波乱のハロウィン 6
6話目。エピローグ。
「ジャックはやっぱり、カボチャ頭がいいよ! その方が安心する~」
「そうですね。やっぱりこれが一番落ち着きます。生まれたときからカボチャでしたからね」
ジャックの頭はカブからカボチャ頭に戻っていた。そのジャックにトムがべったりとくっついている。もう、あんな悲しい思いはしたくない。その悲しい思いを埋め合わせるためにこうして朝も夜もべったりとくっついているのだ。このべったり期は暫く続くだろう。トムの気が済むまでそのままにしておいてあげよう。
海賊の方はジャックのもう一つの炎により死んだかと思われたが、彼は生きている。ジャックが燃やしたのは、彼の悪の心だけだったからだ。お陰で彼は改心し、悪事を働いたことを反省し自ら牢の中に入ったのだ。
ジャックら、カブ頭だった者達、また事件当夜にカブ頭で黒い服を着ていた者達の元へあの海賊ジャックが来たとき、彼は仲間達を逃がすために自分の魔力で炎を起こし、他の者を逃がしたのだ。見せかけだけの燃えない熱くない炎。それは炎が苦手なアンデッド達や悪魔なんかを逃がすために炎で道を作り最短距離で逃げられるようにした優しい炎だったのだ。誰も悪人にしてはならない、という彼の正義が今回の捕り物で全く損害を出さずに終わったのだ。
この事でジャックは魔界警察から表彰を受け、一躍時の人となった。そして、彼は補償として一つ願いを叶えてもらった。煉獄の炎を貰うことだ。
『また、我々はこの番をせねばならないのですね』
煉獄の炎を返しに行った時に、落胆の声を出したジュード牧師。理由を聞けば、あまりにも悲しい人生を妹が歩んでいるというのだ。そもそもの元凶がなくなれば二人は自由になれる。そう考えたジャックは補償に煉獄の炎を貰い、彼らを炎の番人から解放した。
ジュードはもう来る者がいない村外れの教会の土地を売った。そのお金でカメリアはデザイナーになるための専門学校へ通うことになった。ジュードは妹のカメリアが救われればそれで満足だと喜んでいた。人間界の教会側も誰も来ない教会にいるよりはとジュードを受け入れた。
魔界も人間界も双方が救われたのだ。
「魔界警察によると、あの海賊の方は大人しく犯行動機を喋って、素直に取り調べを受けている、だって!」
「ハロウィン海賊団を結成し、世界各地で宝を盗み、略奪と喧騒にまみれた混沌とした世界を作ろうとしていた模様……。全く、阿呆か。ハロウィン海賊団とか、ネーミングがダサいぞ。そのまんまか、少しはひねろ」
新聞を読んでいるノアールとサリエルが言う。サリエルの言葉にうんうんとマミが頷いている。
皆がルカの家に集まりジャックのために仲間達がパーティーを開いているのだ。勿論、今回の事件に関わったジュードとカメリア兄妹、そして悪魔のエイミーもだ。
それぞれが魔界や人間界から持ち寄ったお菓子や料理を食べながら穏やかな一時を過ごす。
「いや、悪魔の持ってきた物を食べるだなんて、そんな……いや、悪魔にもいい奴がいるのはわかっているんですが……」
「安心してくれ。これは人間界のコンビニでちゃんとお金を出して買ったやつだ。コンビニのお菓子はすごいんだぞ」
「悪魔からコンビニとか聞きたくなかったですねぇ。悪魔なら悪魔らしいもの持ってきてくださいよ……」
セーレとジュードのやり取りにカメリアが笑う。心からの笑顔がとても嬉しい。ただ、その隣の悪魔からは不機嫌さがにじみ出てお菓子と料理のやけ食いをしている。
「万々歳。ほんと、いーですよねー。アタシはどうしたら……何でおっきな教会に行っちゃうんですかージュード牧師お兄様ー! うわーん!」
「また教会を探せばいいじゃない」
「違うんですよ黒猫さん! アタシ、ほんっとに力の弱い下級悪魔だからアタシが入り込めそうな教会を探すのが大変なんです。聖なる力の弱い教会じゃないともう苦しくて苦しくて。ほんとにあの教会は優良物件、更に言うとお兄様とカメリアちゃんがいい人だったからこうして祓われていないんです。もう、あんなにいいとこ見つかりませんよー」
エイミーがトホホ、と落ち込む。
それを見たカメリアがエイミーに言葉をかける。
「私、勉強で忙しい時でなければ教えてあげられますよ。いいですよね、お兄様?」
「……はぁ。お前だけですからね。あまり入り浸りすぎてカメリアの邪魔をしてくれるんじゃありませんよ」
「カメリアちゃん、お兄様……」
「私も貴方に教えられることがあるかもしれません。今まで得た知識、なめないでくださいよ。私もあれから多くのことを学びましたからね」
「ジャック……いや、もうジャック先生と呼ばせてください! うわーん! 皆さんに一生着いていきますー! 教会の方は同人誌のためだったけど、同人誌のやつが終わっても、アタシ達、ズッ友ですからねー!」
嬉し涙を流しながらカメリアに抱きつくエイミー。よしよしとあやすようになだめるカメリア。妹から悪魔を引き剥がそうとするジュード。いい具合にカオスで、楽しくて、ハロウィンがまたやって来たみたいだ。
皆で楽しく、夜が明けるまでこのパーティーは続いた。
「貴女から頂いたこの命。貴女のためにも使うことになるとは……。恩返しができるのでとても嬉しいです」
「これ以上貰っちゃ悪いですよぅ。もう既に知の契約で頂くものは頂いているのに」
夜明け前に二人が話していた。エイミーとジャックだ。
「でも、貴方から教えてもらうなんて思ってもみませんでしたよ。そっかー、もう200年くらい経ってますもんね。私、貴方の魂を取らないで本当によかったです。だって、こんなにも立派になって、私も嬉しいですから!」
「ええ。まさか、また会えるとは私も思っていませんでした。それに今回はあなたの一言で事件のヒントが得られたそうじゃないですか。また、私は貴女に助けられたんです。その分を返してもいいでしょう?」
ふふっと微かに声をあげて笑うジャック。エイミーもいたずらを思い付いたみたいににやっと笑う。
かつて、ある貴族少年とその執事がいた。少年は幼くして両親を亡くし、遺された事業と家を引き継いだ。少年らしい天真爛漫な姿は消え、彼は大人のように厳格に振る舞うようになった。少年は恨みを買ったのか、或いは遺された家の財産が目当てか。家を焼かれ、煙に巻かれ、彼を守ろうとした執事共々焼死した。
死の直前、執事は悪魔を呼び出し、自分達を助けてもらおうとした。しかし、呼び出した直後に力尽き、死んでしまった。
死後、魂の状態になったとき、悪魔はまだそこにいた。
『助けられなくてごめんなさい』
悪魔は涙を流して謝った。執事は悪魔を許した。その涙が美しいものだったからだ。そして、執事は願いを叶えてもらうため、悪魔に泣き止んでもらうためにある契約を持ちかけた。
『私達は誰に殺され、何故死なねばならなかったのか知りたいです。貴女に坊っちゃんの今までの記憶と姿を差し上げます。坊っちゃんには辛い思いはさせたくありません。その後は、どうぞ、私を好きにしてくださいませんか?』
それは過ぎた対価だった。
悪魔は物を書くのが好きだった。坊っちゃんの生前の記憶と姿を資料という対価で、執事の坊っちゃんを愛する気持ちを受けて、その通りにしたのだ。
知の契約。
二人の間で交わされた特殊な契約だ。
悪魔は彼らの死んだ理由を探しだし、契約の通り坊っちゃんの記憶と姿を貰った。執事達が魔界で生活できるように用意を整えた後、悪魔は執事達に別れを告げ、それぞれはそれぞれの生活を送ることになった。
そんな過去を思い出した。
今回の事件で再び出会った執事と悪魔はこれからは先生と生徒という関係になりそうだ。
「ジャックぅ……」
「おや、トム。起こしてしまいましたか?」
「またジャックがいなくなるのは嫌だから……。エイミーお姉さん、もう帰るの?」
眠い目を擦りながらトムがエイミーに問う。エイミーはトムに視線を合わせて明るい笑顔で言う。
「トムちゃんごめんねー。これからお仕事なんですよー」
「お仕事なの? それじゃあ、帰らなきゃだね。ご本を作ってるんでしょ? いつか僕も読んでみたいな」
「じゃあ、トムちゃんのために今度はご本を作って持って来てあげますからね」
「ほんと? ありがとう! エイミーお姉さん」
「きゃわわ~」
トムのために帰ったら本を作ろうと彼女は心に決めた。そして、この子達の魂を取らないで本当によかった、と思った。
エイミーは夜明けの空へ飛び去った。いつでも頼れる先生と、いつでも愛でたいかわいい坊っちゃんがいるこの家にまた来よう。
今度は坊っちゃんのために本を作って。
そして、今回、ジャックを容疑者に仕立てた海賊の方に入れ知恵をした黒幕の情報を持って。セーレやサリエルがこの事件の背景に何かあると感じたからだ。エイミーはそれを探る手伝いをしたい。こうして会えたのも何かの縁なのだから。
「アタシも、やられっぱなしは趣味じゃないんで」
知の契約は今もなお有効だ。
大・団・円!
明日は登場人物のまとめとキーワードの解説です。
また明日。




