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86 カスマンド貴族にもなっちゃった

 カスマンドの王都ジャガンダールへ出発するに際して、アランはこの村の広場に大々的に積み上げられた収穫物を盗賊たちの手から守る為に、2頭のグリフォンを置いて行くことにした。


 ガルーダを通して、毎日交代でこの穀物の山の前で昼寝をしていてもいいから、これを盗みに来た者は容赦なく始末しろと伝えた。


 この用に割り当てられたグリフォン達は不服そうな態度を隠そうとしなかったが、交代で番をする必要がない時にはいつものように自由に過ごしていいんだと言い聞かせると、納得したようなそうでないような複雑な表情でそれぞれ『ケ~ッ!』と鳴いた。


 続いて馬を回送する役を仰せつかった御者たちを出発させ、護衛用のグリフォンを1頭指名してこれにも御者や馬から見えない高度で飛びながらついて行くことを厳命した。


 最後に乗用馬車4台に丈夫な縄をかけて4頭のグリフォンに運ぶように命じたが、これは既に経験のある個体が多かったのでスムーズに事が運んだ。


 そして、それらのグリフォンと一緒にアランを乗せたガルーダ、カルアを乗せたルージュ、リリックを乗せたコメットが大空へと舞い上がった。


 グリフォンの飛翔速度は圧倒的である。


 ものの3時間と経たないうちにカスマンドの王都ジャガンダールへ到着したアラン一行は、デイマークス辺境伯の王都の邸に舞い降りた。


 空からの来訪者に驚愕して出迎えも出来なかった辺境伯邸の使用人たちを責めるのは酷というものだろう。


 都合7頭のケームが豪華な造りの馬車4台と共に突然空から舞い降りて来るなどと、誰が予想出来ようか。


 恐怖に震える執事を一人捕まえて自己紹介をしたアランは、早速で申し訳ないが伝書ツバメをグルリアの辺境伯邸に向けて飛ばして欲しいと依頼した。


 持たせる親書の内容は簡潔にして明解、国王陛下への謁見の取次ぎを依頼するものだった。


 もし、多忙で依頼の内容を引き受けられない場合でも心配ない旨を親切にも併記してあったのだが、その場合は已む無くタランテロード公爵にお願いすると書き綴ってあった。


 これで、デイマークス辺境伯は王都の邸にすっ飛んで来ることだろう。


 その上でどんな文句を言われるかは想像に難くないものの、あまりにそれが酷いようなら名誉男爵を返上するつもりのアランであったから、恐らくは辺境伯に勝ち目はないに違いない。











 想像通り、デイマークス辺境伯は僅か1日で王都へとやって来た。


 まるで自分を脅迫するかのような伝文を送り付けて来た麾下の名誉男爵の非礼を咎めてやろうと勢い込んで馬車を飛び降りたデイマークス辺境伯は、目の前の光景に一瞬で心が折れた。


 そこにはアラン・リード名誉男爵も、妻のカルア・ソネット・リードも確かに居たが、それ以上に辺境伯の心を捉えたのは4台の乗用馬車の脇に思い思いの格好で佇んでいるケームの群れであった。


 アランがケームを完全に飼い馴らしていることは、何度も人間離れした業績を上げてきていることから当然辺境伯も知ってはいたが、話に聞くのと実際に目にするのとでは全く受ける印象が違った。


 当然である。


 アランが騎乗用に常に呼び寄せる個体一頭だけですら、恐らくは辺境伯自身が持つ騎士団や私兵団など簡単に屠ってしまうほどの戦闘力を持っているのだ。


 それが7頭である。


 これが現実の光景だとは信じたくなかったが、麾下に加えた名誉男爵の常識外れな行動を鑑みるに、白昼夢として片付けることなど出来ない相談だった。


 まず第一に、用があれば自分を名誉男爵に叙した大の恩人であり、カスマンド王国屈指の権勢を誇るデイマークス辺境伯に対してはアラン自身から出向くのが常識以前の問題である。


 まさか自分が王都にまで引っ張り出されるなどと思いもしていなかった辺境伯だったのだが、あろうことか都合が悪ければタランテロード公爵に用を頼むと言われては話が全く違ってくる。


 もし仮に、辺境伯がアランの要請を断った場合には、この名誉男爵は躊躇することなくタランテロード公爵の元へ駆け付けて所期の目的を達することだろう。


 そうなった場合、アラン・リードという名誉男爵の帰属は辺境伯派閥から公爵派へと変わる可能性が高くなる。


 なんとなれば、アランの配慮によって50名を超すメイド達を人身売買組織カイエリアから奪還したばかりか、その元凶をカスマンド国内から駆逐したのもアランである。


 その功績に対して、タランテロード公爵の名に於いて男爵に叙することなど簡単なことである。


 名誉男爵と男爵では、一般の民衆の受け取る印象はさして大きな違いはないが、貴族同士の関係においては天と地ほどの開きがある。


 そんなことをされては、、デイマークス辺境伯の面目は丸潰れであり、それより何よりカスマンド国内の貴族の勢力図が大きく書き換えられる可能性が高い。


 アラン・リード名誉男爵の持つ有形無形の力はそれほどの価値を持っているのである。


 そんなことを指を咥えて見ていることなど出来るはずがない。


 例え、現在は他国へ出ていようと自分の麾下の貴族の一員を掠め取られては適わない。


 瞬時の判断で、デイマークス辺境伯は馬車を駆って王都へとすっ飛んで来たのだった。


 結局、満足に叱声の一つも上げられないまま辺境伯は国王との橋渡しを請けざるを得なかったのである。


 ただ一点、辺境伯の読み間違いがあったとすれば、グルリアを監視する目が異様な速度で王都ジャガンダールへと向かう辺境伯の馬車を捉えていたことだろう。


 平静な心境であったなら、デイマークス辺境伯と言えどもそんな失態は犯さなかっただろうが、結果としてタランテロード公爵を意識するあまり公爵を王都に呼び寄せることになってしまったという事実に、まだ気付いていなかった。











 ジャガンダールはカスマンドの王都である。


 カスマンド王国としての政治経済の中心である首都ナンバサとは違い、ジャガンダールは歴史と伝統を重んじる文治の都であった。


 だから、貴族たちもここでは政治的な駆け引きは慎むのが常識であったし、国王の御前に伴えるのも2人までと決まっていた。


 アランの要請を受けて、辺境伯はあらゆる権力を駆使して国王の謁見を賜る態勢を整えることに奔走した。


 普段なら考えられないほどの短期間で全てのお膳立てが整ったことに多少の疑念を抱きながらも、辺境伯はアランに明朝謁見が叶う旨を告げた。


 アランが辺境伯に謁見の仲介を依頼したのは一昨日であった。


 慌てて辺境伯がジャガンダールへとすっ飛んで来たのが昨日である。


 それから様々な工作や働きかけをして謁見が叶うのが明日だということに、アランは正直信じられない思いであった。


 通常、お目見え以下の下級貴族が国王の謁見を望んでも、早くてひと月、遅ければ半年は待たされるのが当たり前のことであった。


 それが、わずか2日で叶うという。


 どんな強引な手法を取ったのか興味が湧きもしたが、色々と辺境伯ならではのルートがあるのだろうと思って、そこはおとなしく自重することにしたアランであった。


 謁見当日、デイマークス辺境伯とアランが控えの間で待たされていると、タランテロード公爵家の家令がさも偶然行き合ったといった風情でアランに慇懃に挨拶をしてきた。


「これは、アラン・リード名誉男爵閣下。この度は当家の大事にご尽力を頂戴しましたこと改めてお礼申し上げます」


 カスマンド王国の貴族序列筆頭タランテロード家の家令ともなれば、数多居る名誉男爵如きに一々挨拶などする事は無い。


 それは当然の事として周知されていた。


 それが、デイマークス辺境伯麾下であり、ましてや自国の出身でもない人族の名誉男爵に丁寧に頭を下げたのである。


 何かある、とデイマークス辺境伯が思った時、控えの間の扉が開かれて取次ぎ役のテンデール男爵が謁見の間への案内を告げた。


 謁見の間で国王の臨席を待つ間、片膝をついて頭を垂れている横に同じ姿勢を取る者が現れた。


 将軍、宰相以下文武の官僚を引き連れて謁見の間に現れたカスマンド国王は、玉座に着くが早いか貴族の礼を取る者達に声を掛けた。


「その方がアラン・シュネーデルン・リード伯爵であるか」


「はっ!」


 たったそれだけの遣り取りで、辺境伯はこれがただ事ではないことに再び気付いた。


 アラン・シュネーデルン・リード伯爵とは、そも何者なのか。


 混乱した頭でそう考えていた辺境伯に、国王が声を掛けた。


「謁見の取次ぎの労、大儀であった、デイマークス辺境伯」


「はっ」


「辺境伯への助力、これまた大儀であった、タランテロード公爵」


「はっ」


「3名共に面を上げよ」


 国王の許しを得て顔を上げた3名は、互いに素早く目を動かして確認を済ませると国王を見つめた。











「アラン・シュネーデルン・リード伯爵。詳細はロマンダリア国王陛下より聞き及んでおる。その方の為した事、朕が手を拱いておった事でもあった。特に礼を申す」


「忝いお言葉、臣は恐縮至極にございます」


 しれっとしてカスマンド国王に応答する名誉男爵を、底知れぬ怪物のように感じたデイマークス辺境伯は、御前であることを忘れて私語に及んでしまった。


「キミは私が名誉男爵に叙したはず。何故伯爵などと・・・」


「コホン!」


 その場まで案内をしてきたテンデール男爵が、辺境伯の非礼を咎めると同時に御前であることを再認識させる意味で咳払いをした。


 それを受けて辺境伯も自分が働いた非礼に思い至って、国王に対して平伏した。


「よい。特に許す」


 国王の一言で姿勢を戻した辺境伯に向けて、宰相が捕捉の意味を込めて語った言葉にデイマークス辺境伯は驚倒した。


「アラン・シュネーデルン・リード伯爵は、我がカスマンド王国デイマークス辺境伯一門の名誉男爵であるが、チャーバント攻略とケスガイゼ解放という偉業を達せられた故、特にロマンダリア国王陛下より伯爵位を賜った上にシュネーデルンというロマンダリア国王の諱を下賜された。それで宜しいかなリード伯爵」


「畏れ多きことなれど、この度ロマンダリア国王カール・ハインツ・ネッケルト・シュネーデルン・カリスワッチ・ラ・デルモンド・ソル・カラチ・ド・ロマンダリア陛下よりロマンダリア王国伯爵位と共に諱を頂戴しましたこと間違いございません」


 アランが謹んでそう奏上すると、カスマンド国王は片頬に笑みを乗せて言った。


「リード伯爵は、元々カスマンドはデイマークス辺境伯一門の名誉男爵として爵位を受けておったそうな。相違ないか辺境伯」


「はっ、相違ございません」


 背中に冷たいものが流れる感覚を無視してデイマークス辺境伯は有体に答えた。


「本来我がカスマンドの爵位を持つ者に対して他国が爵位を授けるなど言語道断」


 辺境伯もタランテロード公爵も、国王のその一言で体が縮み上がる思いをしたままその場に平伏した。


「と、言いたいところではあるが、今回のリード伯爵の為した功績は余人には真似出来ぬのも事実。よってこれは不問に付すとしようか」


 緊張で強張っていた体が幾分柔軟さを取り戻す感覚に、ほっと息を吐いた辺境伯と公爵は、国王の次の一言でまたもや緊張を強いられた。


「されど、ロマンダリア国王陛下が、特に諱を許したことに対してはちと複雑な思いがあるのも事実である。この件、如何致すが良いかのぅ、宰相」


「ここは、陛下への謁見を取り次いだ者にご下問あるのが宜しいかと」


「ふむ、それも道理よのぅ」


 片頬に笑みを浮かべたまま、国王は辺境伯に問いかけた。


「本来はその方が一門である故に、特に差し許す。存念があれば申せ、辺境伯」


 既に頭が真っ白な状態の辺境伯は、当然のことながらまともな返答は出来なかった。


「畏れながら・・・」


 しかし、本来政敵であるはずのタランテロード公爵がそこに助け舟を出したことには、この場に居る誰もが驚きを禁じ得なかった。


「ロマンダリア国王陛下にはそれなりのご存念がお有り故に伯爵位を授けられたことは間違いございますまい。ならば、陛下におかれましてもそれにリード伯爵の功績を認めたと公にするためには…」


「ははは、ロマンダリアに負けるなと申すか」


「御意。更に、あちらは国王陛下の諱まで下賜されておいででございますれば」


「ふむ、皆まで申すな」


 そこで、カスマンド国王は威儀を正してアランを正面から見つめて、徐に口を開いた。


「カスマンド王国第31代国王カリスネート・トランザイム・エラスメッサ・オンデチウム・ラ・ポンテッソ・トロイジャール・カリサ・ド・カスマンドの名に於いて、そちをカスマンド王国侯爵に陞爵する」


 一同は呆気にとられて口を塞ぐことすら忘れてしまった。


 侯爵ともなれば、デイマークス辺境伯と同格である。


 更に、カスマンド国王は言葉を続けた。


「ロマンダリア国王が特に許した諱を朕もリード侯爵に下賜することとしよう。これよりはアラン・シュネーデルン・トロイジャール・リードと名乗るが良かろう」


「畏れ多きことなれど、これよりは国王陛下にお許しいただいた諱を我が名として共に生きて参ります」


「うむ」


「つきましては、チャーバントとケスガイゼの今後につきまして・・・」


「よい。その事なれば既にロマンダリアに実務担当者を派遣する旨連絡済みじゃ。侯爵の手はもう離れておる」


「はっ、ご英断感謝申し上げます」


 と、そこで国王は宰相を顧みて一言呟いた。


「リード侯爵は領地を持たぬ故、俸禄を下賜せねばなるまいの」


「御意」


「で、如何ほどが適当と考えるか」


「畏れながら、ロマンダリアでは伯爵位と共に年間200.000リュアンの俸禄が許されたと聞き及んでおりますれば・・・」


「なるほどのぅ、我がカスマンドでは侯爵に叙しておきながらそれ以下ではなるまい。よい。リード侯爵にはこれより年間300.000リュアンの俸禄を下賜するとしよう。異存など無かろうな、宰相」


「もちろん、ございませぬとも。侯爵は我が国内に全世界の物産が集まる仕組みを作って下されましたからな。上がりも悪くはございますまいて」


 国王と宰相が笑い合う姿を見て、アランは魑魅魍魎の巣窟に囚われた生贄になった気分がして来た。


そして、とにかくこの場を逃げ出すことだけを考えていた。


 但し、宰相の最後の言葉だけはしっかり覚えていて、1人心の中で愚痴を零した。


「それって、ボクの稼ぎじゃん…」












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