第1話 『異世界に放置されました』
これは、一人の三十路男の物語。
モンスターマスターとなり、異世界を大冒険する予定の、おっさんの物語。おっさんのワンダーランドストーリーである。
見上げる程に巨大なイカの化け物がいた。
轟く爆音、爆ぜる爆炎、燃えるイカ。
三十路男が従えるは三体の魔物。
黒いヘルメットを被る白い餅みたいなヤツ。
紫色の毛玉みたいなフワフワしてる鼠。
見てると無性にパチンコを打ちたくなる、小さな銀色の球体。
おっさんはひょっとこを五千倍くらい憎たらしい感じにした満面の笑みで敵対する魔物を煽る為に両手の中指を立てながら笑う。
「ひゃあはははははははははははははははっ!」
こんな残念な感じのおっさんの物語……開・幕!
……の内弁当! (笑)!
◇◇◇
そこは真っ白い何もない空間。
いるのは俺一人、しかし何処からともなく女性の声が聞こえてきた。
「私はこの世界に住まう精霊エリフィオーレ、貴方を異界より召喚した者です」
異世界召喚、この真っ白い世界といいあの異世界ファンタジーラノベみたいな話がまさか本当におこるとは。
36歳で普通に社会で働いてる身としてはちょっと色んな人らに迷惑をかけてしまいそうな展開に内心困っているぞ。
しかしそんな事を知る由もない、姿なき女性の声は話を進める。
「異界より召喚された者にはスキルと呼ばれる特別な力が与えられます、その力を持ってとある人間の王国を救ってほしくて……え?」
「ボソボソ……ボソボソ」
なんか落ち着いた感じで話してた声の主、その主にだけ話してる別の何者かの声がボソボソと聞こえた。
一体何を話してんだ?
「え、ウソ……コイツじゃないの!? しかも既に王国の方で勇者は召喚してるですって……」
おい。
「ボソボソ」
「いやどうするって言われても、魂はここだけど既に身体はこっちの世界に召喚しちゃってるし。元の世界に戻すとか私達でも無理だし」
まるでマイク機能を切り忘れた配信チャンネルが如く、聞けば聞く程にストレスが爆上がりする話をどんどんしてる謎の声。
そして「え~コホン」と実にわざとらしい前置きをしつつその声の主が俺に語りかけてきた。
「貴方は勇者として異世界に召喚される予定でしたが……世界は平和になりそうなのでその必要もなくなりました、そして貴方はあの……元いた世界で死んだという事もあり、こちらの世界に転生する予定でもありまして」
「異世界召喚なのか異世界転生なのかハッキリして下さい」
なんか元の世界に戻せない言い訳を上手いこと作ろうとしてんな、この謎の声。
てか俺死んだの? 労災……はまあ死んだからいいとして、有給とか1カ月分以上使えてなかったのに!
勿体なさ過ぎるだろ、クソ。
「え~つまりですね……まあ異世界に召喚するのですが特にダルい使命とかないので気ままにこの世界を漫遊しちゃってて下さい」
「な、投げやりすぎじゃないですか?」
そんな俺の言葉を……謎の声の主は無視した。
「あっそれと旅の為に必要な物は旅行カバンに入れてます、服装もなんか冒険者っぽい感じのを用意してますので着替えて下さいね。あと転移したらゲットできるスキルの詳細も確認しといた方が良いですよ、ステータスと念じれば大体分かりますから。それでは良い異世界ライフを~~」
「あの、ちょっとー!?」
本当にこっちの話とかガン無視で言うことを言い終わったら問答無用で意識が遠くなってきた。
そして俺は異世界に送られた。
◇◇◇
意識が戻ると俺は全裸だった。
なんでだよ、そう言えばあの変な女の声が着替えろとか言ってたのを思い出した。
そそくさと着替える。
ついでにその衣類やらの確認した。
ダークグリーンを基調とした丈の短いジャケット。麻色の長袖シャツ。幅広の革ベルト。空の小型ポーチ。
ベルトは小型ポーチや道具を取り付けられそうな作りになっていて実用性を感じさせる。
ダークカラーの細身のパンツに茶色の革製ロングブーツ。
以上だ。確かに着てみた感じ、冒険者みたいな姿のおっさんが爆誕した。
見た目は弱そうだけどな。
そして周りを見る、普通にのどかな草原だ。
木々が数本ずつ生えてるのが点在していて空は青く、明るい太陽が昇っている。
どちらも地球のそれと大差ない、本当にここが異世界なのか?
それとあの声が言ってたように本当に俺の傍には旅行カバンも衣類と共に置かれていた。
茶色の頑丈そうな作りでキャスター付きの移動の時に便利そうな方の旅行カバンである。
もう一度周りを見るが特に危険そうな生物も見当たらない、異世界と言う触れ込みだし魔物とかモンスターなんてのもいたりするのか?
「う~ん、いたら怖いし変に妄想するのはやめとこ」
とりあえず近くに生えている花を観察してみる、日本で見た記憶はない花だな。
花の形が瓢箪みたいで色は黄色だ、色合いは似たのを知ってるが形が特徴的だな。
そしてよく見るとその下にクワガタみたいな頭を持ち、身体はムカデみたいな虫がいた。
しかも全身がメタリックブルーだ。
「流石にこれは日本でも外国でもいないだろうし……ど、どうやら異世界に来たのは本当らしいな」
ならあの声が言っていたステータスとやらは本当なのかを確かめる。
ステータスと小さく口にすると青くて四角いウィンドウのような物が本当に現れた。
名前:和盈真
種族:日本人
性別:男性
年齢:36歳
職業:無職
レベル:1
スキル
『魔物ステッカー』
目にした魔物のステッカーを生成する、そのステッカーに触れると対象の魔物の様々な情報を得る事が可能。
『魔物のエサ』
魔物が好物とする様々な食べ物を生成する、その食べ物の詳しい情報があればより高品質の物を生成可能。
「む、無職はあんまりだろ、一応は工場勤務で働いてたっての」
工場と住んでるアパートの往復だけの社会人生活だったけどな、薄給過ぎて遊ぶ余裕とかなかったんだよ。
「本当にゲームみたいだな、ステータスってわりに能力が数字で分かったりはしないのかよ」
まっスキルってヤツの能力が分かるだけマシか。
正直どっちも今は使い道が無さそうだ、次に俺は旅行カバンの中身の方を確認した。
中には手袋にロープに毛布、中身の入った水筒、それに食料として乾パンが入った袋があった。
それと最後に──
「おっコイツは地図か? かなり簡素だがこのバツ印が今俺がいる所か……なら西の方に行けば……」
ふむふむ、どうやら人間の住む町か村はそう遠くないらしい。良い異世界ライフを~とか言ってたし、本当にテキトーに生きても問題ないんだよな?
それなら危険の少ない場所に召喚されたのかもな、けどどのみち放置するなら、もう少し安全な街中とかに召喚してほしかったが。
そして異世界での初日はほぼ徒歩と休憩で終わった。
夜空の星々は驚く程綺麗で、これまで社会人やってた頃は碌に空すら見上げていなかった事を思い出した。
温かいコーヒーで一杯、とかやりたかったが、そんな物はないのでカンパンと水筒の水で我慢した。
それでも気分は……悪くない。
「本当に色々と起きたが、まあ何とかなるよな……多分」
そう言う事にして俺は旅行カバンから毛布を取り出す。
点在してる木を背にして毛布を被って寝た。
そして翌日。
なんかね……凄いガラの悪い人達に囲まれていた。
見た感じ、盗賊みたいな強面達だ。
「頭~こんなおっさんでも商品になるのか?」
「ああっ五体満足なら鉱山でも奴隷でも使えるからな、まあ高値は期待出来ねぇが」
「ヒヒッまあ攫ってきてるから元値はタダみたいなもんだし、大丈夫ですよ~」
う~ん、どうもこの連中は盗賊ではなく人攫い。
つまりは奴隷商みたいなヤツらって事らしい。
俺の異世界ライフ、何とかならないみたいだよ。
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