第一話 後宮の侍女・紅蘭
私の名前は紅蘭。自分でもよく分からないのだが、どういう訳か、後宮で侍女をやっている。
後宮の侍女とは全く退屈なものだ。後宮はその性質上、異性との出会いはないし、女官などに比べれば大した仕事もない。
と言うのも、私は決して自ら望んで侍女なんぞになりたかった訳ではないのだ。
ーー私が後宮に売り飛ばされたのは、数週間前のこと。
* * *
私はのどかな田舎の孤児院出身であり、その日は山菜の収集をしていたのだが…
「んっ?」
突如として、馬を走らせた大男が私の前に現れたのである。私はさぞ驚いた。
「えっ…?」
そして、驚く私には隙を全く与えず、大男は私の前で馬を止め、こう言った。
「…悪いが、そなたを攫う」
「って、ええ?!」
* * *
ーー全くだ。
私は人攫いにあったのであった。
その男は無論、後宮から派遣された宦官であり、私のようなか弱い小娘を後宮に仕える侍女として売り飛ばすため、馬を走らせていたという訳である。
という訳で、私は来たくもない後宮なんぞに足を運び、侍女としての退屈な日々を送っているという。
ーーまあ、そんな感じだ。
(はあ…早く後宮から出て、理想の男を見つけて、幸せな生活を送りたい…)
などと、私は戯言を考える。
しかし、現実はそう甘くない。なんせ、私は後宮に来たばかりの数日、すぐ外へ出られるのではないかと思っていた。
が、どういう訳か、もう数週間も経っているではないか。数日前までそんな浅はかな考えを持っていた自分を殺したい…
などと、私は少々メンヘラ気味になった。
と、その時だった。
「あっ、紅蘭!」
「…んっ?」
突如として、私の名を呼ぶものが。
その少女、名を青鈴という。茶髪の切りっぱなしボブヘアの小柄な少女で、私・紅蘭と同じく、この後宮の侍女である。
「紅蘭! 話があるの!」
「…話?」
* * *
青鈴について、詳しく話そう。
彼女は陰キャな性格の私と違い、社交性に優れており、太陽のように眩しい性格である。そして、時折噂話を収集しては、私なんぞに教えてくれるのだ。
そんな青鈴と私の共通点としては、歳が近く、若い侍女であるといったところだけであろうか。基本似ているところはないが、青鈴は私と最も親しい侍女だった。
ーーそして、そんな彼女は今日も私に噂話を語る。




