第3960話 雷の試練編 ――新拠点――
瞬の強化のため、雷の聖域へと訪れていたカイト。そんな彼らがたどり着いた雷の聖域だが、これはカイトも見た事がないという、近未来の施設のような構造であった。そうして攻略を行う前の小休止を挟んでいたカイト達であったが、そこに響いたのは妹の浬の声であった。
そうして宇宙港に似た場所を進んでいた一同であったが、手に入れた地図に表示される巨大ドームを目指して進むも、その到着直前にまるでこれから試練の本番と言わんばかりに幾つかの隊に分けて飛ばされる事になるも、幾つかの部屋を調査してなんとか戻れるだろう道を発見。テレポーテーション装置を使って、最初の拠点を設置した場所へと帰還していた。
「なんと言いますか……長居しすぎると、戻れなくなるのではと思いますね」
「天道系列の施設での学会より良い設備だぞ、多分な」
「だからですよ」
カイトの返答に、煌士が少しだけ苦笑気味に、そして恥ずかしげに笑う。何度か触れられた事があるが、カイト達をして天才と言わしめる灯里がフォローに入っている科学分野の天才だ。
というわけで彼は中学生にして国内外の学会や最先端の技術を使った研究室にも行っているわけであるが、雷華が用意した会議室やらの設備はそのどれもを上回っていたようだ。
「おそらくこの部屋はこの文明にとって、取るに足らない程度の技術しか使われていないのでしょう。それでなお、我々の保有するどの最先端技術の集合体よりも上を行く。何世代差なのか」
「さぁな……だが100年や200年の差にはなるだろう。宇宙港の時点でそりゃそうだ、なんだがな」
「宇宙港……なんと言いますか、こうやって目の当たりにしてしまうと、自分の道のりがどれだけ遠いのかと思い知った気がします」
「だからだろう。思い知っとけってな」
煌士は間違いなく地球の技術水準を数世代押し上げた、後世に天才として名を残す人物だろう。だがだからこそ、この試練は彼に向けたメッセージでもあるとカイトは考えたようだ。というわけで、彼はどこか慣れた手つきで、会議室に備え付けられていたコンソールを操作する。
「……よし。これで全部のデータアップロードが終わった。煌士、コントロールシステムのチェックを頼む」
「わかりました」
別に何も無駄に駄弁っていたわけではない。どうやら雷華の用意した会議室には、全ての情報を集約して会議が行える装置があったらしい。流石にほぼ丸一日掛けて調査を繰り広げた後に会議をやるつもりはなかったが、装置のチェックの意味合いも含めてデータのアップロードを行う事にしたのである。
「……終わりました。こちらからもマップの操作が出来そうです」
「よし……にしても、やはり各エリアで色々と違っていたか」
「はい?」
カイトの呟きに、煌士は全員が手に入れた情報が統合されて出来上がったこの施設の全体図を確認してみる。そうしてカイトの言葉の意味を、彼も理解する事になった。
「これは……試練だから全部のエリアで似た構造になるのか、と思いましたが」
「どうやら本格的にどこかの施設をコピーしてきてそうだな。それもかなり巨大な」
元々宇宙港を含めて五つのエリアがある事はわかっていたが、各エリアの詳細は各エリアの司令室で手に入れられるだけで、他のエリアは存在はわかっても、詳しい情報はなかった。なのでこうして情報の集約が出来るようになってようやく、各エリアが大きく異なっている事がわかったのであった。
「オレ達が担当するエリア1は軍用エリア。エリア2は……自然エリアか? そんなものまであったのかよ。だがまぁ……アイナ向きといえばアイナ向きか」
「なるほど……後は工場エリアに、研究エリア?」
「で、別に歓楽街と採掘場もありますよ、と……こりゃ宇宙港というよりも宇宙都市だな。まぁ、そりゃそうか。港がある以上、そこには都市があるか」
自分達も数百年は先の文明がモデルだろう、とは予想していたが、やはりそれでも詳細を目の当たりにすると思わず笑いが込み上げてきたようだ。カイトは呆れながらもどうしたものか、と悩ましげだった。
「はぁ……とはいえ、やはり最初の目的から外れてはいなさそうだな」
「と、言いますと?」
「全体的に巨大ロボットの修理に関わりがありそうなエリアだ。おそらく各エリアに最終目標として散りばめているんだろう。そもそもの話として、部品があった所でオレ達には修理なんて出来っこない。ってことは、設計図やら何やら色々とあるんだろう」
「なるほど……」
一応煌士は科学者に類するわけではあるが、工作機械などを扱って修理などが出来るわけではない。なのでいくら彼でも部品を渡されて修理しろ、それも自分達の技術水準よりはるかに高い巨大ロボットを修理しろ、なぞと言われても出来っこなかった。
となると修理するためには設計図やらそれを可能とする道具やら、それら修理道具や装置を使う操作マニュアルが必要だと理解したのである。
「……まぁ、良い。とりあえず目標は間違っていない事は理解出来た。後の問題は各自どうするか、という所だが」
「パーティ変更も出来ないんでしたね?」
「ああ。パーティは固定。まぁ、それを前提にバランスはしっかりしている様子だが」
まだまだ情報は足りないが、色々と考える事は多そうだ。カイトは再び苦い顔で煌士の問いかけに頷いた。とはいえ、彼としても今日これ以上の思考は御免被りたかったようだ。首を振って立ち上がる。
「……いや、これ以上はよそう。流石にこれ以上やってると疲れる」
「それもそうですね」
とりあえず会議室がある事はわかったし、それ以外にも色々と部屋はあるのだ。まずは足場を固める必要があるのに、ここで足場を固める前に頭を使うわけにもいかなかった。というわけで二人は立ち上がって、会議室を後にする。そうして会議室を後にしてリビングに戻ると、そちらではソレイユがいた。
「あ、にぃー。煌士も」
「おう。台所はどうだった?」
「んー、と、あんまり代わり映えはしなかった。けど、あれでどうやってフライパンとか使うんだろ? 鳴海と侑子はここに置けば良い、とか言ってたけど」
「あー……IH系の火を使わないパターンだったか」
「にぃわかるの?」
「まぁな。地球じゃ一般的な家庭にも普及してるパターンに近いんだろう」
ソレイユに頼んでいたのは台所の調査だ。食事は全ての基本だ。そこの調査を彼女に任せたのは、なんだかんだおちゃらけた所がありながらも、カイトも彼女が優れた冒険者と信頼していればこそであった。
「で、ユリィは? 水回り確認してくれてたと思うが」
「ユリィはさっき出てきて、お風呂沸かしておくって」
「おけ……なにか他に報告は?」
先程も言及されているが、すでに丸一日は調査をした上に、拠点に戻ってまた再調査をしているのだ。すでにかなりの時間は経過しており、全員かなり疲労が溜まっていた。
流石に拠点を勝手に改修した以上問題はないだろうとは思っていたので、軽くチェックしている程度だが、それでも手早く終わらせたい所であった。というわけで重要な所の確認をしてくれていたソレイユは、カイトの問いかけに少し悩んだ後に目を見開いた。
「んー……あ! そう言えば大浴場あったって!」
「おぉ、大浴場か。確かにこれだけ人数居るし、色々と期待しろ、と言っただけの事はあるな」
お風呂好きと言われるカイトだが、別に小さなお風呂が好き、大きなお風呂が好き、温泉が好き、というこだわりはない。敢えて言えば足が伸ばせるならベスト、という程度だろう。
とはいえ大浴場の設置はやはりスペースの問題から簡単に出来るわけではなく、物珍しさもあり興味は引かれている様子であった。そしてそれはソレイユも一緒である。
「ねー。雷華様、わかってるぅ」
「あはは……ああ、煌士。会議室の調査の手伝い、助かった。お前も荷解きやらあるだろうから、そっちに取り掛かってくれ。部屋は指定した通り。大丈夫だな?」
「あはは……あ、はい。ありがとうございます。カイトさんの方は……」
「オレは分身にやらせてる」
「あ、そうですか」
そもそもの話として風の試練においてカイトは分身を利用していた。一応彼の試練ではないので攻略にはあまり多様しない様子だが、荷解き程度は分身にやらせればよい、というのはまったくもってその通りとしか言いようがなかった。
「てなわけで、後はこっちに任せて荷解きをしてこい」
「わかりました。ご厚意に甘えさせて頂きます」
カイトの言葉に、煌士は一つ礼を述べる。そうしてこの後は一同休息を取る事にして、また明日に備える事になるのだった。
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