学校の秘密
目を開けると…ヒナ…ではなく、母の顔があった。
夢…か…
どうやら昨日の停電のあと眠ってしまっていたらしい。
僕は公立の高校に通うごく普通の17歳。サラリーマンの父、専業主婦の母との3人暮らし。
別に生意気な妹がいる訳でも、男勝りな美人な姉がいる訳でもない。
僕は夢の余韻も覚めやらぬまま、母に急かされ、家を出た。
はっきり言って学校は嫌いだ。
母の手前、仕方なく通ってはいるが、本当は行きたくない。
僕には友達がほとんどいない。クラスでも浮いた存在だ。
話す相手といえば、小学校からの幼馴染のリクとハルカくらいのものだ。2人は社交的な性格でクラスでも友達も多いが、僕には変わらず話掛けてくれる。コミュ障の俺も2人には普通に会話ができる。こんな俺が今までイジメられなかったのは2人のお陰だ。その点に関しては感謝している。
ただ、休み時間毎に僕の机に来て話し掛けるのには閉口している。
僕は静かに過ごしたいだけなんだ。
「おい!うちの学校の秘密知ってるか?」
リクがまたいつもの様に興奮して話している。
バカバカしい。高校2年にもなって何を言ってるんだか…。
「学校に秘密の地下があるって話でしょ?そんなの本当にあるの?」
ハルカが喰いついた。
「ああ、地下は本当にあるらしい。うちの事務員さんから入口の場所も聞いてる。但し、今いる人は入った事が無いらしい。そこにはうちの学校の秘密があるとかないとか…。」
ますますもってバカらしい。
時刻は夜の9時
僕たちは学校の地下に通じていると言われている倉庫の前にいた。
リクと僕は高校のジャージ、ハルカはGパンに黒のTシャツに銀のネックレスをしていた。去年の誕生日に僕がプレゼントしたものだが、デザインが気に入ったとかでいつも付けてくれている。
結局誘いを断れずに来てしまった。
いつもそうだ。彼らに誘われるとロクなことにならない。
「では、行きますか。」
どこからくすねてきたのか、倉庫の鍵をジャラジャラさせながらリクは言った。
倉庫の隅にソレはあった。
何者をも拒むように錆び付いた鉄の蓋。
リクと僕が錆び付いた取っ手を握る。
「せ〜の!」
ズズズズズズ
蓋がひらいた。
同時に湿った冷たい空気が顔を撫でる。
開いた闇にライトを照らすと、梯子が見えた。
どうやら高さは10メートルほどあるようだ。
下は通路になっており、その先はここからは良く見えない。
最初にリク、次に僕、最後にハルカが梯子を降りた。
「カイトの変態!」
どうやら僕の手がハルカのお尻に触れてしまったらしい。
「誰が好き好んでハルカの尻なんか…イテッ!」
言い終わる前にハルカのローキックが炸裂した。
「バーカ!」
悶絶する僕の頭上から罵声が浴びせられる。どうやら気が済んだらしく、声は笑っている。
「おい!じゃれてないで早く行くぞ!」
リクの声に僕は立ち上がり、ノロノロと歩きだす。2人は俺を置いて、さっさと先に進んでいた。
急いで2人に追いつく、漆黒の闇の中では、ライトの光だけがたよりだ。3人揃うと、立ち止り、改めて周りを確認した。コンクリートで囲まれた横2メートル、高さは3メートル程の通路が真っ直ぐに続いている。点検用の通路だろうか、壁に残る黒いシミが人の顔のようで、恐怖を増幅させる。
ギュッ
ハルカが僕の服を掴んできた。その手が震えている。普段は勝気なハルカも一応女の子ということか…。
「おい、やっぱり止めようよ。なんかヤバイって。」
という僕の言葉が聞こえていないのか、リクはどんどん先へ進み始めた。早い!俺とハルカはついていくので精一杯だ。
代わり映えのしない通路が続いた後、突然開けた空間が広がっていた。通路は今歩いてきた通路の他に幾つかある。
「リク!お前いい加減にしろよ!」
イラついた僕が、リクの肩を掴んだその時…!
「ウウウゥゥ……」
誰かが呻く様な、泣く様な、そんな声が聞こえた。
「ウウゥゥ…タ…ス……ケテ」
声は、右の通路から聞こえてくる。僕は右の通路を進んだ。
今度は俺が先頭で2人は僕の後を無言で着いてくる。とはいうものの、2人の存在を示すのは、足音と2人が持つライトの光だけだ。
10メートル、いや、20メートルだろうか…、代わり映えのしない通路を歩き続けると、突然前方に錆び付いた鉄の扉が現れた。その光景は禍々しく、開けるのを躊躇わせた。だが、確かにこの中から声が聞こえてくる。
「ウウゥゥ…ダレ…カ…」
「モ…ォ…イヤ…」
僕はその声に導かれる様に扉を開けた。
ギィィィィ……
嫌な音をたて、扉が開く。