11
前回までのあらすじ:玉蘭の兄っぽい人物に出会ったけど、兄はいきなり部下に刺された。
*この話は残酷な表現を含む回です。
躊躇なく馳夫の眼前まで歩み寄ると、無表情のまま、剣竜は尋ねた。
「一つ訊くが、俺の飛行艦を墜とす様に言ったのは、この連か?」
「ははは!!そんな訳ないでしょぅ?
こんなヘタレで気弱な坊ちゃんが、飛行艦を落とせ!なぁんて言う訳無いじゃないですか!
場所が判っているのに追い掛けて追いつけだなんて、緩い事を仰っているので、私が!!!お手本を!示してあげたんですよ!!!」
言いながら馳夫が連を踏み付け、ぐしゃりと骨と肉が砕ける鈍く軽い音がする。
意識の無い連の身体が、踏まれるまま小さく跳ね上がり、血飛沫が再び剣竜の顔や服に飛ぶ。
周囲を囲む兵士らからも苦笑が飛ぶ。この兵らは誰も彼も、馳夫の様に、自分達を率いて来た連を見下していた様だ。
「本当に!総帥の息子だからって、役立たずなのに生かされてる穀潰しですよ!!コイツは!
いい機会だから、死んで貰いましょうよ!!!」
再度、踏み付けようと足を上げたが、その足は下される事は無かった。
脛から先が無くなっている。
「ーーぁ?…ァアアア!!?? 足が!!!私のあしがァアアア??!」
踏み下ろした足が無くなり、バランスを崩した馳夫はもんどり打ちながら倒れ込む。
周囲を囲む兵士等が殺気立つが、瞬間、放たれた剣竜の殺気といま目の当たりにした光景のためか、じり…と一歩退がるのが見て取れた。
斬り飛ばした馳夫の足先を汚物の様に投げ捨てながら、剣竜は連を抱え上げ、すぐ側に転がっている玉蘭も回収する。
「きさっ…貴様ァアアア!!!私の足をぉお!足をあしをアシをォオオオ!!!よくもよくも!!」
馳夫が叫ぶのを無視して、連と玉蘭を猫火の傍に置く。
猫火にはまだ意識がある。
「ったく、結界から出るなって言っただろ。」
「すみません…体が動いてしまって…」
剣竜が返事代りに舌打ちをすると、新たな結界が3人を包む。
結界が展開されるにつれて、3人の傷が見る間に癒えていく。
治癒魔術と攻性防壁と反射魔術を編み込んだ複合結界だ。
「今度は絶対出るなよ。」
剣竜に言われ、猫火はまだ意識の無い2人を抱き寄せた。
猫火が動ける様になったのを確認すると、剣竜は自分の格好を見て、服と顔に付いた血に不愉快そうな顔をした。
踵を返し馳夫を見る。
部下に切り落とされた足を回収させたか、馳夫は足を治癒接合し終わったところだった。
「貴様…このガキ…!!!殺すコロス絶対殺す!!!!!」
「訊きもしないのによくベラベラと喋る口だな。おい。
お前アレだろ。口先だけで出世していくタイプか?」
嘲りながら剣竜は馳夫の胸の階級証を指差す。
MZAでは軍隊と同じで階級が存在する。
己が立場を馬鹿にされ、馳夫は声を荒げ激昂する。
抜き身のまま持っていた剣を持ち直し、振りかぶる。
「ヌァエァアアアア!!!喰らえ、我が……」
「テメェは自分の心臓でも食ってろ。」
ガボフ!!と鈍い音が響く。
一瞬で剣竜は馳夫の眼前まで移動していた。
まだ脈打つ心臓が、馳夫の口に突っ込まれている。ビクビクと心室に残された残りの血液が吐き出され、地面を濡らしていく。
呻き声が馳夫の口から出たが、血の泡と共にゴブゴブという音でかき消えた。
そのまま、足元から崩れ落ちて動かなくなる。
「「「うわぁああああ!!!馳夫様がやられた!」」」
周囲を囲んでいる兵士が一斉に恐慌し始める。
体が痙攣しながらのた打つ馳夫をどうでも良さげに一瞥をくれると、剣竜は兵士等に向き直る。
「殺せ!殺せ!!殺せ!!!!あのガキを殺せ!!!」
誰彼ともなく叫び声が上がる。それを引き金に、火器の弾が、魔術式が、剣先が一斉に剣竜に向かい襲い来る。
剣竜はその攻撃の一切を気にせず正面から突っ込む。
「来い!!! 黄昏の劔!!」
従属の名を呼び付けると、一瞬術式陣が現れ輝いたのち、禍々しい造形の大鎌が剣竜の手に現れた。
目の前を薙ぐと、兵士等十数人の首が胴が吹き飛ぶ。
眼前の兵士の命を刈り取った大鎌を薙いだ軌道のまま手放すと、鎌は回転しながら意思を持つ様に、後に続く兵士らの命を刈り取り始める。
「ギャァアアア!!!」
「ひぎぃいいいいいい!」
「うわぁああ!!!」
阿鼻叫喚の地獄絵図だった。森の一画が血に染まっていく。
「ガキだ!!あっちのガキを狙え!」
結界に守られた猫火達を狙い攻撃を加えるが、攻性防壁が反射魔術が加えられた攻撃を倍に返して、兵士等は自らの攻撃で自分達の命を散らす。
「すごい………」
目の前の惨劇に震え上がりながらも、猫火は目が離せなかった。
玉蘭と連が目を覚ましていなくて良かった…そう思える程に結界の外は凄惨さを極めていた。
「逃げろ!!!」
「艦の主砲で狙え!」
「いいから殺れ!」
「来るなぁああ!!」
「ギャァアアア!」
怒号が飛び交い、向かって来るもの逃げ惑うもの、目にしたMZAの兵士一人一人を屠っていく。
側にいるものは、手元に戻ってきたラグナレクで斬り裂き、距離があれば魔術で燒き殺した。
固まって逃げ出す兵士らに掌を向け、くるりと手首を回すと、幾人もの兵士が絡め取られお互いを巻き取るようにくっ付き、塊になっていく。
「ぃ…ひ……!!助け……!!」
「お前ら、あの連が死ねばいいと嗤ってたじゃないか?
俺も同じだ。 お前ら、死ねよ。」
剣竜の拳が握り締められると、兵士の塊が握り潰された様に、大きさを半分にまで縮め、血飛沫が肉片が噴き出した。
排気音が轟音を立てる。
音のする方に目をやると、剣竜の飛行艦を撃墜したMZAの戦艦が浮上し旋回しはじめていた。
真っ先に逃げ出した奴が知らせたか、剣竜の反撃からの鏖殺に気付いたか……。どのみち。
「逃がす訳ないだろ。」
呟くと同時に、ラグナレクはその姿をフッと消す。
逃げようとする戦艦の姿がよく見えるように空中に浮かび上がると、距離を目測する。
戦艦までは500mといったところか。
手を合わせ、ふわりと広げると、雪の様に白い柔らかな結晶が現れ出、舞った。
雪の結晶は剣竜の周囲から出て、一気に広がって行く。
森の中へ、眼前の戦艦に向かい、魔術で作られた雪は煌きながら行き渡り降り注ぐ。
雪の結晶が触れると、触れたものは、光りながら粉になり、まるで最初から無かったかのように溶けて消えて行く。
「なァアアア?!!?!!」
「消えっ…きえ……!!」
「ヒィイイ……やめ……!」
森の中から絶叫が聞こえてくる。
突然現れた雪に触れると体が綻び崩れ消えていくのだ。
雪の優しい白さと対照的に、森が…兵士の身体が……輝きながら朽ちていく。
悲壮が響き渡り、叫ぶ者が居なくなり、……やがて静寂が訪れた。
剣竜の眼前に浮かんでいた戦艦も光を放ちながら消えていった。




