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不穏なニオイ

雨が上がり、太陽が地を照らし始め3人も歩き始めた


トウキ「僕たちは星都まで歩いていくけど、キミも来るかい?」


少女「…いく。他に行くあてもないし。」


トウキ「そう…だよね。というか名前…聞いてなかったね。なんて言うの?」


少女「…フィリア」


トウキ「フィリアかぁ!いい名前だね!」


シン「…ところで…その…フィリアは何で…わたしが女って…わかったんだい?」


フィリア「シンお姉ちゃんの匂い」


シン「に、ニオイ?!え、そんな臭うか?!わたし!」


フィリア「ううん。なんだかお花みたいな匂いがするの。

綺麗だけど…花びらににおトゲがあって痛いけど、いい匂いがするお花…」


シン「ああ…きっとバランバナのことだね」


トウキ「有名な花なの?初めて聞く花の名前だ…」


シン「そう…だね。故郷にたくさん生えてた花…なんだ。」


そう話すシンは少し寂しげな表情だった


トウキ「…にしても凄いなぁフィリアは!ね!ね!僕はどんな匂いがするの?」


フィリア「ん…トウキは…不思議な匂い。血の臭いと…嗅いだことない匂い。ちょっと変な匂い…あとはね…モモの匂いがする!」


シン「多分…血の臭いはこの間屍異奴を倒した剣…斬鮫?のことだろうね。

それにモモの匂いってのは不思議だね。トウキのいた村にはモモは実らない環境のはずなのに」


トウキ「斬鮫のことはお見通しみたいだし、きっと本当のことなんだろうけど…我ながら不思議だなぁ…」


そんな話をしながら歩みを進めていくと旅人と鉢合わせる


旅人「おや、このような所で旅人と出会うとは珍しい。あなた方も旅の途中ですか?」


トウキ「ええ。星都まで歩いていこうと思いまして。」


旅人「そうですか…この先は危険な道のりですから私が案内してあげましょう」


シン「それはご親切に!ありがとうございます!」


フィリア「…?! シンお姉ちゃん!トウキお兄ちゃん!離れて!」


2人「え!?」


旅人「死に場所への案内をね!」


旅人の体から黒いオーラが溢れ出す


トウキ「屍異奴!?」


シン「コイツは…このタイプはマズいな!トウキ、フィリアと安全なところに隠れてろ!」


トウキ「え?!いや僕も一緒に!」


シン「今回ばかりはマズい!いいから離れ…」


次の瞬間、シンは黒い物体に突き飛ばされ木に叩きつけられた


トウキ「シン?!」


さっきまで目の前にいた旅人の姿は異形の姿へと変貌しつつあった…


旅人「ウゥウゥゥ…」


トウキ「なんなんだ…?屍異奴って人間の影から出てくるモンじゃないの!?何で背中のカバンから…?」


シン「…コイツぁ屍異奴だが、今までのとタイプが違う…ヤツは寄生タイプ…パラサイトだ!ヤツは…」


トウキ「フィリア、シンを抱えて離れてて!


シン「おい!トウキ…待て!話は最後まで…」


トウキ「戦うよ。シンをこんなにしたヤツを許さないっ!」


シン「待て!そいつは…」


トウキ「今度は好きにさせない。僕自身の力で…倒す!」


斬鮫を構え屍異奴=トレッカーに斬りかかるが…


トウキ「き、斬れない?!」


アラクネ戦であれだけの切れ味を見せつけた斬鮫だったが、トウキが斬りつけても文字通り全く歯が立たない


トレッカー「何ダァ?ソのナマクラはぁ?!」


シン「ダメだ…使い手が武器を拒んでは武器も応えてくれない…!」


トウキ「くそっ!なんでだ!おい!斬鮫!」


斬鮫「なんだぁ?」


トウキ「力を貸してくれ!」


斬鮫「いいぜ?さあ、また俺に力を寄越しな!」


トウキ「それはダメだ!あんな酷いことは二度とごめんだ!」


斬鮫「ならなんだ?お前が俺を使うのか?

人間に使われるなんてそれこそ二度とごめんだぜ!」


トウキ「何だそれ!いい加減にしろ!」


トレッカーの攻撃を受けながら斬鮫と対話を試みるが、互いの言い分は平行線を描き続けていた


トレッカー「一人でブツブツ…随分ト余裕だナァ!」


トレッカーの背中に背負ったバックパックから追尾弾が飛び、周囲を巻き込みながら攻撃する

トウキは防ぎきれずダメージを受けてしまった


トウキ「ぐあっ!」


トレッカー「間もナク…目的地周辺ッ!死ニ場所だァァァァ!」


膝をついたトウキ目掛けてトレッカーはサバイバルナイフを持ち距離を詰めて襲いかかる


シン「帯流電(たいりゅうでん)地走(ちばし)り!」


見かねたシンが石に剣を地面に突き刺すとトレッカー目掛けて雷が迸る


トレッカー「ウギャアアアア!」


シン「ったく見てらんないぜ…」


フィリアの肩を借りながらシンは立ち上がった


シン「いいから、まずは話を聞け!パラサイトは宿主が大切にしている“モノ”に取り憑く!そこから持ち主の体を蝕んでいって、やがて同化していくんだ!」


トウキ「じゃああの人は…助けられないの…?」


シン「完全に侵蝕されていなければ助けられる!今まで戦ってきたタイプ…ドロニンギョウと違って本人の意識を覆うのに時間がかかるのさ…。だが…」


トウキ「だったら早く…!」


シン「ま、待て!今のままじゃ…」


トウキは斬鮫の柄を握り直し斬りかかるが


トレッカー「効かナイ!」


やはり弾かれてしまう


シン「武器を拒否してる今のお前にできることはない!下がってろ!」


トウキ「そんな…僕は…」


シン「いいから見てろ!フィリアを頼む!」


トウキは唇を噛みしめながらフィリアと共に下がる


トレッカー「誰ガ来てモ案内先は変わラナイぞォォォ!」


シン「どうかな?…行こう…麒麟(キリン)。」


石の剣に優しく手を置くシン。そして剣先まで撫でる様に優しく手を這わせると剣全体に雷が帯び始めた。

その勢いはトウキの村で見せた時よりも激しく、剣に迸る雷はまるで生きているようだった。次第に剣を覆っている石が剥がれていき青白い刃が姿を現した。


シン「限界突破!麒麟剣…タテガミ!」


フィリア「…きれい。バチバチの風の匂い…」


トウキ「石の剣が…雷の剣に変わった?」


フィリアの毛先が麒麟剣の電気に反応して逆立つ。そして風で揺れる馬の(たてがみ)のような刀身にトウキとフィリアは目を奪われた


トレッカー「ソンなノ、見掛ケ倒し…ダっ!」


トレッカーはバックパックから追尾弾を放つと同時にサバイバルナイフを振り回しながら距離を詰めていく


シン「!」


雷を帯びた剣を一振りすると斬撃が追尾弾を弾き落とし、さらに手に持ったサバイバルナイフを弾き飛ばす。シンは流れるような体捌きでトレッカーの横につき、横から足を蹴って体勢を崩すと、その隙に背負っているバックパックの肩紐を切り、トレッカー本体から引き剥がした

雷に触れたバックパックは燃え、トレッカーは徐々に人の姿に戻っていった…


シン「よく聞けトウキ!!モノには魂が宿り、持ち主と対話することで互いの思いが力を何倍にも膨れ上がらせる!

このパラサイトはさっきも言った通り宿主の人間が大切にしている“モノ”に取り憑いて、その“モノ”が発する力を利用する屍異奴だ!

形は違えど、お前とその剣も同じだ!剣を拒めば剣は力を貸してくれない!

力を欲してもキチンと対話を果たせなければ力を勝手に利用されるリスクもあるんだ…。

現にさっきのデカいクモと戦った時は力を欲した結果、剣に力を奪われた。このパラサイトと似た様な状態になっちまったってことさ!

そもそもその剣はもともとお前の“モノ”じゃなかった。いわば拾いモノだ。そもそもいきなり対話ができること自体が特殊なケースだが、だからこそ対話し、調和することが重要なんだ!」


トウキ「…確かにあの時、僕はシンを助ける為に力を欲した。でもこの剣は自分が暴れる為の力を求めていた…

今回も話してみたけどあんな人ごとぐちゃぐちゃに喰うような姿は見たく無いから僕はコイツを拒否した…

でもおかしいんだ。コイツ、剣なのに僕…いや、人に使われることに対してすごい嫌悪感を持っているみたいだった…」


シン「嫌悪感…とにかく早く星都に行こう。そこでならきっと…その剣についての書物もきっとあるはずだ。それに俺の師匠に戦い方を教えてもらうよう頼んでみるよ。」


トウキ「…わかった。」


屍異奴から元に戻った人を背負いながらしばらく歩くと、立ち往生している獣車と旅の一行と出会った。


トウキ「どうしたんですか?」


乗員「案内人が崖から落ちてしまって…。助けに行こうにもさっきまでの雷雨で足場がぬかるんでるからどうしようかと…ってあれ?その人…」


トウキが背負った人物見て乗員は目を丸くした。話を聞く限り先ほどまで屍異奴に侵されていた人こそがその案内人だそうだ

そしてしばらくすると案内人は意識を取り戻した


案内人「うう…あ、あれ…生きてる…?」


乗員「兄貴!無事でよかったぁ!落っこちたときゃ…俺ァもうダメだって思ってたんだけんど、この人達が助けてくれたんだぁよ!」


案内人「そう…みたいだね…ごめん…記憶が曖昧でよく覚えていないんだけど…ありがとう」


シン「無理もないさ。屍異奴に取り憑かれていたんだからね。無事でよかったよ。」


案内人「…屍異奴…?ああ、そうだ…崖から落ちた後、どうにか這いあがろうとしてたら、急にあの黒いヤツが現れて…。俺にくっついてからの記憶が…そうだ…。俺の…俺の荷物は?!」


シン「すまない…君を助けるときに燃えてしまったよ。」


案内人「そんな…あの中には娘にもらった大切な魔導針まどうしんがあったのに…」


トウキ「魔導針…?」


シン「自然の中に存在するマナを検知しながら常に北を指し示すアイテムさ。」


トウキ「僕たちの中だけじゃなく、自然の中にもマナはあるの…?」


シン「首を傾げてばっかりだな…。こないだグレイが俺たちの体にはマナって呼ばれるエネルギーがあるって確かに言ったけど、

この世界も俺たちと同じように生きているんだ。自然の中に存在するものにも同じエネルギーがあるんだよ!

雪山にいた時、何もない所で火を起こした着火魔石だって空気中のマナを火属性に変換し利用する為のアイテムさ!

…待てよ。まさか屍異奴は背負っていたバックパックではなくて中に入っていたその魔導針に取り憑いていたのかも…」


トウキ「そういえばあの大きな荷物もかなり派手に燃えてたよね…?

あれじゃあ、その魔導針ってのもきっと燃えちゃったんじゃないかな…?」


シン「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。彼にとっても大切なモノだし、念のため確かめに戻ってみよう」


獣車の旅人たちと共に屍異奴と戦った場所へ戻り、周囲を隈なく探してみるも魔導針の残骸は見当たらなかった


シン「やはりそうか…くそっ。逃げられた…」


そんなシンの姿を木陰から鋭く睨む1つ目があった。

そこから生えた脚を器用に動かしてその魔導針は足早にその場から離れていった


シン「すまない…あんたの大事なモノ…守れなかったみたいだ。」


案内人「いや、命は助かったんだ。贅沢は言ってられないよ。

そうだ!その礼といっちゃなんだけど…もしよければ目的地まで俺たちの獣車に乗って行かないかい?」


獣人「お、そりゃいいな!ついでに護衛もしてもらいたいしちょうどいい!」


トウキ「いや、でも…」


獣人「大丈夫さ。アンタ、その子みたいに俺が奴隷だって思ってるんならそれは見当違いだぜ?

俺は自由を愛し、お客様を目的地まで運ぶ世界の運び屋…フンゴだ!それにホラ、俺には手に枷だって無いだろ?」


シン「トウキ、誰もがみんな亜人を差別しているワケじゃないさ。フンゴさん、じゃあ星都まで一緒に頼めるかい?」


フンゴ「おうよ!ノンストップで猪突猛進!かっ飛ばして行くぜぃ!」


トウキ、シン、フィリアを乗せたフンゴの引く獣車は凄まじいスピードで真っ直ぐに進んで行くのであった…

日も落ち、夜になってもフンゴの引く獣車は休むことなく走り続ける


シン「フィリア、平気かい?」


フィリア「うん…でもなんか不思議。案内人の兄貴のお兄ちゃん… さっきと違う匂いがする…今は土の匂いがする。」


シン「さっきの怪物…屍異奴が完全に抜けからだろうね。さ、今日は疲れただろう?隣で大いびきかいてるヤツみたいに寝ておくといい。ゆっくりお休み。」


こくりと頷くとイビキをかきながら眠るトウキに寄りかかるようにフィリアは目を閉じた


乗員「なぁシンのダンナよぉ、そのお嬢ちゃんもトウキ君も何かあったクチかね?」


シン「ああ、2人とも似た境遇だったよ。トウキは何故だか村で忌み嫌われていて追われるように村を出たんだ…。フィリアは家族を目の前で殺されて奴隷に…」


案内人「…なんだか絵に描いたような扱いを受けてたんだな…。

それに加えてあんな得体の知れない屍異奴…だっけか?あんな怪物を前によく立ち向かっていけるよなぁ。」


シン「トウキに関しては村人のほとんどが屍異奴に取り憑かれていたんだ。フィリアは…」


フィリア「んー…おかあ…さん」


シンはトウキの肩に寄りかかるように眠るフィリアを見つめる。そして悲しそうに寝言を呟く彼女の髪を撫でた



フンゴ「さあ!着いたぜ!最も星空に近いと言われている場所…ここが星都(せいと)だ!」


真夜中、フンゴ達と別れた一行は

満面の星空が照らしている街に足を踏み入れるのであった…

お読み頂きありがとうございました。


もしも

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・続きが気になる

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皆さんに見て頂けること自体が嬉しいことですし、これからも貴重なお時間を共に過ごせるよう頑張って書いていければと思いますので応援よろしくお願いします_(:3 」∠)_

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