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前回までのあらすじ:剣竜が連をホテルのスイートルームに連れ込んだ
「買い物って、ココかよ!!」
「なんか文句あんの?」
小声で抗議の声を上げる連の一歩先を、剣竜がふわりふわりとレースふんだんの服をなびかせて歩いていく。
念の為にと変容した姿は、菫色のロングヘアーを暴力的な量の縦ロールに巻き上げたお嬢様風?スタイルに兎耳の亜人女子だ。そして昨日とはまたデザインと色が違うロリータ服だ。
その横を玉蘭が負けじと、とてとてと歩いているが剣竜と同じデザインの服を着ている。
頭にはこれまたレースまみれの前側だけつばの大きい帽子を被っていて(ボンネットというらしい)非常に愛らしい。
連も念の為といって変装させられた。
鬼族である連には額と頭頂部の間に一本の角が生えている。エルフの様な長い耳もある。それを隠せと、不自然なくらいデカイ帽子を被らされた。
猫火の変装は………上から下まで見て、剣竜は言い放った。
「無くても良くね?存在感薄くて地味だし。」
痛恨の一撃だった。
連が目覚めた翌日、“お買い物”に連れ出された。
連は怪我からの目が覚めたばかりだから…と出掛けるのを断わろうとしたら
「1週間も寝てるから飢えてるだけだ。飯食え、飯!!」
と剣竜に無理くり食事を摂らされ、そうしたらば普通に動けるようになってしまった。
そのくらいで元気になる己が体力が恨めしかった。
そんなこんなで買い物に連れ出されたが…
この珍妙な一行が歩いている場所は、重工業工場…言うなれば、軍需関連工場。しかも、MZAの工場だった。
「灯台下暗しって言うだろ。」
「オレは導火線の上を歩いてる気分なんだけど…」
剣竜は意気揚々と歩いているが、生きた心地のしない連は顔色が悪い。全く変装も無しにMZAの工場内に連れて来られた猫火に至っては、今期最大の顔色の悪さになっている。
そんな二人を一顧だにせず、剣竜は受付から付いた案内について奥へ奥へと進んでいく。
MZAの工場といっても、専売ではなく半分は民間に卸しているから、以前に発注したものなのだとか。
いくつかの建屋を通り過ぎ、案内人が指し示した建屋に入ると、鮫の様なフォルムの飛行艦が建造中だった。
「アムノン級の飛行艦だ。アレの納品を早めてもらいに来た。」
「……飛行艦って個人で買えるんだ。」
「金とコネがあって、維持さえ出来ればな。
前のナギルファーもMZAで買った機体だ。」
「あ…うん。飛行艦の事は、本当に申し訳なく…」
「保険が出るから問題無い。流石に2世紀近く運用するとガタが来ていたしな。」
「へ…へぇ~…」
剣竜とぼそぼそと小声でやり取りしながらも、連は周囲が気になって目が泳いている。
MZAの組織が肥大化し、専用の軍需工場まであるということは、連や猫火の存在が必ずしも末端まで届いている訳では無いはず。 …だが、それでも気が気でならない。
ふと、横を見ると建屋の窓に自分達一行が映っていた。
レースふんだんの服をなびかせて歩く兎耳の亜人の女子、同じデザインの服の女の子、でっかい帽子の兎の獣人、そして背の高い兎の獣人が映っていた。
…………………ん??????
思わず自分の顔周りをペタペタと触ると、建屋の窓に映るデカ帽子の兎の獣人も、顔周りをペタペタと触っている。
連が口をパクパクさせながら剣竜の肩を掴み、自分と建屋の窓を交互に指差し訴える。
猫火はまだ気づいていない様だが、連の慌てた様子を見て剣竜が嗤った。
「ああ。今更、気づいたか?」
「視覚感知のパスを繋いだだけだ。」
カウチソファに優雅に腰を据えて剣竜がしれっと言う。
MZAの工場で身元がバレる事も無く、剣竜の大きいお買い物の付き添いを冷や汗ダラダラで終え、ついでに街での買い物に付き合わされ、連と猫火は両手にいっぱいの荷物を抱えてホテルへの帰投となった。
猫火も途中から、自分と連の姿が直接の目視では通常の姿に見えるのに、鏡やモニタ越しには兎の獣人の姿に見えている事に気付いた様で、驚いていた。
何がなんだか、さっぱりわからない顔をしている連と猫火の二人に剣竜が説明をする。
「玉蘭の能力は、おそらく“暴露”だろう。
千里眼の一種と言っていい。しかも、無意識下で発露されている。」
そう言うと、玉蘭にこれから自分がどこに動いて何をしているか連と猫火に伝える様にいいふくめると、剣竜の姿がフワリと消えた。
「んとね~ ひめちゃん、ベッドよこにうごいて コップにおみずいれてる!」
玉蘭の剣竜の呼び方がいつの間にか「ひめちゃん」になっている事に、心の中で猛烈にツッコミながらベッド横を見ると、剣竜が水差しとグラスを持った状態で顕れた。
「今、俺が自分にかけた隠蔽魔術はかなり高位のものだ。通常なら暗殺対象の横で昼寝しててもバレないくらいにな。」
「その隠蔽は、索敵が可能なものですか?」
猫火が身を乗り出す様に尋ねる。
「海に放り込んだ石を探し出すレベルの精度が必要だがな。
ともかく、玉蘭の前では魔術的隠蔽あるいは偽装は通用しない。もちろん、弱点もある。魔術レベルの隠蔽は看破出来ているが、魔法あるいは霊姿根源からの変容は看破出来ない。」
そう言いながら歩く剣竜の姿が、一歩進む毎にグラマラスな美女、屈強な戦士、小人族、エルフの青年…と姿を変容させて、最初に座っていたカウチまで戻る。
玉蘭は次々と姿が変わる剣竜に興奮し
「ひめちゃん すごい~!!」
と、周りをぴょんぴょん跳びはねている。
ストンと座った時には、剣竜は銀髪獣耳の姿に戻っていた。
「利点もある。玉蘭の“暴露”は周囲に居ればパスを繋げて、同じ能力が使用出来る。」
建屋の窓やモニタには兎耳の獣人が映っていたのに、直接見るといつもの連や猫火の姿だった、先程までの状況を思い出す。
「しかし、千里眼の一種ならばそう珍しい能力でも無いはずですが…。」
猫火の言葉に同意する様に剣竜は目線を合わせ、頷くと言葉を続ける。
「“暴露”事態はそこまで稀有な能力では無いが、問題は顕現した時期と深度だな。
賜物だとしてもあまりに顕現が早く、深度が深い。そして常時発動していると来る。」
それが何か不都合があるのか?という顔をしている連と猫火に向かって言う。
「子供の身体というのは、いわば紙を折っただけの紙コップも同然だ。
成長すれば、魔族ならガラスコップ…陶器のコップ…中にはオリハルコンのコップにまでなる奴もいる。
だが、玉蘭は紙を折っただけの紙コップだ。」
目の前でホテルの部屋にあったレポート用紙で紙コップを折って見せる。
「魔力を液体だとする。少量の水なら折っただけの紙コップにでも受け入れられるだろう。」
水差しの水を入れて見せると、たしかに折っただけの紙コップでも水は受け止められた。
「だが、中に入る液体が変わればどうなる?」
剣竜が指先をふいと上げると、高熱を発する溶岩の様な液体が球状になって現れた。
「深度が深く、常時発動できるぐらいの玉蘭の魔力は、只の水ではない。こういう形質の魔力だと思えばいい。」
そのまま、溶岩を紙コップに放り込むと、あっという間に紙コップは燃え尽き消えた。
「このままいくと、玉蘭はこうなる。」
ものの例えとはいえ、目の前で燃え尽きた紙コップを見て連と猫火は青ざめる。
「そ…そんな…」
「なんとかならないのかよ?!」
ため息を一つ吐いて、剣竜はじっと連と猫火を見やる。
「今日明日どうこうなるという話では無いがな。何も手を打たないならば、遅かれ早かれいずれはそうなる。」
宣告を突き付けられ、ただただ沈黙が流れる。
玉蘭は、自分の事を話しているのはわかっているが、話の内容は理解していないのか、父親の膝に上って座って足をパタパタさせている。
「お取り込み中いいかしら?緊急案件なの。」
重い空気の中、キャップがスルリとタブレットから現れた。
そのまま、いま自分が出てきたタブレットの画面をスルスルと操作する。
「貴方たち、有名人になってるわよ?」
そう言い、表示された画面を指差した。




