未来へ繋ぐモノ 7
レッツ調合。集めた材料を使って呪いを浄化して生命力を活性化する霊薬を作ります。
全ての材料が揃ったルカ達はAMaiAへ戻りノアを回収し、薬作りのためグレンの工房に向かった。ノアは道中、スケアの全身骨格206ピースの本物の骨パズルを楽しんだという。スケアは案外あの見た目から怖がられるかと思いきや、子供と遊ぶのが得意だったようで、ノアは退屈することもなかったし、むしろずっと楽しく笑えたという。そんな話を聞きながらルカとグレンもアスタロトの屋敷の話をした。
そういているうちにグレンの工房に到着し、薬を一緒に作る。
刻んだり、すりつぶしたり、または湯がいたり、蒸したり。ルカも簡単な薬は自分で作れるが、グレンのように薬師の免許はない。だから本職の薬作りはとても勉強になる。様々な行程を行い、ゆっくりと薬を作り上げていくその姿は科学者のようでもある。
ノアは父親が薬師だからか次にやることの想像が容易にできるようで、道具をてきぱきと揃え、自分でもできることを率先して手伝い、実によく働いた。小さな助手と言ってもいい。グレンとの息がぴったり合っていた。グレンも途中からはいくつかの簡単な行程を彼に任せていた程だ。完全に信頼しきっていた。
ノアは時々、グレンのことを父さんと呼んでいた。普段から父親の手伝いをしている癖なのだろう。父さんと呼び間違える度に恥ずかしそうにしていた。グレンはその度にノアの仕事を誉めては気にしないように優しく言っていた。
ルカは薬作りを二人に任せ、キッチンへ立つ。二人の仕事が終わった後に食事ができるようにだ。昨日ノアが来てからあまりしっかりした食事をしていない。食べたものと言えば、簡単にできる軽食くらいだし、未明に一度仮眠をとっただけであまり寝ていない。自分達もそうだが、ノアにとってはかなりハードだっただろう。体も小さく、精神的にも疲れているはずなのに弱音一つ吐かないで作業を行っているのは、家族の命がかかっているからだ。
彼は強い。その強さにルカは母と同じものを感じた。自分を守るために犠牲になった母親。最後の魔法は村人とルカを助けた。いや、娘の命を助ける為の魔法だった。同じだ。ノアも母も。
「お母さん」
母はもういない。そういえば、母は彼女自身のことを話さなかった。魔界で何をしていたのか、ルカの父親のこと、母の両親など家族のこと。聞こうともしなかったのは、そういうものだと思っていたからだ。あの生活には確かに色々と物は足りていない少しだけ貧しい生活だったが、母の愛で満ちていた。それだけで幸せだった。
いつか、自分のルーツを探そう。そして、母の親族に母のことを話そう。そして、母という魔女を語り継ぐ。偉大な母を。低魔力症で絶望した人の助けになれるかもしれない。
そんな少し先のことを考えていたら、やかんの高い音が聞こえた。まずは、しなければならないことをしないと。現実に頭を切り替えた。
そして、薬は出来上がった。
透明感のある薄い黄緑色をした少しとろりとした液体の薬。淡く黄緑色に発光する薬は二つ。呪いをかけられたノアの母親に薬を飲ませれば、浄化力と生命力で呪いの効果を打ち消すことができる。祖父は母親の呪いを肩代わりし軽減・減衰させて呪いを解いている最中だが、彼の為にも処方した。家族全員が早く良くなれば皆が幸せになる。
「さぁノア。これを君のお母さんとお祖父さんに飲ませて。これで二人は助かるよ」
「何から何まで、本当に有難うございます」
「どういたしまして。きっと、そのうち魔界警察がお母さんに呪いをかけた者を逮捕してくれる。大丈夫、信じて待ってて」
「はい」
大事そうにその薬をそっと胸に抱く。これで助かる、と誰もが安心した。
「……ォ、ォォオオ……」
風鳴りのような音が聞こえた。気づけば嫌な気配が外からする。いいものではない何かが確実に外にいる。そんな気配だ。
グレンがルカにハンドサインで指示を出し、窓辺にそっと偵察に向かう。ルカはノアを抱き寄せると腰を低くして息を殺す。グレンがゆっくりと外の様子をうかがえば、辺りには黒い靄のような煙のようなものが立ち込めている。ゆっくりと目を動かして本体を見つけた。一番黒が濃くなった場所にそれはいた。
「あれは、ラミアー」
ラミアー。
女神により、子供を失い、苦悩して他人の子供を襲う女怪。それがラミアーという上半身が人で下半身が蛇という怪物だ。それが恨みのこもった闇の気を纏ってすぐそこにいる。
なぜ、どうしてここにそんな怪物がいるのか。こんなに近くまで来ているのに気づかなかったのか。
ラミアーという怪物を始め多くの怪物は人里に降りてくることはあまりない。意志疎通が出来るものなら怪物でも人里に住むことは可能だが、その数自体は極めて少ない。グレンだって自分の身近で今まで見たそういう者は、皆とても友好的で知性もあり他種族に害を与えないように生活している者達だった。それ以外の攻撃的な種族は人里で見たことはなかった。
この様子を見るに、人里に住んでいるようなやつではない。こんな闇の気で周りに黒い霧を纏わせているやつが意志疎通のできるいい怪物なわけはない。
何がどうなっているのか理解できないが、このままでは危ない。逃げなければならない。それだけはわかる。自分の工房を捨てて逃げることになるが、命が大事だ。貴重な薬草や劇薬だったりは異空間保管庫にあるから良しとして、他のは最悪の場合処分することになるだろう。工房が破壊されていればの話だが。
「き、来た……」
ノアがひどく怯えている。
「ノア、落ち着いて。すぐにここから逃げよう」
「だめです! あの人は僕を追ってきた! 絶対にここまで追ってこれない筈ないのに! 追ってくることは、不可能な筈なのに……」
「あれを知ってるのかい?」
グレンの問いに彼は震えながら答えた。
「母さんを呪った魔女です。あの気配と魔力は、間違いなく」
この章の敵、登場です。




