とある高貴なる女人~作家、朝顔の君~
「な、なんじゃこりゃ~~~~っ!!!」
それを見たのは偶然だった。
僕は絶叫した。
それは僕と義兄との恋愛小説だったからだ!
作者は……朝顔。
おい、コラ!マテや!
どう考えても従姉の姫宮だ。
それも桃園式部卿の宮の姫。
数年前に「趣味に生きる」と遠回しに宣言していたけど、趣味ってコレ!?
いや、人の趣味をとやかく言う権利はない。だけどね、なんで僕と義兄の恋愛ものを作成するかな?
ちょっと苦情の手紙を書こう。うん、そうしよう。
翌日、朝顔の姫宮から返事がきた。
【ごめんなさい。でも二人って並んでいると絵になるの。それにね、二人を題材にした物語は大変な人気なの。大勢からこう言うのを書いて欲しいって依頼が殺到してこちらも困る位よ。これも皇族の義務とでも思って見逃してちょうだい(意訳)】
と言う文面だった。
一応、姫宮が書いているとは誰も思っておらず、極親しい人しか知らない。作者名の「朝顔」だってペンネームで式部卿の宮に使える女房だとう触れ込みだ。
あれだな。
書物好きの叔父上のせいだな。
専ら読む方の叔父上だけど、紙の技法を学ばせる専門学校を作った。元々、製法技術はあるものの専門職として作る人は限られていた。それを全国に広め、多くの民に本を読ませたいと望んだ結果、出来たものだ。真っ白な紙の普及は順調に進んで、今では全国に普及していて叔父上の財産の一つになっているとか。
この前なんか「これで誰でも本の執筆が出来るぞ!」と言ってた。
でも、なにも僕をモデルにしなくってもよくない?
ただ、僕の容姿はかなり女性ウケするみたい。母様似だしね。それは仕方ない。問題は相手役だ。なんで義兄なんだよ?どうせなら兄上が良い!!
そうだ!
お願いすればいいじゃないか!!
こうして僕は再び朝顔の君に手紙を送った。
翌日、返事がきた。
流石は小説家。対応が早い。
【光の君、畏れ多くも朱雀帝にそのような破廉恥極まりない物語に登場させることはできません。(意訳)お断りします。(ぷんすか)】
……僕はいいのか?!
解せん……釈然としないんだけど……。
その後も朝顔の君は恋愛小説を書きまくった。
世界一の長編小説として歴史に残る事となった。
題名は奇しくも『源氏物語』――
僕を主役とした恋愛小説であったことは言うまでもなかった。