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Angels, or Not__  作者: 鬼王丸
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1/10

1. エンジュ

私たちは力を手に入れた。


それは私たちの意志ではなく、

望むも望まざる関係なく、無作為に選ばれた。


合理も不合理もなく、均等に。


そして結果から逆説的に言うならば、

『凡庸』であるが故に、選ばれたようにすら思える。


この力は、多くを導く力になるという。

唐突だ。まるで想像もつかない。


でも。

その時が来て、私達は自分達を何というだろうか。

何と言えるだろうか。


私たちは…。


そう。私たちは…。

星が見えていた。

いや、星なのかは定かではない。

ただ無数のその瞬きは、星のそれのように見える。


ごく在りがちな安っぽい窓ガラスと、如何にも産業的に繰り返すだけの同じ構造の廊下。

均等に添えつけられた窓ガラスから、かすかな光が漏れていた。

今は夜のように薄暗く、ひときわ星の輝きを強調していた。


産業的で飾り気のない廊下。

等間隔に見える室札、そして掲示物。


学校の廊下のようだ。


少女は廊下にぺたんと座り込んで、外の景色を見ていた。

年のころは小学生かギリギリ中学生になっているかどうかくらいだろうか。

衣服もパッと見ても分かりやすい学生服だが、

まだ発育前の体に纏っているものだから、幼い容姿が強調されているようにみえた。

栗色のショートヘアに包まれたその顔は、まだ幼さを強く残している。


少女はピクリとも動かない。

見ていたというより、そちらを向いているだけと形容した方が正しい。

その目に生命の輝くはなかった。


どこからともなく声が響いた。


「エンジュ、起きなさい。」


男性と思われる、厳とした、だが温かな声。


「エンジュ。」


再び同じ主の声が響くと、少女の体が仄かな光を放つ。


「さあ、起きなさい。もう動けるはずだ。」


三度、同じ声が響くと、その少女の纏っていた光がパァン!と音を立ててはじけた。


「う…、え…?…う、うぅ」


そのエンジュと呼ばれた少女は、目の焦点が合わないようで、頭をぐるぐると回したが、

ほどなくして朦朧とした意識から回復したようだ。


エンジュの意識は十分に回復したようだが、それでも頭をぐるぐると回した。


「…ここ、どこ?」


まるで見覚えがない。

いや、見覚えだけで言えば、この簡易で殺伐とした真っすぐとした廊下が、

学校のそれであることは、幼いエンジュでも理解することはできた。


「誰か…いないの?」


誰もいない。物音一つもなかった。

学校という、いつでも騒がしい空間から想像もつかないほどに静まり返っている。

エンジュはその非日常な空間に、一抹の恐怖を覚えた。


エンジュが声を上げてから、少し間を開けて、声が聞こえた。


「エンジュよ。聞こえるか?」


先ほどの男性の声だ。


「聞こえる…。聞こえるよ! エンジュ、聞こえるよ!」


言葉に出して気付く。少女は、自分の名前はエンジュというのだと。

男性の声は続ける。


「エンジュよ、黒き翼を持つ者を探しなさい。」

「黒き翼…?」

「そう。黒き翼だ。」

「うん。よくわからないけど…、よくわからないけど、わかった!」

「…良い子だ。」


良く分からないとは、今の状況もひっくるめて出てきた言葉なのだろう。

エンジュはキョロキョロと見まわして言う。


「ねえ、おじさん。ここはどこなの? 星がきれいだけど…。」

「私には時間がない。説明をしている時間はない。」


そう言い終わるか否か。

エンジュの数メートルのところから黒い歪みが生まれ、

数メートルはあろうかという物体がそこから這い出してきた。


それは巨大な異形の生物。

無数の触手を持っていて、それを縦横無尽に動かし、

棘や口と思われるものがビッシリと生えている食虫植物のようなもの。

その口と思われる場所から謎の粘液を垂らして、無数にまき散らしている。


その異形がエンジュの姿を捕捉するなり、威嚇して咆哮した。

「ウギョロロロロロロ!!!

 アビャビャビャビャビャ!!」


「ふえええぇぇぇぇ!!!

 なにこれ気持ちわるいよぉぉぉぉぉ!!」

エンジュはそういって泣き出してしまった。


「…エンジュよ。…戦いなさい。」


その声は…。

エンジュには全く届いていないようだ。


「ふえええぇぇぇぇ!

 こんなのムリだよぉぉぉ!!」


その間にも、謎の生命体の無数の穴という穴から唾液のような液体が撒き散らされ、

様々な場所から生えている触手らしきものが、ビタンビタンと音を立てている。


「エンジュ、戦いなさい……」


その声に対してエンジュは…。


最早話を聞ける状態ではないようだ…。

泣きじゃくって、まるで声が届いていない。


「やれやれ。

 こんなところで残り少ない力を……」


そのどこからか聞こえる声は、嘆息をもらしたようだった。

そして、次の刹那である。

まるで世界が光ったようだった。


「おうおう!

 ワレ何勝手にワシらのシマに入ってくれとんのや!

 しばくぞワレ!」


その声は、先ほどの異形の生物がいた方向から聞こえた。

もう異形の生物にはそこにはいない。

だがその代わりに、トサカの生えたヒヨコがそこにいた。

しかしデカい。体長は2メートルはあろうかという大きさ。そして目つきも非常に悪い。


「エンジュ、戦いなさい……」


声の主はその三度、淡々と告げる。

エンジュは何か空気が変わったのに感づき、多少の正気を取り戻した。

うん、と返事をしてエンジュは、腕で乱暴にゴシゴシと涙を拭いた。


「オウオウ、ナニシカトしてくれとんじゃ!」


トサカのヒヨコは、まるで田舎ヤンキーのように絡んでくるが、

エンジュは全く取り合うつもりはないらしかった。


「これと、戦えばいいのかな…?」


エンジュは外見がすっかり変わった、おそらく異形の生物だったヒヨコを見上げて言う。

不思議と戦うという行為に抵抗はなかった。


「エンジュよ、黒き翼をもつものを探しなさい。

 その者達が進むべき道を示してくれるだろう。」

「ねえ、おじさんこれ倒せばいいの?」


エンジュはキョロキョロして返答をしばし待つが、その問いに声が答えてくれはしなかった。

一方で…


「しばくぞワレ!」


トサカの巨大ヒヨコは、胡散臭い言葉遣いですごんでくる。

エンジュは全く怖くはなかったが…。


「良く分からないけど…。」


若干俯いたかと思ったエンジュは、意を決したように。


「良く分からないけど…!

 声のおじさんがいいって言ってたから、あなたをぶっ飛ばします!」


そういうと、トサカヒヨコに向けて、びしっと指をさして言い放った。


「ほう、何じゃ! やる気か!!」


ヒヨコは臨戦態勢をとった。

そのヒヨコ然とした短い脚で腰落として若干翼を広げる。


その姿はまるで。


まるで、強そうに見えない。

ただの的である。


だがエンジュは容赦しなかった。


ヒヨコより、よっぽどまともに腰を落としたかと思うと、

数メートルはあろうかという距離を一足飛びで詰め、


「必殺のぉ!」


エンジュはこぶしを握り締めて、弓のしなりにも似たように腕に力を溜めると、


「エンジュ・パァーーーーンチ!!!!!」


一息にそれをヒヨコのおなかにぶつけた。


「うごふ!!!」


ヒヨコがその衝撃にうめく。

その威力は相当なものだった。

ヒヨコはその巨体から躱せるわけもなく、なすすべもなくそれを体に受けると、

廊下の壁に数えきれないほどバウンドしたかと思うと、階段らしき場所に入り込んで見えなくなってしまった。

恐らく別の階でも跳ね返っているだろう…。そのくらいの勢いだった。


あの愚鈍そうな巨体と言い、この威力と飛距離ではしばらくお目にかからずに済みそうだ。


「えっと」


エンジュは振り切った腕を元に戻す。


「おじさん。…どこ?」


エンジュは周囲を見回す。返事はない。

もとより姿など無かった声だけの存在であったので、一応探してみたのだったが、当然見当たらない。

いや、見たところでわかったのだろうか。


それから何度か声を掛けてみるが、謎の声から返事はなかった。

無機質な学校の廊下をうろついてみるが、何もない。

ただただ長い、これ以上ないくらいに広いように思えた。


エンジュはだんだん心細くなって、何度も声をかけてみるが、

それ以上、謎の声が聞こえることはなかった。


「うう、誰かぁ…誰かいないの?」


そんな中、謎の声の言葉を思い出していた。


「黒い翼の人…」


黒き翼をもつものが進むべき道を示す、と。


ふと考えると、エンジュは何もわかっていなかった。

今いる場所、どうやってここに来たのか、なぜここにいるのか。


もっと年齢を経ていれば、もっと他のことも考えていただろうか。

自分が何者なのか、どんな過去があったかとか。

だか幼いエンジュは、まだそれ以外のことを正しく整理するほど大人ではなかった。

ただ、自分のことも名前以外のことは何もわからないというただそれだけだった。


廊下をうろついている中、そこに一つ覚えのあるものが目に映った。


「シュスラン!」


そのシュスランと思しき少女は、行き倒れるように廊下に倒れていた。

エンジュは、急いでその少女に駆け寄っていった。


昔考えていたゲームの供養ageです。

忌憚無き意見頂けると嬉しいです。


どなた様でも弔いに参列頂けると幸いです(´人`)チーン

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