地獄の番犬
「キュアオール!」
エリナが叫んだ。
カイトの傷がみるみるうちに回復していく。
「おい!もうへばったんじゃないだろうな!戦いは始まったばかりだぜ!」
地獄の番犬ケルベロスの攻撃を盾で受け止めながらグレンがカイトの方を振り返る。
その隙を逃さず、ケルベロスの2本目の首がグレンに襲いかかる。
「グレン、右〜!!」
カイトの叫びが虚しく響き渡る。立ち上がったが、とても間にあわない!
「グレーン!!」
カイトは友の危機に思わず目を閉じた。
と、カイトの耳に響いてきたのはケルベロスの咆哮だった。
カイトが目を開けるとケルベロスの目に銀の矢が刺さっている。
ケルベロスは堪らず、後ずさった。
「グレン、あんたこそ油断してんじゃないの〜?」
リードベルトが自慢の弓をひらひらさせながらニヤニヤしている。
全く嫌な女だ!だが助かった!
体勢を持ち直すと、ケルベロスが3本の首を仰け反らせた。ヤバイ!あの態勢はさっき俺がやられたヤツだ!
前衛にいたカイトとグレンの正面と両側から、同時に3本の首が襲いかかる!
カイトは襲いかかる衝撃に身を備えた。
「聖女の大盾!」
エリナが叫び、カイトの周囲で凄まじい衝撃音が響いた。
カイトとグレンの周囲に見えない盾が張り巡らされ、ケルベロスは血を流しながら悔しそうに唸っている。
「火なる精霊よ、我に力を与え給え……エクスプロージョン!!」
その隙を逃さず、マリアベルがようやく魔法の詠唱を終え、巨大な炎の玉が地獄の番犬の巨体を包みこむ。
グオオオオオォォォ!!!
炎系の最高レベルの魔法だ。流石にかなりのダメージがあった様で、巨体がよろめいている。
まるで、少女のような小柄なマリアベルは肩で息をしながら叫ぶ。
「ほらほら、チャンスだよ〜!ガテン系の皆さん。ボクの分までよろしくね〜。」
全く、減らず口と魔法の腕だけは一人前だ。
だが、お陰でチャンスは巡ってきた。
「いくぞ!グレン!」
俺は両手の刀剣を構えた。右手には菊一文字、左手には虎徹。どちらも名刀だ。この刀の使い手だった友のことを思い出す。
(セシル…、俺の事を守ってくれよ!)
「グランドクロス!」
グレンが剣と盾を交差させると同時に、光の筋がケルベロスの身体を十字に切り裂く。
ナイトのグレンだけが使える聖属性攻撃だ。
更に、ケルベロスの頭上から無数の矢の雨がふり注ぐ。
「スプラッシュアロー!」
この技は…、
「何やってんのよカイト!早くきめてよね!」
リードベルトが皮肉っぽく叫ぶ。
「最後は決めてくれよ!」
グレンがニヤリと笑う。
「カイト、頼むわよ!」
「早く決めるです〜!」
俺にはこんなにも頼れる仲間がいる。絶対に負ける気がしない!
皆の声援を背に、俺は両手の刀を構える。
「くらえ!最終奥義………。」
プツッ……………………