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「なんだ。それだけしか買わなかったのか?」
猫火と連が持っている買い物袋の数を見て、剣竜は2杯目のパフェに刺さっていた棒状のプレッツェルをポキリと噛んで折り、半ば呆れた声で言う。
「いえ。十分ですよ。我々は異空間収納が使えませんから、旅装は自分達で持てるだけでないと…。
ついでに、小切手を換金してきたので、カードは使ってません。ありがとうございます。」
猫火が虹色の光沢のカードを剣竜に返す。
多量にあった剣竜の荷物は、もう無かった。3人が買い物をしている間に異空間収納にしまわれた様だ。
「あー。異空間収納な…。 後で使えるようにしてやるよ。」
カードを受け取ってぼやく剣竜の前の席に、玉蘭がちょこんと座った。
「剣竜!ぎょくらんねー ぱふぇたべたい!」
「おー。好きなのを食べろたべろ。」
「剣竜さん、いけません。甘やかしては。
玉蘭、ご飯を食べてから、パフェにしなさい。」
剣竜が差し出したパフェメニューをヒョイと取り上げ、猫火がぴしゃりと言う。玉蘭はがっかり顔で「はぁい…」と言いながら、猫火が差し出した食事メニューを受け取って見始めた。
「装備品は何を買ったんだ?」
食事を摂りながら剣竜が買ったものを見せろと言い出した。
渡された袋を空けて、剣竜が装備品のチェックをしていく。3人分の衣類に、薬や消耗品、携帯食料など身近な必需品が程よい量揃えられていた。
「武器は?」
「玉蘭には符護アイテムと子供用のロッドを。
私は剣の心得がありますので、護身用に刀を一振り。連くんは鉄扇を選んで買いました。」
「風属性との相性がいい武器だな。」
剣竜は連が選んだという武器に関心する。
「ところで、連は頭の装備は何を買ったんだ?」
「へ?何も買って無いよ。なんで???」
「いや、何で……って、お前。角をどうやって隠すつもりなんだよ……。」
「あ。」
忘れていたらしい。
「まぁいい。俺もまだ用事があるし、買い物もあるし。」
「……まだ買うのか。」
「魔石を作るための土台が欲しくてな。」
魔石は、魔力の結晶であり、魔力を溜めたり魔術を一時保存したりと魔術リソースアイテムだ。
広義で言えば、魂の結晶である魔晶も魔石である。
魔石は主に魔素が濃い山岳地帯などで自然発生するほか、基石と言われる魔力結晶を微量に含む石に、時間を掛けて魔力を流しこみ定着させる事により、魔石を作ることも出来る。
「……魔石、作れるのかよ。」
「売ってる魔石は、どうにも俺の好みでなくてな。
無いから仕方なく作ってたら、作れるようになった。」
魔石作りってそんなオカンアートちっくハンドメイド的なものだっけ?
連が頭を傾げながら訊く。
「でも、なんで魔石……。剣竜の魔力だったら魔石無くても問題無くね?」
「俺は要らないが、キャップの憑代に必要なんだよ。」
「? キャップは今、タブレット端末にいるからそれで十分なんじゃないか?」
「人間界はな、タブレットが使えない。
魔導の水準は変わらないが、魔界より電子と工業技術文化が四世紀半ばかり遅れているからな。
タブレット端末も電子通信もまだ無いんだよ。人間界には。
憑代が無くて キャップが活動出来なくなると、色々とバックアップが欠けるんだよ。それは困る。」
「え、そうなんだ……。人間界って不便だな。」
「いかんせん種として脆い上に寿命が圧倒的に短いからな。
大規模な戦争が生じれば潜在共時性的に技術革新があるんだが、技術がもう一段階抜けきる前に技術者の寿命が尽きるか外因で死ぬ事が多い。
そうなれば、進歩しかけても後退するか、降り出しに戻る。
こればかりはどうしようもない。」
「……凄い原始的というか、未開の地だな…。」
連が皿の上の水色の蕃茄をフォークでプツリと刺しながら呻いた。
食事を食べ終え、立ち上がろうとした時「あ。そうだ。」と剣竜が、連・玉蘭・猫火の額を指先でトン・トン・トンと軽く突いた。
「異空間収納。使える様にしたから。」
「ファ???!?」
「まぁ、正確には俺の “異空間収納を貸している” 訳だが。
俺の異空間収納に小部屋を作ってそこに収納出来るようにした。
収納の出入り口は各自の左の掌に設定してある。」
「そんな使い方が出来るんですか?!」
「俺には出来る。
限定的な眷属契約による能力の付与だと思ってくれ。
俺が貸与主になるから、小部屋側からは俺の収納側には入れない様になっているが、俺の方からはお前らの小部屋にはアクセス出来る。
変な物、入れんなよ。
あと、異空間収納内に生きてるモノは入れんな。異空間内で生命構築の基底霊核が捻れて、魔晶が砕けて死ぬからな。」
ホテルでの襲撃から脱出する際に、なんで異空間収納に連たち3人を入れなかったのかと思っていたら、そういう訳だったのか……。
無言で納得している側で、剣竜の説明は続く。
「使う時には、こう……掌にカバンの口があるつもりで、出し入れすればいい。
出し入れは慣れだから、とりあえず慣れろ。
取り出したいモノを思い浮かべれば、思考が検索パスになり自動で欲しいものが取り出せる。」
「すごーい!しまえるよ!!いっぱい、はいるー。」
真っ先に出し入れのコツを掴んだのか、玉蘭が買ったばかりの服を出し入れして見せつけてくる。
妹の順応性の良さに連は目をむいている。
「……めちゃくちゃ便利だな。」
「使用していく内に何となく異空間収納の魔術的仕組みが解るから、そうすれば自分の収納を作って、俺の小部屋を返してくれればいい。」
「わかりました。ありがとうございます。」
初めて使用する異空間収納に、連と猫火は悪戦苦闘していたが、しばらくするとそこはかとなく出し入れ出来る様になった。
異空間収納が使える様になり、買った物を収納すると、身軽になった一行は街へ再度繰り出す。
剣竜がしばらく前にクリーニングに出していたという白い外套を受け取った後、連の頭の装備を見に何軒か店を廻る。
角を隠す為に、何か頭の装備を買えと言われた連だが、どうにもしっくり来るものが無い。
以前に被っていたMZAの軍帽は丁度いい具合に角が隠れるデザインだったが、似たような物が探したが無かった。
「……いいものが無い…。」
何軒も店を周って、いい加減疲れて来た連はしょぼくれている。
「別に帽子に拘らなくてもいいだろ。隠れりゃいいんだから。」
「頭に何か付ける事が今まで無かったから、どういったモノがいいのかわからないんだよ。
なら、剣竜が選んでくれよ……。」
「いいよ。」
横でアクセサリーを物色していた剣竜に呆れた口調で言われ、ついムッとして返したらすんなり了承された。
「あ、今のは冗談。」と弁明する間も無く、剣竜はさっさと側にあったスカーフを手に取り、今しがた物色していたアクセサリーと一緒に会計に持って行っている。
「巻くから。ホレ、屈んで。」
店を出てすぐに言われ、剣竜の前に座ると頭にヘアバンド状にスカーフがクルリと巻かれ、角の部分に飾り結びをしてピンで留め、残った布を耳横に垂らした。
店の窓に映った自分の姿を見ると、なるほど。いい具合に角が隠れている!
「にいちゃん にあってるー!」
「剣竜さん、上手ですねー!」
玉蘭と猫火に褒められ、まんざらでも無い。
一方、剣竜は買ったばかりのアクセサリーを取り出して、なにやらゴソゴソしている。
「なにやってんの?」
「今からキャップ用の魔石を作るんだよ。」
手にはマント留めの用のピンが乗っている。中央に大きめの
薄青の色ガラスがはめ込まれ、草花の装飾が施されている。
「それ、基石でもなく、タダのガラスだよね?」
「ガラス玉だろうが道端の石だろうが、石っぽけりゃ何でも魔石に出来るぞ?」
「え??!そうなの?」
「俺はな。」
「デスヨネー……。」
剣竜の、毎度お馴染み規格外に慣れつつあるも、やっぱり馴れない連は遠い目をする。
剣竜は、掌に乗ったピンのガラスに魔力を流し込んでいく。
形状などに変化は無いが、ガラスの基質が変化し魔力があっという間に定着し、多層に重ねられていく。
「ホレ。魔石、出来たぞ。」
ものの1分ぐらいで魔石が出来上がった。
「………剣竜だからな〜……。」
「………剣竜さんですからね〜……。」
「ですからね〜!」
「お前等、俺の名前を感嘆詞に使うな。」
出来上がった魔石に、キャップが憑代と出来る魔術式を書き込んでいく。
タブレット端末から権限を移し、あっという間にキャップのお引越しは終わる。
「おい。ヤドカリ娘。新居の居心地はどうだ?」
剣竜が問いかけると、マント留めピンの魔石からキャップがスルリと顕れた。
「最高〜。いつもながらいい仕事よね〜。」
「そうか。それは何より。」
言いながら、剣竜はしばらくは使わないであろうタブレット端末を異空間収納に入れ、キャップの憑代となったマント留めピンを自分の胸元に付けた。
気怠そうに一息吐く。
「じゃ。面倒だが行くか。 人間界に。」




