空への想い
毎朝の登校。
それは白河天音にとって、まるで戦場へ赴くかのような重苦しい儀式だった。
天音には両親がいない。
死別という意味ではなく、激しい言い争いの末に二人とも家を出たきり、二度と戻ってこないのだ。
その後、親戚の間をたらい回しにされたが、誰もが彼女を厄介者扱いした。そのため、高校への進学を機に彼女は追い立てられるように一人暮らしを始めたのだった。
学校という場所でも、彼女の居場所はどこにもなかった。
高校一年の春、クラスの不良グループに目を付けられ、凄惨ないじめに遭った。きっかけは、あまりにも些細なことだった。
当時、緑化委員会で草花の世話を担当していた天音は、花壇の陰で別の生徒に暴力を振るっている不良たちを目撃した。見過ごすことができず、震える足で一歩を踏み出し、勇気を出して注意してしまったのだ。
だが、それを境に彼女の日常は一変した。
報復の矛先が自分に向き、救い出したはずのその生徒さえも、不良たちを恐れるあまり天音から離れていき、誰も助けてはくれなかった。
高校二年生になり、運良くその不良たちとは別クラスになったことで直接的な暴力は収まった。
しかし、もともと両親の件で心を閉ざしていた性格に加え、このいじめが決定打となり、天音の心は二度と開かないほど固く閉ざされてしまったのだった。
通学路の途中、ふと見上げた曇天の空に、鳥の群れが小さく見えた。
「いっそ、あの鳥たちのように空でも飛べたらいいんだけどな……。もっとも、飛べたからといって、どこへ行けるわけでもないけれど。」
幼いころに母から読み聞かされた、天女の出てくる古い絵本のひとコマを思い出し、天音は誰にも届かない小さなくぐもった独り言をつぶやいた。




