18.
ボンゴレビアンコが食べたい。
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藍の間における三者会談を終わらせた後、私が廊下に出ると隊長とキースと見知らぬ人物が立っていた。
誰?
そう思って疑問に思っていると、どうやら宗谷英規の護衛さんらしい。
隊長が教えてくれた。
取り敢えず相手は職務中なので、その場は会釈するだけにとどめ、藍の間を後にした。
しばらく隊長に付いて歩いていると、いつの間にやら先ほどとは違う道を歩いている事に気付いた。
「隊長。先程と道が違う気がするのですが」
と、恐る恐る聞いてみた。
「アークオーエン殿から、客間へ案内すように言われています」
ああ、なるほど。
話を把握するので精一杯だったが、たしかに客人扱いとも言われていた。
なので、寝泊まり可能な部屋に移るんだろう。
移動の間、これからの行動予定を考えてみた。
現在の私は、身分未確定という事なので、いきなり高い身分の誰かと面会なんて事はならないだろうが、形式上でも滞在許可とその礼をする為に、この国の高官辺りとは近々会わないといけないだろう。
うげ、面倒くさ。
知識なんかを入手する為に、誰かを手配してもらう事もしなければならない。
最悪そういった人物を自分で見つけねば。
といっても、今の自分はボッチニートでノーマネー。
金なし・職なし・友達なしの状態である。
何だか追い込まれている様な気がする。
色々と。
と、つらつら考えている内に到着。
「ここがこれから、ジャポン様が滞在されるお部屋となります」
キースがそう言って扉を開けると、目の前に広がる光景に私は大量の砂を吐きそうになった。
私は貝か。
これは、何の嫌がらせだ。
初めの控えの間、続いて藍の間と見て来たから、ほんの少しだけ期待していたのに。
いや、牢屋よりも断然いいんですがね?
滞在できるだけでも、ものすごくありがたいんですがネ?
でも、すみません。
歩が進まない。
いや、決して品がないわけじゃない。
腐っても王宮だ。
ただ、ここは激しく好き嫌いがはっきり出る内装で、客の好みを把握しておかないと通せないという、客を選ぶ難易度の高い部屋だ。
で、一応聞いてみる。
「ここ、使う人いるの?」
「い、一部の女性には人気の部屋……らしい」
キースの敬語が剝れる程には、衝撃のある部屋だったみたいだ。
隊長に至っては、先ほどからフリーズしている。
いや、そこ!同情の目で見ない。
取り敢えず中を観察する。
部屋は20畳位で、先程の控えの間と同じくらいだ。
広さの事は置いておいて、それよりも部屋のテーマカラーだ。
まさかの桃色。
メルヘン全開のカーテンに壁紙。
天井画もタッチは素晴らしいのに、モチーフがファンシーすぎて残念な事になっている。
画匠にとって、不本意な仕事だったのではと想像する。
いや、ノリノリだったのかも……
はしっこの爺さん超笑顔。
天蓋付きのベッドはどの部屋もデフォルトであるのだろうが、多重織の贅沢なベッドのコーナーカーテンが、唯一この部屋に落ち着きを与えている。
床までピンクだったらどうしようと思ったけど、ふかふかじゅうたんは薄い黄緑と青で模様が描かれていました。
ほっ。
それにしても、ここをしばらく根城にしなければならないのかぁ、と思わず遠い眼をする。
ただ飯食らいの分際なので、声に出して部屋にいちゃもんをつけたりはしないが。
しないのだが……
とか複雑な気持ちになっていると、ノックが聞こえた。
返事をしないでいると、隊長とキースがどうした?という目で見て来た。
ああ、そうか一応ここが私の部屋だから、私が返事をしろという事だな。
「どちら様で?」
2人とも妙な顔をして、扉を警戒する。
あ、いつものように言ってしまった。
ま、いっか。
初めての場所なんで、誰何した所で誰が来ても知らない人ばかりですが。
と反省していると、ナリアッテさんが入ってきた。
2人の警戒が解ける。
「失礼いたします。ジャポン様、本日より身の回りのお世話をさせて頂く事になりました。どうぞよろしくお願いいたします」
そう言って優雅に礼をとる。
「こ、こちらこそよろしくお願いいたします」
そう言って、私もぺこりと頭を下げた。
ナリアッテさんが若干焦っている。
「あ、そうだ。訂正事項が2つ程あるのですが、皆さん今お時間よろしいですか?」
3人がこちらを向く。
そうそう、言っておかないといけない事がいくつか。
「あ、どうぞ皆さんおかけください」
と3人をソファに促すと、明らかに全員動揺した。
うん、まぁ予想の範囲内。
要するに、身分とか何かが阻んで同席できないやらなんやら。
まぁ、いい、続けて話そう。
「えーと、私はつい先程まで囚人でした」
徐に話し出した私の言葉に、3人がハッとする。
「で、今でこそ客人扱いですが、それは仮です。まだ私に対する身分その他の事が決まっておりません。そういう意味において、私の身分は皆さんに比べて下に位置するものだと考えています」
ナリアッテさんが思わず、そんなと言って声を漏らした。
ナリアッテさんに向かって、少しだけ微笑んだ。
「ですから、お願いがあります。せめてこの部屋にいる間で構いません」
ここで少し言葉を切る。
「私と対等でいてくださいませんか?」
これはどちらかというと、懇願に近い。
いつまでここにいるのか判らないが、堅苦しいままで接し続けられるといずれ私がつぶれるだろうとそう思った。
「これが訂正事項1つ目です。2つ目は、私の名前です。アークオーエン様にはお伝えしましたが、私の本当の名前はルイ=タダです。自分の状況を把握する間は偽名を通そうとしました。申し訳ありません」
そう一気に言って、頭を下げる。
3人は慌てた。
そりゃ立て続けにびっくりする様な事を言われれば、動揺もするだろう。
彼らが落ち着くまで頭を下げていようと思っていれば、肩をたたかれた。
隊長だ。
「対等に接してほしいという人間が、まず敬語では話にならんだろう」
それもそうだと思い、顔をあげてクスリと笑う。
私が笑った事で残りの2人も力をぬいた様だ。
1番戸惑っているのはナリアッテさんだ。
彼女は、きっと真面目な子なんだろう。
「じゃあ、3人とも座って」
これが、この世界での味方を得た瞬間だった。
脱ボッチ?
長くなりました。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
一応落ち着いた主人公です。