19.
あの2人が帰って、ナリアッテと2人きりになった。
部屋の説明を聞き備え付けに風呂が有ったので、風呂に入ってもいいか聞いてみた。
ナリアッテが快く承諾してくれたので、遠慮なく入る事にする。
ずうずうしいと思われてもこのチャンスを逃すつもりはない。
風呂の準備が整ったというので入り方を教えてもらおうとすると、お手伝いの為に一緒に入りますと言ってきた。
挙句に、服に手をかけようとする。
いやいやいやいや、お願い服に手をかけないで。
使用方法さえ教えてくれれば、後は何とか1人で出来るからと言って追い出した。
え?何でそこで残念そうな顔を?
いやいや、逆に聞くけど風呂でいったい何するつもりだったのさ。
ナリアッテは、しぶしぶ風呂場を去っていった。
残念そうな後姿だった。
これでゆっくり入れる。
ふー。
地球では真夏の暑い日だったので、風呂に入れる事は実はかなり嬉しい。
あまり考えないようにしていたが……
いや、よく我慢しましたよ私。
はー、さっぱり。
これでアルコールがあればさらに良し。
ま、贅沢は言えないけどね。
風呂からあがると、用意してもらっていた動きやすい服に着替えた。
この動きやすい服を巡って、風呂に入る前にナリアッテと色々あった。
何も言わなければ、途中すれ違った人々のような重そうな服を着せられそうだったので、私が今まで着ていた様な服、所謂パンツスーツみたいなのが欲しいと切々と訴えた。
で、負けたナリアッテが持って来たのが、今着替えた軍で支給されている服。
先程キースが着ていたものと、似たような服だ。
ズボンにブラウスにベスト。
階級が上がれば、そこに色とか装飾とかが変わる仕組みらしいが、取り敢えず私は一般兵の生成色のものを着た。
他に、使用人の服とか色々あったと思うが、これをチョイスしたのはナリアッテの趣味かもしれない。
そっとしておこう。
さて、さっぱりした所で仕事をしよう。
もちろん、ナリアッテには悪いが退出してもらう。
何もしないで、同じ場所にいるのは苦痛だと思うし。
その事を伝えると、可愛らしく微笑み「畏まりました」と言って去っていった。
さてと、仕事、仕事。
の前に、3種の神器のチェックをしなきゃ。
携帯以外はまだ確認できていないし。
PCは、起動する。
MP3も、OK。
携帯はさっき大丈夫だった。
異世界って電気とかあるんだろうか?
うん、充電は無理そうだ。
て事は、PCの充電はソーラーに切り替え。
ソーラー式だから便利。
MP3と携帯はUSB充電なので問題なし。
さてと、窓際の日当たりのいい所にテーブルあるし、そこで仕事といきましょうか。
え?なんで仕事するのかって?
もし万が一、キチンと元の時間に戻って生きてたら、楽できるなぁーとか。
次の日残業せずに帰れるだろうなーとか。
色々。
そんなこんなで資料作りに精を出していたら、扉がノックされた。
「はい、どなたですか?」
「ナリアッテです。昼食をお持ちいたしました」
気付いたら、もう昼だった。
いつの間に。
結構集中していたので、資料のほうはほぼ完成。
これで、残業なんて言わせない。
取り敢えず、まともなご飯をいただける様なので、少しその昼食に期待しつつナリアッテがセッティングしていくのを見るともなしに見ていた。
終わったのを見届けて、昼食を食べ始める事にする。
ナリアッテの給仕は、やはり完璧だった。
プロだね。
気になる昼食は、重すぎず軽すぎずで結構いい感じでした。
ただし、何の肉かは聞いても判らなかったけど。
実物は見ない、絶対見ない。
それから予てからの懸念事項、副作用やら毒性やらは、美味しそうな食べ物目の前にして全て綺麗さっぱり遥か彼方に追いやりましたとも。
ええ。
食事はおいしくがモットーです。
食べた後、紅茶っぽい飲み物で寛いでいると、ナリアッテが突如爆弾を落としてきた。
「では、そろそろ、お召替えをさせていただいてもよろしいでしょうか?」
そう言うが早いが、なんだか荷物を一杯持ったメイドさん達が、わらわらと湧いて来た。
着替えするのはいいけど、ちょっ、この人数おかしいって。
でもなんで着替え?
「御夕食の為のお召替えですわ」
あれ?声出てた?
この格好でもいいんじゃ、ここで食べるし。
「いえ、御夕食は別の場所にご案内させていただきます」
ん?声出してないよね?
ああ、思い出した。
確か夕飯は、同郷人と食べたほうがいいだろうとの配慮で、宗谷英規と一緒に食べる事になってたんだ。
疑問符出しまくってたら、なんだか生き生きしているナリアッテさんが近づいてきた。
後ろから色々荷物抱えて付いてきた、他の女性達もなんだか怖い。
思わず後ずさる。
ひっ、囲まれた。
逃げ場なし。
そこから地獄が始まった。
服選びから始まって、髪型メイクに至るまでいじくり倒されました。
鯉がまな板に上がると、こんな気持ちになるんだなぁ。
……知りたくなかった……
終わった頃には、すっかり魂が抜けていた私がいたとかいないとか。
魂の抜けた顔ではありますが、一応出来あがりを見ておこう。
メイドさん頑張ってたし。
そうして私は、鏡のある場所まで歩いて行った。
仕上がりを見る為に。
メイク濃っ。