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【完結】王女の推しは暗殺者~標的の私が彼の最愛に変わるまで~  作者: きゃる
エピローグ〜マジLOVE966(クロム)%
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本気で愛してる 2

 兄の元を離れた私に、今度はタールが手を伸ばす。


「カトリーナ様、お誕生日おめでとうございます。次は俺と踊ってください」

「ええ、喜んで」


 国家騎士団長の彼は、本日非番みたい。

 金糸の入った明るい黄緑色の上着と、白いトラウザーズという私服だが、童顔なので制服よりも可愛く見える。


 タールは元々公爵家の次男。

 小さな頃から叩き込まれているのか、ダンスも上手だ。


「カトリーナ様、もっとこっちへ。怖がらずに、身体を預けてください」

「そんなにくっつかなくても、踊れるわ」


 見た目は細いが筋肉質のタールは、私を楽々支えている。ターンの際も私を大きく振り回す。


「わわっ」

「だから言ったでしょう? もっと寄ってくださいって」


 これ以上振り回されてはたまらないと、笑顔で距離を取る。

 たちまちタールはしゅんとして、(しか)られた子犬のような顔をした。


「タールったら」


 ついフェリーチェが浮かんで、私はクスクス笑う。


「カトリーナ様。俺、やっぱり諦めきれません。彼より強くなって、申し込みます」


 彼とはクロム様?

 申し込むとは……当然、ダンスのことよね?


 タールがそこまでワルツが好きとは、知らなかった。

 クロム様はなんでもそつなくこなすけど、別に踊りの名手というわけではない。私がうっとりしていただけで、強さは関係ないはずだ。


「そう、頑張って」


 いくらクロム様ひとすじの私でも、ダンスの相手は断らないのに。変な遠慮をするなんて、おかしなタール。


「……(にぶ)い」

「えっ!?」


 ――失礼しちゃうわ。これでもダンスは得意よ!


 ほんの少し意地になり、その後は申し込まれるたび、片っ端から受けた。


「ふう~。さすがに疲れたわ」


 休みなく踊り続けて、くたくただ。

 私は休憩しようと、テラスに向かう。




 春の夜は少し涼しく、会場の熱気で火照(ほて)った身体を冷ますにはちょうどいい。庭に続くテラスに人影はほとんどなく、空には星が輝いている。


 白い手すりの向こうには、あの日と同じ満月が浮かぶ。

 月明かりを背に手すりにもたれるのは、私の一番好きな人。


「クロムしゃま……」


 夢見るように幻想的なその姿。

 顔の角度が変わり、赤い瞳が月光に照らし出された。

 その瞬間、私の心臓が大きく()ね上がる。

 

 ――ああ、やっぱり彼が好き!


 整った顔や均整の取れたその身体、響く低い声が好き。冷たいところや素っ気ないところ、ムッとした表情や優雅な仕草、ぶっきらぼうに見えるけど、実は優しい性格も。そして、彼の笑った顔が好き♡


 私にとって、彼は好きの(かたまり)だ。つまり、全部がイイ――。


 長年の想いがほとばしり、たまらず彼に近づく。

 高鳴る胸に手を置いて、端整な顔を見上げた。


 この世界は綺麗な人で(あふ)れているし、性格のいい人もたくさんいる。

 だけど私の特別は、なんと言ってもクロム様。


 100%、1000%。

 いいえ、せっかくだから966(クロム)%愛してる!!


「クロム様、好き」


 断られるのを承知で、本気の想いを口にした。


『本気』と書いて『マジ』と読む。

 私の彼への想いは、いつだってマジLOVE966%!!

 

 クロム様は無言で、私の頬に手を添えた。

 そのまま親指で、目元を優しく()でてくれる。


「クロム様……」


 自信を失くした私に、勇気を与えてくれた推し。

 生まれ変わった世界で最愛の人の側にいられる喜びを、私は今夜もまた()みしめる。

 

「クロムさ…………え?」


 光る赤い瞳に太陽の模様が見えた気がした。

 確認しようと私は彼の胸に手を置いて、つま先立ちになる。


「まあ」


 指先に触れた、たくましい筋肉。

 鍛えられた胸板が気になって、他はどうでもよくなった。

 ため息をついた私は、彼の胸にさりげなく頬をすり寄せる。


 ――素敵♡ このままずっと、こうしていたい……。


 けれど突然、クロム様に(あご)をすくわれた。

 驚いて目を合わせると、切れ長の目が細まった。

 そして――――。


「え? ええええ~~!?!?」


 びっくりした、なんてもんじゃない。

 彼が私の唇に、サッと()くようなキスを落としたのだ。


「俺も。とっくに好きだと言ったら?」


 あまりの衝撃で、声が出ない!


「カトリーナ……好きだ」


 ――これってつまり両想い? 私の気持ちが、推しに届いたってこと!?


「クロムしゃまああああ♡ 私も! だいしゅきいいいいい♡」


 興奮して、何がなんだかよくわからない。

 とにかくたまらなく幸せで、生きていて良かったと思う。


 生きることは苦難の連続で、生き延びるのはもっと難しい。

 だけどたまにはいいことがあるし、苦労を乗り越えた先には、きっと幸せな未来が待っている。


 私と同じくらい、クロム様にも幸せだと感じてほしい。

 たとえまだでも、これから一生懸けて、私があなたを幸せにするから!!


 見上げた先には、大好きな人の笑顔。

 赤い瞳が私だけを映して、楽しそうに(きら)めく。


「クロム様、しゅき♡」

「ああ」


 今度はしっかりと唇が重ねられた。

 唇の輪郭(りんかく)をたどった彼の舌が、やがて中に侵入する。


「……んー、んー」


 苦しくて、クロム様の胸をどんどん(たた)く。

 初めてのキスが大人のキスで、息継ぎのタイミングがさっぱりわからない。


「はあ、はあ、はあ……」


 必死に呼吸する私の前で、真っ白な歯を見せてクロム様が笑う。そのいたずらっぽい笑みは少年のようで、なぜか涙がこみ上げた。


 私の願いが、一つ叶った!


 感動に震えて(こぼ)した涙を、彼が唇で丁寧に吸い取ってくれる。でも私には刺激が強すぎて、心臓がとまりそう。


「あ、あの! これだとドキドキしすぎて、死にそうです」


 ――もしやクロム様、私のキュン死を狙っているのでは!?


 すると彼は私を抱き寄せ、耳元で(ささや)く。

 

「いいよ。死ぬほど愛してあげようか?」

「ぎぃやあああああああああああ~~~」


 静かな夜の庭園に、私の絶叫が響き渡る。




 ローズマリー国自慢の、おしとやかな王女。

 そんな私が『ローズマリーの紫の薔薇』という呼び名を返還するのは、そう遠くない日のことだろう。




 Fin

いつもありがとうございます(o゜▽゜)

先の見えない世の中だからこそ、推しに救われたカトリーナと、彼女のおかげで変わるクロムの話を書きたくて。

最後までご覧いただき、本当にありがとうございました♡


優しいあなたに感謝をこめて。

                    きゃる


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