

「何かあったんですか?」

 抱いて当然の疑問を口にしながら三人は真意を問いただす。

 総統閣下は頷いて、

「その方が良いからだ。

 というか、しない方が面倒が残る」

と思うところを口にした。

 三人は更に「その理由はいったい?」と疑問を顔に浮かべていく。

「そうだなあ……」

 自分でもまとめきれてないと思いつつも、総統閣下は考えを述べていった。



「まず、協力しなかったら確実に政党が敵に回る。

 少なくとも協力的ではいないだろう」

 求めたのに応じない相手に便宜を図ることはない。

 当たり前だが、世の中持ちつ持たれつである。

 それを拒否するなら、相応の態度をとられるのもやむをえない。

 また、相手は一地方の自治体であっても議員である。

 まだまだ小さな組織でしかない<秘密帝国ザルダート>を潰すことはわけない。

 潰せないまでも様々な圧力を加える事は出来るだろう。

 それに対処するために、余計な労力を使うのも面倒だった。

 相手の弱みを握るのは、出来なくはないだろうが手間がかかる。

 それも調べていく必要はあるにせよ、用いずに済む状況を手に入れられるならその方がいい。



「選挙が四年に一回というのも大きい」

 地方議会の選挙は、基本的にそれだけの間があく。

 今回協力しなくても次回でなら、と言ってられるほど短い期間ではない。

 また、四年に一回の選挙なのだから、それは<秘密帝国ザルダート>も機会を失う事になりかねない。

「せっかくの選挙だ。ここで行動しておけば議会にも影響力を持てるかもしれん」

 それを捨てるのも惜しかった。



「では、与党に協力を?」

「いや、そうではない」

 その返事に三人はまた驚いた。

「では、野党につくんですか?」

「それも違う」

 三人はますます困惑する。

 ではいったいどうするつもりなのか、というのは当然の疑問だ。

 総統閣下は、

「そもそも、そんな事する必要もないだろう」

 ニヤリ、と笑って、それとは違う別の道を提示した。



 その日から根回しが始まった。

 まず<秘密帝国ザルダート>に好意的なところから話をもっていく。

 ご近所の八百屋さんから町内会長へ。

 更にそこから町内全体へ。

 直接面識のない者達にも、彼らから話しを伝えていってもらう事で拡散をしていった。

 また、近所の農家にも話しをもっていく。

 地獄将軍達が手伝いで赴いてる所は、概ね好意的だった。

 人材派遣をはじめとする各企業にも話しを通していく。

 直接傘下の所はもとより、付き合いのある企業にも。

 それらがどれほど成果をあげてるのか分からない。

 それでも2000人から3000人と言われた影響力の範囲には届いているようだった。



 それからあらためて次の段階へとうつる。

 主に定年退職をした者達に焦点をあてたその動きは、さすがに少しばかり難航した。

 しかし、それでも何とか必要な人間を確保する事ができた。

 それを元に更なる行動へと移っていく。

 やらねばならない根回しと、しなければならない手続きは多く、休んでる暇はなかった。



 そして迎えた選挙。

 <秘密帝国ザルダート>のご近所などから、議員への立候補者が五人出た。

 彼らは特にこれといった政策はないものの、今の程よい状態を続けるという事を公約としていた。

 地元の者達は当然彼らを支持していった。



 その動きに与野党の両方が少しばかり驚いた。

 まさかこうなるとは思ってもいなかったようだ。

 だが、そこは選挙に長けた者達、特に慌てる事もなく対応していく。

 いくら地元であっても、そうそう簡単に勝てるほど選挙は甘くない。

 相応の対処は彼らとてしっかりやっている。

 少なくともそのつもりだった。



 しかし。

 結果を見れば意外な事に立候補した者達はそれなりに奮闘した。

 それも五人全員の当選というあり得ない結果である。

 初めて出馬してこの結果というのは、まずありえない事である。

 と同時にそれは、今まで議員だった者達から五人の落選者を出すこととなった。

 完全な無所属の者達はもとより、与野党の者達からも脱落者が出た。

 与党は一人。

 野党は三人。

 無所属から一人。

 それは、市議会において大きな意味を持つことになる。



 市議会の定数25人。

 そのうち、与党は13議席。

 野党は10の議席を持っていた。

 残り二つはどちらにも所属しない地元の有力者である。

 しかし、今回の立候補でこの勢力図が変わる。

 与党は12議席。

 野党は7議席。

 地元有力者は1議席。

 そこに、新人が5議席。

 誰もが単独で過半数をとる事が出来なくなってしまっていた。

 とくに与党は、わずか1議席であるが過半数ではなくなった。

 今までも完全に思い通りに議案を通すことが出来たわけではないが、今後は更にそれが厳しくなる。

 野党に至っては完全に議会への影響力を低下させた。

 他の勢力と手を組まない限り議案を通すことは絶対にできない。

 野党は自分たちの意見を通すためには、与党からの妥協だけでなく、今回の当選組と地元有力者を味方につけねばならない。

 そのため、かなりの妥協を強いられる事になる。

 与党も与党でそれは同じである。

 ただ、必要なのはあと一票なので野党ほどの手間はかからない。

 そもそもとして地元有力者である議員は、基本的に与党よりの立場である。

 それほど労せずに協力は得られる…………と思っていた。



 しかし、地元有力者である議員もここに来て態度をいくらか変える必要が出来てしまった。

 地元出身というのが最大の強みであった有力者であるが、今度は地元の意向をあらためてくみ取る必要がでてきた。

 何せ、新たに当選した五人は全て地元有権者の支持を得たものである。

 今までさして意見を言わなかった地元の者達が、五人を当選させるほどの投票をした。

 その事実が有力者をして地元にあらためて回帰せざるえなくしていく。

 今まで与党よりであった姿勢を、今後は地元よりにせざるえない。

 その結果、与党よりで居続けるわけにもいかず、立場はかなり不透明なものとなってしまった。

 やむなき事であるが、与党からの信用はどうしても落ちる。

「あいつは今度どっちの立場になるんだ?」という疑問は常につきまとう。

 それが余計に両者の溝を深めていった。

 ある意味追い込まれた地元有力者議員は、自然と五人の新人議員へ近づく形となっていく。

 ここに議会は、与党を最大勢力としながらも、他の勢力もそれなりの影響力を持つ状況を作り出す事となっていった。



 これらを作り上げたのは、投票率の変化だった。

 <秘密帝国ザルダート>による働きかけはかなりの広範囲に及び、その結果投票率はかなり跳ね上がった。

 最終的な投票数は約1万8千票。

 20%ほどだったこれまでの投票率が、今回は30%ほどにまで跳ね上がっている。

 その増えた5000の票が、ほぼ五人に集まった形だった。

 それだけの人間が動いたという事実が、議会に大きな衝撃を与えていた。



「上手くいったな」

 総統閣下は得られた結果を見て満足していた。

「まさかこれほど上手くいくとは」

 悪魔参謀長も驚きを隠せない。

 かなり多くの人が乗り気になっていたのは分かっていたが、実際に投票にいく者がどれだけいるかは未知数だった。

 しかし、結果を見れば想像以上の圧勝。

 想定していた以上の者達が選挙に向かっていた事が明らかになる。

「だが、難しいのはこれからだ」

 奈落長官が現実的な事を言う。

「当選してそれで終わりじゃない。

 むしろ、ここから何をしていくかが大事だぞ」

「分かってますよ」

 総統閣下も顔を引き締める。

 議会に影響力を持てたのは確かだが、それで終わりではない。

 この市の統治を考えなくてはならなくなった。

 下手な事はできないのは嫌でも分かる。

 それでも、得られた成果の大きさも理解している。

 これから四年は余計な圧力を考えずに済む。

 少なくともこの市内においては。

 その時間こそが<秘密帝国ザルダート>にとっては必要な貴重品だった。

 金も権力も、時間だけは決して手に入れる事はできない。



「これから益々厳しくなる」

 総統閣下は気分と顔を引き締めて三人に言う。

「議会もそうだが、選挙中におこった様々な妨害の事もある。

 今後もそれらは続くだろう。

 地獄将軍もそれらに対してがんばってもらわないといけない」

「はい、がんばります」

 頼もしい言葉に総統閣下は安心感をおぼえる。

「また、組織内部の統制も必要だ。

 奈落長官、頼むぞ」

「分かっとるわい」

 選挙中、奈落長官が組織内部のまとめ役として果たした成果は大きい。

 それがなければ、<秘密帝国ザルダート>は途中で崩壊していたかもしれない。

 良くて機能不全であっただろう。

「そして、悪魔参謀長。

 今後も最善最良の作戦を模索してくれ」

「心得ました」

 あらためて頭をさげる悪魔参謀長は、既にこの先の事について思いを巡らせていた。

「他の結社員達にもがんばってもらわないといけない。

 彼らにねぎらいの言葉でもかけてやらないとな」

「是非お願いします」

「すぐにでもやってくれ」

「皆、待ってますから」

 三人の幹部は、総統閣下に注文をつける。

 何かあれば総統閣下は、幹部だけでなく他の結社員達にも奮闘やねぎらいの言葉をかけてきた。

 今もそれを待ってる仲間は大勢いる。

「近いうちに集会を開けるよう手はずをととのえます」

「なるべく時間があくよう、やってみるわ」

「俺も日程を調整します」

 総統閣下は「頼む」と一言だけ告げた。

 幹部は「はい!」と返事を合わせた。



 会議が終わって再び居間に一人。

 縁側に出た総統閣下は、大きく息を吐いた。

 昼の日差しが全身を包んでいく。

 一年と数ヶ月前に発足した時には、まさかここまで来るとは思わなかった。

 趣味の集いであったはずの組織は、本当に世間に影響を与えようとしている。

「まさかこうなるとはなあ……」

 色々と感慨深い。

 ふと、目の前に建つ────目の前だけでなく、中古で買ったアジトである住宅の周囲に目を向ける。

 このあたりはもともと野原のような所だった。

 それが今は、結社員達の住居としてアパートや一戸建てなどが建ち並んでいる。

 結社専用の事務所として、プレハブながら専用の建物までできあがっている。

 今もそこで、必要な事務作業の多くがなされているはずだった。

 変わらないのは、アジトである中古住宅だけであった。

 それも、いっそのこと取り壊して新築してしまおうかという話しが持ち上がっている。

「変わったなあ」

 そんな一言では済まされないほどの変化であった。

「何がです?」

 お茶をもってきた女子中学生────この春に第一志望に合格して女子高生────がお茶を持ってくる。

「いや、短い間に色々とあったと思ってね」

「そうなんですか?」

「ああ、そうだよ」

 家の中の事はほぼ一手に引き受けるようになった女子高生であるが、結社の仕事について口をはさむような事はない。

 だからこそ、何がどのように動いてるのかはほとんど知らない。

 もちろん、聞くとはなしに聞いてしまう話も、見るとはなしに見えてしまう出来事もあるだろう。

 それでも彼女は、<秘密帝国ザルダート>の内情に踏み込まないようにしていた。

 総統閣下をはじめとする他の者達も、余計な事は話さないようにしている。

 どれほど彼女が組織に貢献してくれていても、彼女が部外者だからというのが理由である。

 より大きな理由として、危ないことに近寄らせたくない、というのもあった。

 だからこそ総統閣下はそれ以上何も言わない。

 ただ、女子高生が煎れてくれたお茶をありがたくすするにとどめる。

 それでも女子高生は、差し支えない範囲で尋ねてくる事もある。



「総統閣下は、どこまで行こうとしてるんですか?」

 曖昧な質問である。

 だが、その声に総統閣下は、

「そうさなあ……」

と考える。

 自分はいったいどこに行こうとしてるのか。

 何を目指しているのか。

 それはいまだにはっきりしない。

 悪の秘密結社で総統閣下という地位にいる。

 それだけでもう満足であった。

 だが。

 悪の秘密結社の頂点に立つならば、目指さねばならないものがある。

「…………世界かな」

「世界ですか?」

「ああ、世界だ」



 荒唐無稽な夢物語である。

 だが、悪の秘密結社が求めて目指すのはそれしかない。

「世界だ」

 もう一度呟いて総統閣下はその夢を思い描く。

 まだ誰も成し遂げてはいないだろうその夢。

 それをかなえてみたいと。

 さすがに自分たち一代では無理だとは思ったが。

 しかし、この先何代にもわたっていけば、出来ない事ではないと思う。

「凄いですね」

 女子高生は素直に感動しているようだった。

 その声を受けて、総統閣下は声をあげる。

「ああ、だって俺たちは────」



 ────悪の秘密結社だからな。



 その声は夏を迎えようとするほんのわずかな熱気の中に消えていく。

 子供のような夢物語。

 しかし大人はそれを現実にするという野心がある。

 総統閣下は今それを抱いていた。



 そして。

「じゃあ私も」

 女子高生がいたずらを口にするように続く。

「悪の女幹部とかになってもいいですか」

「え?」

 予想外の言葉だった。

 だが、苦笑しつつも総統閣下は、

「歓迎するよ」

と応じた。



 今ここに、新たな悪の秘密結社員が誕生する。

 それが<秘密帝国ザルダート>のこれからの拡大を示しているようでもあった。


 えーと、とりあえずここで一端区切りです。

 投稿機能などの設定では完結してませんが、実質的には完結です。

 また今後続きを書くかもしれないので、完結にはしないでおきます。

 とか言っておきながら、結局書かないというのが定例でしょうが。

 いわゆる第一部完というやつです。

 第二部はいつなんだろう、とか思ったりしたのは俺だけではないと信じたい。



 さて、このお話。

 とりあえず連載の機能を確かめるため、という理由もあってはじめましたが。

 予想外に多くの方に閲覧してもらう事ができて、大変ありがたく思ってます。

 こんな調子でいいのかな、と思うところもありますが。

 でも、楽しんでくれる方がいるなら、それが一番だとは思ってます。



 次も何かしらやろうと思ってますが、さてどうなるやら。

 この後書きを書いてる時点ではまだはっきりしてません。

 もう始まってるのか、何も手がついてないのか。

 ただ、次の話が皆さんにまた楽しんでもらえるものになってるのを祈ったり願ったりするのみです。



 何はともあれ、閲覧ありがとうございました。

 評価点などいただけると嬉しいです。



 では、またどこかで。

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