1.
ここは変更してません。
「異世界トリップと聞いて何を連想する?」
「いきなり?何、どうしたの?」
「小説のネタ探し」
「新しいネタが異世界?なんか急な方向転換というか、珍しいよね、現代小説一本なあんたが異世界を書くのって」
「自分的にありえない事を急に書きたくなって。で?どうよ?」
「どうよって……バリーホッター!!(アぁ、私の定期入れカムバック)とか?The Lord of the Lingsとか?で、主人公が不幸続きで、ずっと何か探し続けてるとか?」
「あ~、ま~なんか色々突っ込みたいんだけどね?リアルに身内しか解らない不幸ネタとか、微妙にRとLが間違ってるせいで舞台が海だとか……!!」
という上記のような会話を、昨日の夜小説家志望の友人としていた。
よくよく考えてみると、異世界トリップとは全く関係なかったが、友人は満足そうだったので良しとしよう。
「異世界か~」
口に出して呟いてみる。
言葉は部屋の隅に吸い込まれるようにして消えていった。
その方角には、赤い花が生けてあった。
よく見ると、萎れている。
「・・・・・」
そういえば、社会人になってからというもの、小説や漫画とは縁遠くなってしまったとしみじみ思う。
通勤が電車から車に切替り、帰宅しても風呂に入って寝るだけで、休みの日は家事に追われ、毎日毎日それを繰り返す。
自分の為の時間が大幅に減り、余計な事をしなくなってかれこれ7年。
異世界と聞いてあれやこれや想像を膨らませるより、漫画を読まなくなったとしみじみ思っているあたり、そうとうやばい。
まるで、あの花のようだ。
「・・・・・」
そういえば、認識すればそれは現実になると誰かが言っていた。
風邪をひいて熱が出ていると認識した途端、今まで平気で動いていたのに、体が急に怠くなるとか変な例を出していたが……
その理論でいけば、私は今、確実に年取った事になる。
何せたった今、自分が枯れていることを認識してしまったからだ。
鏡を見たらしわが増えていたり……
「・・・・・」
はぁ~
思わず、目を瞑って溜息をついてしまった。
涼しい風が私の頬をかすめる。
8月なのにまだ冷たい風が吹くのかと、しみじみ思ってもう一度溜息をついた。
そんなわけがない。
連日熱帯夜で、猛暑続きで、水が足りないというのに、開けっ放しの窓から冷風なんかが吹くわけない。
この大都会でそれはありえない。
それに風が異様に磯くさい。
それに潮騒の音も聞こえる。
海まで1時間かかるこの距離で。
「・・・・・」
はぁ~
もう何度目かの溜息をついて、ようやく今おかれている事態に目を向けた。
向けざるを得なかった。
現実逃避などうまくいった試しが無いという事実を、今更ながらに思い出し、目の前にいる人物に焦点を合わせた。
はぁ~
あぁ、この溜息って何度目だっけ?