17 カリンさんより美人さん、1名確保!
戦意を喪失して呆然と立ち竦む5人を使って、失禁して臭いを放つリーダーと倒れている9人を縛り上げた後、アランは振り返って静かに若者に語りかけた。
「助けて下さいってお願いされたから、一応助けましたけど」
目が点になっていた若者の正気が戻ってきたのか、たどたどしくアランに向かって礼を言った。
「あの、何と言ったらいいか、とにかくありがとうございました」
それは、若い男にしては妙に甲高い声に聞こえたが、気にすることもなくアランは若者に問いかけた。
「名前が分からないってのは、話をする時お互いに不便ですよね? ボクはアランと言いますが、あなたの名前を伺ってもいいですか?」
若者は、気付かされた非礼を詫びるように、
「失礼しました。恩人に名乗りもしないなんて。 私、カルア・ソネットといいます」
と言いながら目深に被っていた帽子を取った。
すると、帽子の中に纏められていた髪が豊かにこぼれて、そこには長いブロンドの髪をなびかせた美女が立っていた。
透明感のある薄い色合いのブロンドの髪と頭に乗った丸い豹の耳が魅力を際立たせ、見る者を魅了せずにはいられないほどの美貌は、見目麗しい女性の多い獣人族の中でも抜きん出ていたが、アランの視線は彼女の胸に固定されてしまって、それより下がることを拒否していた。
わぁ、大きい!
こんなきれいでスタイルのいい人初めて見た。
カリンさんもよねちゃんも美人さんなんだけどさぁ。
レベルの違いってやっぱりあるんだなぁ・・・。
「えっと、カルアさんていうんだ。で、もしかしなくても女性ですよね、あなた」
「はい。今は仕方なくこんな恰好をしてますが」
「こんなに素敵な人なのに、なんでまたそんな野暮ったい服を着てるんでしょうか?」
「素敵かどうかはともかく、こいつらに攫われそうだったんで、仕方なく」
「攫われる?どうして?」
「前から目を付けられてたみたいなんですけど、こいつらのボスの愛人になれって」
「それはいけませんねぇ・・・」
アランの雰囲気が変わったのは誰の目にも明らかだったが、特に睨みつけられたリーダーは竦み上がってイヤイヤをしていた。
「さて、キミには訊かなくちゃいけないことができたようですね」
リーダーに向かって歩き始めたアランに、カルアが耳元で囁いた。
「そいつが言い出したことなんです。私を愛人にって」
「ほぅ、それはそれは・・・」
アランは振り返って相棒に呼びかけた。
「ガルーダ、ご飯の時間だよ」
散々脅して、破落戸達の元締めの名前とアジトを聞き出した後、
「さて、色々と余罪も有るだろうし、警備兵のところへ連れて行くかな」
と言ったアランに、破落戸達は真っ青になって震え出した。
「もう、何でも言うことを聞くからそれだけは許して下さい!」
意図せずに全員の声がハモるのを聞いたアランは感心しながら言った。
「ほぅ、何でも言うこと聞く・・・。ホントですか?」
期せずしてまたしても、意識のある6人が全員息を合わせたようにコクコクと頷いた。
「なんでそんなに警備兵のところに連行されるのを嫌がるんですか?」
「そりゃお前・・・」
リーダーの男が、しわがれた声で呟いた。
「調べたらすぐ分かっちまうことさ。オレ達には懸賞金が懸ってる。捕まったら最後、首を切り落とされちまうんだよ・・・」
「捕まったら死刑になるって分かってて、なんでこんなことしたんですか?」
「それは・・・、金回りも悪くないし、町を歩けばみんなオレ達に道をあける。最初はそんなことが面白かったんだけどよ」
「くだらない」
「あぁ、その通りさ。で、そのうちボスに騙されて、いつの間にかみんな奴隷契約を結ばれてよ。今じゃボスのところから逃げるわけにもいかないってわけさ」
「それって、違法契約なんでしょ?」
「そうかもしれないが、そんなことボスには関係ないさ。裏切ったら消される」
「じゃ、その奴隷契約を破棄しに行きましょうか」
アランが何気ない調子で言った言葉に、その場の全員が目を剥いた。
特に、カルアは信じられないといった様子で、
「コイツらの所属している組織は、ロマンダリア最大の犯罪シンジケートなんです。一番の下っ端まで数に入れると20.000人は居るって話ですけど・・・」
「まぁ、20.000人いても100.000人いても、頭から順番に潰していけば割と簡単に崩壊すると思うけどなぁ、犯罪組織なんて」
「えーっと、それ本気で言ってます?」
「うん。こういうことは早い方がいいかな」
「一人で行く気ですか?」
「まさか、コイツらも一緒ですよ、もちろん」
「・・・・・・・・・・・」
カルアは絶句し、破落戸達は真っ青になった。
リーダーの男と呼ぶのも面倒になったアランは男の名前を問いただした。
男はケニーと名乗って、シンジケートのことを知っている限り話した。
2万人いるとされている構成員のうち、正構成員と呼ばれるのは幹部として組織を牛耳る25人ほどだけで、それ以外の者たちは組織への貢献度によって準構成員や貢献員などと区別されているらしい。
ケニー達のボスは貢献員を10年以上勤めている中堅で、これから先、組織の勢力拡大や資金の提供に貢献し続けることで準構成員への道が開かれる、と野望を語っていたそうだ。
残念なことに、ケニー程度の下っ端では構成員の名前や顔、地盤と言ったものはおろか、組織の正式な名称さえ知らされていなかった。
そんな風だから、自分たちのボス以外のことは皆目分からないそうで、クラスに至っては雲の上の存在だから、正直神様みたいなもんだと思っていたと言った。
「そうかそうか、分からないことは教えられないもんね」
情報が不確かで、重要なことも何一つ答えられないケニーは、アランの笑顔を見てこの場で処分されてしまうのではないかと恐れていた。
それは残りの14人も同じだったと見えて、皆で怯えて固まっていたが、アランはそんなことなど意に介さず、今夜この場所に日付けが変わる頃に集合するようにだけ言って解散させてしまった。
この人、ホントに信じて大丈夫なのかと疑いの目を向けたカルアだったが、皆の前で
「もし来なかったら、ガルーダが迎えに行くからね。みんなの臭いは覚えたから大丈夫だって」
と言ったので、少しアランを見る視線に変化があった・・・。
男たちが去った後、アランはカルアの予定を聞いてみた。
「この後なんだけど、どこか隠れられるところあるの?」
「急に言われても、もう家なんかないし、どこかに泊まるにもお金もないし」
「じゃ、ボクを信用してくれると嬉しいんだけど、一緒に来てくれる?」
「どこへ?」
「ホテル・ド・ロマンダリア」
「へっ? そんなとこ入ったことないわ」
聞いてみると、カルアの家族は犯罪組織の抗争に巻き込まれて死んでしまったらしい。
病気になった友人のお見舞いに行っていたのでカルアだけが難を逃れたが、住んでいた家も破壊されたそうで、争いの激しさを涙ながらに語った。
アランはその話を聞いてヤツらの身勝手さに激怒したが、シンジケートの壊滅をカルアに約束した。
実際のところ、この後行くところもないので、結局はアランについて行くしかないカルアだったが、行先が本当にホテル・ド・ロマンダリアなのか、そうでないのかは考えないことにした。
生きるためにこの町へ来たのだが、今の状況ではこの先一人で生きていくことは出来ないから、早晩どこかへ行かなければいけなかったのは事実だし、たとえそれが住み慣れたロマンダリアを出て行くことになるとしても、その事にこだわって人生をしくじることだけはしたくないと心に強く思っていた。
ホテルに着いた時、カルアは声を失った。
本当にこの町一番の高級ホテルに連れて来られたことも勿論そうだったが、アランが嘘をつかない人間だと確信できたことも大きく影響していた。
これまで憧れの目で見ることしかできなかったホテルのロビーに自分が立っていることに、密かな感動を覚えていたカルアだったが、フロントのマネージャーがアランに掛けた言葉を聞いて、いっぺんに夢が覚めた気分になった。
「お帰りなさいませ、アラン・リード様。新たにご用意させていただく部屋はこちらの奥様とご一緒で宜しいですか?」
えっ、こちらの奥様?
なに、この人。
奥さんが居るところにアタシを連れて来ちゃったってわけ?
カルアはよく分かっていなかったようだが、ロマンダリアでは本人たちが同意さえすれば何人の女性と結婚しても良いことになっていた。
それは獣人族の習性で、男に妻たちを同等に扱う愛情と経済力があれば、重婚のどこに問題があるのかといった認識があって、ホテル側も当然その認識に従ったまでであった。
・・・・・・・・・。
今後この人の世話になるってことは、愛人契約ってことになるのかしら。
アランの後ろで一人悶々としていたカルアは、
「アラン様!」
と叫んで彼に駆け寄って来た美女に言葉を失った。
勝てない。
勝てるわけないじゃない、こんなきれいな人に。
葛藤が顔に出ていたのだろう、アランに近づいてきた美女を紹介される段になっても笑顔が作れない自分にもどかしさを感じたカルアは、情けないことに涙声になっていた。
その女性は、耳の形と言い美貌と言い、シャーメシル人に違いないと思ったが、彼女の自己紹介の言葉が耳に入った時、いよいよ目が点になって固まってしまった。
「初めまして、カルアさん。アラン様にお世話になっておりますカリンと申します。今は娘と二人でこのホテルに滞在しているんですよ」
アラン様にお世話になって・・・?
奥さんじゃないってこと?
「あの、アランさん、フロントの人は奥さんだって言ってましたけど?」
「あぁ、そういうことにしてあるんだよ、今のところ」
「じゃ、ホントの奥様じゃないのね、カリンさんは」
「えぇ、私には夫が居ます。今は生死不明なんですけど」
「それって、やはりお国の内戦のせいで、と考えていいですか?」
「そうですね。夫は狐人族の兵士でしたから」
「それは、なんと申し上げればいいか・・・」




