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幼なじみ、アイドル始めるってよ

プロローグ的な何かです

「あたし、アイドルやることになった」


「…ん?なんだ急に」



藪から棒とはこういうことを言うんだな、と俺、国﨑瑛人(くにさきえいと)は思った。急にとんでもないことを言い出した相手は髙橋叶愛(たかはしかなめ)、俺の昔からの幼なじみだ。

親同士の仲が良く、大学生になった今でも腐れ縁が続いている。


行きつけのカフェ。

叶愛はホットミルクを啜った後、小さく息をつき言葉を続ける。



「ほら、あたしって可愛いじゃん?」


「特殊な性癖がある人は、そう見えるかもな」


「じゃかぁしい」



面と向かって認めるのは癪に障るので言わないが、確かにコイツは可愛い。

高校までは学年、いや学校のアイドルとしてずっと君臨していたのも伊達じゃない。


だが、コイツはチビである。今座っている席からも、床に足が届いていない。

ちっちゃい子に向ける「可愛い」ならまだわかるんだが、と呆れながら首を下に向けて叶愛を見る。



「アンタには言われたくないね、162cmクン♪」


思考を読んだかのように叶愛は喋り出す。


「身長で呼ぶな149cm」


「あっ!人を身長で呼ぶとはぁ、失礼なヤツ!」


「お互い気にしてることを言うのは不毛だ、やめよう」


傷つくだけだからな。



「それはともかくとしてだね、瑛ちゃん」


「カナがアイドル?何がどうなったんだ」


「原宿を歩いてたらスカウトされた」


「んなフィクションみたいなことがあるんだな」


「あたしもびっくりよ!友達と吉◯家出たら急にシゴデキっぽいメガネスーツマンに声かけられてさ、『君は輝ける才能がある!』っていきなり!ノリでOKしてみたんだけど、急に来月デビューだ〜って、もうイミフって感じ」


「原宿で可愛くないモンを食うな」



叶愛は無視して、真剣な眼差しで話を続ける。



「そりゃ素質はあるって認めるよ?ダンス好きだしカラオケ好きだし…でも来月って早くない?もっとレッスン積んで〜、とかあるんじゃねーの?って感じ」


「俺に言われても困る…で?ソロでやんの?グループとかか?」


「『Ma-Squash(マスカッシュ)』ってグループらしい。メンバーはまだ会ったことないけど、5人だって〜」


「グループか、なら多少ミスっても誤魔化せるな」


「ミスる前提で喋んな」



しかし、カナがグループアイドルか…

正直この性格なら、グループのトップにいってもおかしくはない。

アイドルには特別興味ないが、バカにするために初ライブくらいは顔を出してもいいだろう。と、想像を膨らませる。



「ねぇ、聞いてんの?」


「悪い、初ライブ想像してた」


「あたしのアイドル姿、想像した?キモっ笑」


「どう失敗するかシミュレーションしてただけだ」


「もしコケたら、一生懸命慰めてね♡」


「うちの学科で晒し者にしてやろう」


「布教活動協力ありがとう♡マイナスからのスタートがファンを増やす秘訣らしいよ♪」


「へいへい、そーいうことです」



まぁ要領のいいコイツのことだ、完璧に仕上げて上々の結果を残していくだろうな。特に心配はいらないはずだ、と既に空になったカップを持ち上げ、飲んだフリをする。



「それでね、記念すべきファン1号クン」


「ファンになった覚えはないが?」


「やっぱり、あたしのイメージづけって大事だと思うんだよね、マネジにも言われたんだけどなんかいい方法ない?」



アイドルのイメージづけ…全くわからん。

叶愛をジロジロ眺め、茶がかったショートの髪の毛を見てふと思いついた。



「髪を染めてみたらどうだ?個性が出ていいと思うんだが」


「なるほどねぇ…髪を染めたことない陰キャにしてはいいこと言うじゃない?」


「るせわい」


「でもそうだなぁ…あたしのイメージカラーに染めてみるとか!個性出るよ〜?」


「イメージカラーなんてあるのか。何色なんだ?」


「オレンジ」


「眩しすぎる」


「オレンジカラーの髪か〜、何かワクワクしてきたかも!さっすがあたしの一番の理解者だね♪」


「俺は今お前を一番理解できないんだが?」



まぁ、きっと初めてのことに叶愛も不安があったんだろう、相談を持ちかけたってことはそういうことだろうしな、前向きになれたならそれでいい。


暫くして叶愛がホットミルクを飲みきり、会計をして外に出る。叶愛はマフラーをつけ、白い息を吐きながらこちらを見上げニッと笑う。



「あったかくなってきたね〜、春ももうすぐかな?」


「感覚バグったのか?まだ2月だぞ」


「暦の上では立春だぞ〜?桜の開花とともに、華々しくデビューを迎えるのだ♪」


「博識キャラづけか?感心だな」


「キャラ?瑛ちゃん、一度もあたしに成績勝ったことないのにそういうこと言えるんだ」


「降参です」










それから一ヶ月経ち3月後半。いよいよMa-Squashのお披露目ライブが始まる。会場は200人ほどが入るキャパだが、人はまばらだ。50人いるかいないかだろう。よくこれだけ集まったものだが…

叶愛は「鹿目(かなめ)夢愛(ゆあ)」としてステージに立つ予定だ。上手く本名にハマっていて、面白い芸名だ。



ライブステージが始まった。アイドルライブは見たことがないからよく分からないが、叶愛は贔屓目抜きでも目立っている方だと思う。ダメダメなら少しは気遣ってやろうとも思ったが、これなら心配なさそうだ。


周りの客もオレンジの髪色と底抜けの明るいキャラ、身長の低さを補うダイナミックな動きと存在感に目を奪われているようだ。トップアイドルになれるかは置いといて、グループの頂点は取れるかもしれない。


MCが始まる。トップバッターは特徴がなくて名前も忘れてしまった。2番目が叶愛の番のようだ。



「こんばんは〜っ!小さなカラダでも夢は大きく!Your(ゆあ)アイドル、鹿目夢愛です!私の愛に、夢中になってね♪よろしくお願いしま〜っす!」



正直顔見知りレベルでも恥ずかしくなるようなものを見ているが、あまりにも“完璧”で思わず息を呑んでしまった。素質もあるだろうが、積み重ねた努力を感じられて素直に感動を覚えた。3番目のアイドルの自己紹介が始まるようだが、もう見るものはないかと帰ろうと思った次の瞬間、










―――――――激しく衝撃を受けた―――――――






「こ、こんにちはっ、じゃなかったこんばんはっ…星の川からみんなに音を届ける、星川湊音ですっ!銀河の果てでもあなたを見つけるので、私の音を聞き逃さないでくださいね?宜しくお願いしますっ…」








()()()()()()()()()()()()()()()()

そう直感してしまった。




後ろ2人のアイドルの名前、この後叶愛がどうだったか、自分が何をしていたか。


全て頭から抜けていた。






ただ一人の星に、釘付けになっていたから。







星川湊音。


この出会いが、俺の人生を変えることになる。

次はメインヒロイン回です

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