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友情割引で世界が確変される物語  作者: 央艿 尚
序章:そして友達割引は締結された
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前回までのあらすじ:猫火を襲った組織の名前を聞いて剣竜が茶を吹いた

 「相手がMZAだとわかった以上、どう対処するにしてもこちらも事前に相応の覚悟と準備がいるな…

保安(セキュリティ)安全(セフティ)の為、もう少し踏み込んだ情報が欲しい。」

「それは構いませんが、私には剣竜さんにとって何が重要で何が不要な情報かが区別が付きません…。」

「なら、一括で情報を買うことにする。2000万でいいか?」

 世間話のついでぐらいのノリで言われたにしては高額な金額に驚きつつも、猫火が了承すると、剣竜は手元にあらかじめ置いてあった書類の束から綴りを取り出し、書き込んで渡した。

 2000万の小切手だ。額面を確かめ、猫火が受け取る。

「仔細に話してくれ。アンタの家族構成からMZAとの関わりも出来るだけ詳細に。」

「…わかりました。」




 猫火と玉蘭親子は、精霊皇(せいれいおう)に連なる一族だそうだ。

 猫火は273歳、玉蘭は4歳になる。

玉蘭の母親であり、猫火の妻である玉琰(ぎょくえん)は、次代精霊皇候補でもある力のある人物で、猫火は異能に特化した力は無いものの、次代候補を補佐する為政者を支える能力を買われての婚姻だった。

 玉蘭が産まれて間もなくして、事態が急変する。


 玉琰が拐かされたのだ。


 精霊一族でも、生まれつき肉体を有すものは冠を抱くものとして、精霊達の頂点にある存在とされる。

肉体無き精霊を擁護し使役し統べる事が義務付けられていると言って過言ではない。

 特に精霊皇候補である玉琰は、定期的に各所にある初代精霊皇の遺跡を巡り、祭事を行う役割があった。

その行程の最中に襲われ拐かされたのだ。

 玉琰の従者達は皆殺しにされ、その現場は凄惨さを極めた。

 玉琰も生きていないのではないか、諦めた方がいいというのが周囲からの意見だったが、猫火は諦めていなかった。

 それ以前の出来事からMZAの関与が濃厚だったからだ。

 幼い玉蘭を抱え、玉琰に繋がる手がかりはないものかと奔走する日々が続いた。

 玉蘭が大人と意思を交わせる年齢になった頃、今度は玉蘭が攫われた。

今回は、里内の出来事で目撃者も多数いたことから、MZAが関与している事が明白だった。

 猫火は直ぐに玉蘭の奪還を訴えたが、里の者達の反応は相変わらず思わしくなく、皆諦め顔だった。

 ならば一人でも…と、猫火は身分を偽り、事務方としてMZAに潜入したのだった。



「…よくバレなかったな。」

「いえ、割と早い段階で身元が割れまして。…そしてあの様です。」


 身元がバレた猫火は、激しい拷問を受けた。

何か情報を吐かせる為というよりは、見せしめの為の拷問だったと思われる。

 拷問の最中、玉蘭が連れてこられた。

 今から思えば、MZA側は玉蘭の能力をある程度把握しており、感情の乱れから玉蘭の能力を暴走させるなり顕現させるなりの意図があったのかもしれない。

しばらく会っていなかったとはいえ、父親の凄惨な姿を見せられ、玉蘭は激しく取り乱し、大人が手をつけれないほど暴れ始めた。

 その隙を付いて、猫火は玉蘭を連れて脱走したのだった。



「MZA側は、玉蘭に何かの能力はある事は判っていても、能力そのものの具体的な内容までは解っていないということか…?」

「剣竜さんは、玉蘭の能力がどんなものか判っているのですか?」

「詳細はまだだ。

 玉蘭の能力は隠蔽魔術の看破あるいは無効化に近いもの……だとは考えられるが、日が浅く深く実験や検証を行ったわけではないからな…。」

「そうですか…。我が子の事なのに、どんな能力があるかどうかすら知らず、お恥ずかしい。」

「まぁ、己が無能を嘆いても仕方ないさ。」

「ただ、潜入して得られたものもありました。

……妻が、玉琰がMZAに囚われていました。」


 猫火はMZAの施設内で直接、玉琰に会った訳ではない。

だが、幼い玉蘭に玉琰の写真を見せて母親である事を話していたからか、逃亡中に玉蘭は猫火に「ままとずっといっしょにいた」と話したという。


「子供の言う事ですから確実に玉琰であると立証された訳ではありませんが、可能性は高いと思います。」

「…? そう言い切るだけの根拠があるのか?」

「……玉蘭には、兄がいます。その子が………」



 ー…ゴウォウウウウウン!!!!!



 猫火が言葉を続ける前に、艦に衝撃と轟音が響く。艦橋も激しく揺れる。

 突然の衝撃に猫火は椅子から転げ落ち、剣竜は声を上げる。

「なんだ??!」

「攻撃です!!左翼後方8時方向に敵性反応あり!!

警告無しの急襲で格納庫がやられました!」

 モニタに映ったキャップが緊急事態を告げる。

「障壁は?!」

「3枚破られ、あと2枚です!! 物質と魔術のハイブリッド弾の模様!

…次弾、来ます!!!!!」

 緊急アラームが艦内に響く。

「攻性防壁を左翼側に集中緊急展開!バックアップは俺がする!!

…玉蘭は?!」

「剣竜の部屋よ!!!」

 叫ぶ様にキャップが言うのと同時に、艦橋を飛び出し自室へ向かった。

部屋に飛び込むと、衝撃でひっくり返り荒れた部屋の隅で怯えきって固まっている玉蘭を拾い上げ、即座に艦橋へ引き返す。

「居室空間を虚結封鎖!障壁を解除し動力に全部回せ!!とりあえず逃げろ!」

「次弾着弾まであと、3…2…1…キャァアアア!!!」

 障壁解除と同時に剣竜が張った特大の攻性防壁に攻撃が当たり、弾は艦の手前で爆散する。

 着弾は無いが、衝撃波が艦を揺らす。再度大きく揺れた艦橋内を猫火が吹っ飛ぶ様に転げていったが、剣竜は玉蘭を抱えていたので見なかった事にして、玉蘭を椅子に座らせベルトで体を固定する。

「こ…この艦、迎撃用の装備とか無いんですか??!」

 吹っ飛んだ際にどこかで切ったのか、頭から血を流しながら猫火が叫ぶ。

「移動と居住だけの艦にそんなもん積んでねーよ!!!

それにな!この艦、見た目より相当!ボロ!!なんだよ!!!」

 怒鳴りながら、剣竜は転がっている猫火を掴んで椅子に投げ込み座らせ、こちらもベルトで身体を固定する。

力任せにベルトを締めると、呻き声が猫火の口から漏れたが、

無視する。

「敵機影捉えました!モニターに出します!!」

 艦橋の窓を兼ねた全方位モニタに外の様子が映る。

 雲の合間から船速を上げた戦闘艦がこちらに向かって来るのがわかる。モニタで拡大すると、船首部分に「MZA」のロゴが見えた。

「艦体データ照合!アブサロム級!!!MZAの戦闘艦!

弾幕と次弾来ます!!!次弾、魔導砲撃です!」

「戦艦持ってきやがったよ!クソが!!!」

 エネルギーは全て艦の動力に回している。

砲撃に備えて、剣竜が飛空艦の外側に防壁を転送し貼っていく。

物理と魔術攻撃に耐え得る防壁を、攻勢と防御特化のものを多層構造で重ね展開する。

ナギルファーは小型の航空艦とはいえ、魔族個体を覆う防壁結界とは大きさが違う。

「…すごい……。」

 これがSSSランクのハンターか…

猫火の口から感嘆の声が漏れ出た。

「弾幕、一部防壁をすり抜けて着弾!!居室エリアに被弾あり!」

「俺の服ー!」

「今そこ?!?!!!ーー…まだ来るわよ!」

「逃げろ逃げろ逃げろ!!!こちとらエリフェレト級の、ふっつーの航空艦だぞ!!」

「もー!!!剣竜の魔法でズバッとバビッとなんとかなるでしょ〜?!?!!ならないのぉおお〜??!」

 艦内に剣竜とキャップの声が響く。

そこに割り込む様に別の警報アラームが鳴り響く。


「…やばい。動力、爆発する……」


 艦長席に滑り込んだ剣竜に、キャップが涙目で訴える。

「マジか。」

「マジです。」

 艦足を上げる為、注いだエネルギーが経年劣化を来した動力部でオーバーフローしたらしい。


 艦橋のモニタが補足した敵機影の接近を告げている。

 ついで、次弾の発射も確認された。

「ジャマーは?」

「初撃の時に壊れされたみたい。」



………



「ねぇねぇ、猫火さん。この艦、墜落するみたいなんですけど、どうします?」

 今までに無かった敬語と笑顔で話しかけてくる剣竜に、猫火の顔は白から青に変化する。

「なに悠長に笑ってるんですかぁああああ?!?!!剣竜さぁあああ???!!!!!」




 絶叫する猫火の声は、後方からの爆音にかき消された。


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