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友情割引で世界が確変される物語  作者: 央艿 尚
序章:そして友達割引は締結された
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前回までのあらすじ:剣竜の飛空艦が撃墜された

 「燃えるな~…いやぁ。めっちゃ、燃えるな。」


 腕を組んで仁王立ちし、正面に見据えた火柱を眺めながら呟く剣竜の表情は「心、此処に非ず」といった風だ。

 怖る恐る顔を伺うも、知り合って日の浅い猫火には、剣竜が怒っているのか悲しんでいるのかそれ以外なのか区別がつかない。


 動力部が爆発した音を耳を劈いた瞬間、猫火はもうダメだと思った…が、爆風とは違う別の風を切る音に目を開けると、はるか後方で飛空艦が爆発炎上しながら墜落中だった。

 猫火は文字通り、剣竜に服の首根っこ掴まれた猫掴み状態で、玉蘭は剣竜に抱えられている。

 いつの間に?!と驚きながら観察すると、3人の周囲に展開された幾重かの魔術陣が、内部に居るものをゆっくりと降下させながら守っている様だった。

 剣竜達が地面に着いたのとほぼ同じぐらいに、少し離れた場所に墜落した飛空艦は、大轟音と爆発の火柱を起こした。



 剣竜が展開したままの魔術陣の防御壁により、爆発の爆風の影響からは逃れられているものの、周囲の草木のなぎ方で爆発の凄まじさがとって伺える。

 爆発の様子を見ていると、キャップがひょっこりと顔を出す。脱出の際にタブレット端末に立体映像(ホログラム)を移していた様だ。

「私の……ナギルファーが…!!!」

「俺の…服が……」

 剣竜とキャップが、主従同じ表情で哀しみに暮れている。

「いや、剣竜ってばどさくさで10着ぐらい持ち出していたよね??!

私なんか(ボディ)爆散しちゃったんですけど?!?!!!

こう、お得意の魔術でちゃちゃっとならなかった訳!??!」

「ならねーよ。俺、ハンターであって飛空艦の専門家(エンジニア)じゃねーもん。」

 堂々と居直り過ぎる剣竜にキャップはがくりと肩を落とし、二の句が告げれなかった。



 ナギルファーが墜落した火柱を見つめる剣竜の足元に、とてとてと玉蘭がやってきて励ます様に言う。

「だいじょうぶ! にいちゃん たすけてくれるって!!」

 にこりと笑う幼女は可愛いが、……今…何と言った?



 飛空艦(ナギルファー)が襲撃される直前、猫火は言った。


玉蘭には、兄がいる…と。



 じわりと厭な予感がする。

玉蘭を怯えさせぬよう、腰を屈め目線を合わせて、剣竜は訊ねた。

「“にいちゃん”がいつ来るって言ってたか、玉蘭は覚えているか?」

「うーん… ぎょくらんがね はなしたらすぐいくって!」



 不思議だった。

 今まで、特に何者かに付けられた形跡は無かったのに、急にMZAの戦闘艦から襲撃を受けた。

それが、幼い無垢な密告者(ユダ)の仕業だとしたら…?


 猫火の「その子が…」の言葉の後には、何が続いた?


 剣竜が一連の流れを思い返しているその時、周囲の木がざわりと動いた。




 「…囲まれているな。」

 考えればわかることだ。執拗さと残忍さで知られるMZAが、たかが飛行艦を墜としたぐらいで去る訳が無いのだと。

 魔術陣はまだ解いていない。

今ある防御に重ねて防壁結界魔術をかける。中から出ない限りは守っている者を守ってくれるだろう。



 軍靴の足音と共に、武器を携えた一団が周囲を囲んで現れた。

銃口に剣先に囲まれている。

皆が同じ服装で目深にかぶられた帽子で表情が見えない。MZAの兵士達だ。

ざっと見ても200人は超える人数に囲まれ、猫火と玉蘭が顕著に怯えているのが見ずとも感じられた。

 「結界(ここ)から出るな」と猫火に合図し、剣竜は結界の外に踏み出る。

  囲んでいる兵士らの侮りが、剣竜に向けられているのを肌に感じる。



 MZAの兵士達が侮蔑を向けるのも無理はない。



 変容出来るとはいえ、剣竜の普段の姿は子供そのものだ。

身長は160cmに満たないだろう。

 腰まである銀髪と同毛色の耳と尻尾。気の強そうな目をしているが、少女とも少年とも見える亜人の子供が、結界から進み出てきて偉そうに呼ばわっている。


「話がしたい!責任者を出して貰おうか!!」


 MZAの兵士らは剣竜の言葉を嘲笑し低い笑い声を響かせる。


 程なくして、兵士らの間を開かせ、一人制服が違う兵士が現れた。

 背丈は剣竜と変わらない。人間で言えば12~3歳の少年だ。

翠髪が目立つが、目深に被った軍帽と前髪で表情は見えない。

エルフの様な尖った耳が特徴的だ。

 背後に副官らしき白塗り顔の男を従えている。

「責任者はオレだ。

 此方はお前と特に話す事は無い。そちらが保護している、猫火と玉蘭の身柄の引き渡しを要求する。」

「警告も無しにいきなり人の艦を撃墜しておいて、随分な横柄な物言いだな。これがMZAサマのやり方ってか?」

 剣竜が鼻で笑いながら挑発すると、周囲の兵士は気色ばむが、眼前の少年は動じない。


「もう一度言う。二人を渡せ。」

「断る!」


 一触即発の緊張感が重くのしかかる。沈黙を破ったのは、走り出した幼女の叫び声だった。


「にいちゃん!!」


 猫火の手を振り払った玉蘭が、翠髪の少年に向かって走り出すが、横を抜ける前に剣竜が腕を掴んで引き止める。

「にいちゃん…? にいちゃん!にいちゃん!!」

 半泣きで叫ぶ玉蘭を剣竜は決して離そうとしない。

「剣竜さん!!その子は…!!」

 声を上げる猫火を、手で黙れと制する。

 眼前の少年から、苛立ちが滲み出始めた。

「その子を離せ!! 言ってる様にオレはその子の兄だ!!!」

「子供などいくらでも騙せる。

玉蘭がそうだと言っても、猫火がそう言っても、俺にはお前がこの子の兄だという確証は得られていない。

姿形もどうだって出来るし、幻だって見せれるだろう。

 妹を取り返しに来るのに、わざわざ軍艦引っ張ってくるような奴にみすみす渡す訳が無いだろう。」

 言葉にならない喚き声を上げ、泣きじゃくりながら振り解こうと足掻く玉蘭を剣竜は手放さない。

 緊張感が膨れ上がり、囲む兵士達の指が引き金に柄にかかる。


「いいから、その子を離ー………?!!!」


 翠髪の少年が怒声を上げた瞬間、鈍い音が声を止めた。


 ゴプリ…という、何とも形容し難い音だった。

 血に濡れた切っ先が、翠髪の少年の胸部を貫いていた。

「……な…ん??!」

 血の泡が言葉と共に吹き出す。

言葉は続かず、少年は地に伏し倒れる。軍帽が頭から落ちて、前髪の合間から角が生えているのが見えた。


貫いた刃は確実に心臓を貫いていた。


「……はせぉ……おま…ぇ…」


 少年の途絶え途絶えの言葉は、刃の持ち主に向けられていた。

少年の副官らしき男は、白塗りよりも更に白い顔に喜色を浮かべ、今しがた上官の胸を貫いた刃を舌で舐め取りながら嬉々として喋る。

「あぁ…いけません、(れん)様!!

生死問わず連れ帰ればいいと言われていたではありませんか!!!

何を拘っておられるのです?? 渡して貰えなければ、皆諸共に殺してしまえばいいのです!」

 大仰に天を仰ぎながら舞台役者の様に、白塗りの男は叫ぶ。

「にぃちゃーー!!」

 一瞬の隙を突いて玉蘭は剣竜の手を振りほどき、翠髪の少年… 連 に駆け寄る。

「ほら!!!この様に!」

 玉蘭が連に辿り着く前に、白塗りの男が一撃、玉蘭を蹴り飛ばした。蹴りが胴体に入った瞬間にメギメギ…という嫌な音が響く。

 蹴り飛ばされた玉蘭は、数メートル吹き飛んで地面に叩き付けられ、激しく咳き込んで血と吐瀉物を吐き出した。


「…にぃ…ちゃ……」


 口の端から弱々しく言葉が溢れる。

 白塗りの男が玉蘭を蹴飛ばした足で連を踏み付ける。

「んんん~!なんて無様な兄妹愛!!無様過ぎて憐れみを越えて滑稽ですよぉお!」

 けたけたとせせら嗤い、もう一度連を踏む。

「玉蘭!!連くん!!!」

 出遅れた猫火が剣竜の作った結界から飛び出、出た瞬間にMZAの兵士に足を撃ち抜かれる。

「!!!…ッぁあ"!!!」

 低く叫びながら、玉蘭の元に駆け寄ろうとするが、もう一撃、今度は肩が撃ち抜かれる。



 幼い兄妹はお互いにを助けようと、血の泡を口から出しながら手を伸ばし、意識尽きていた。

 父親は幼子を助けようと動き、新たに腹部を撃たれている。



 剣竜は見ていた。

 いつものように動けば助けれた。が、見ていた。



 動かず見ている剣竜を見て、足がすくんだとでも思ったのだろう。

馳夫(はせお)と呼ばれた白塗り顔が、連を刺した剣を振った。

パッと、剣に纏わり付いていた血が振り払われ散る。

 血は、剣竜の服に顔にパッと散った。


 すぐさま、馳夫の方を見た剣竜を、ニヤニヤとしながら見返す。

威圧し挑発しているのだ。

 歪んだ笑顔を顔に貼り付けている馳夫とは対照的に、剣竜は無表情だ。


 僅かに目を細め、剣竜は一歩踏み出した。

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