後編
ボクが∨系イケメンに放った必殺技の一撃のあと、リリカはものすごい殺気をボクに向けて指の骨を鳴らしていた。
背筋に悪寒が走ったよ! キレてたボクもあっという間に冷静になりました!
もしさっきの必殺技が当たっちゃってたら、ボクは全身を粉々にされて肥溜めに漬け込まれてたかもしれない。こわい。
危ないところだった! 九死に一生を得たよね、お互いに!
だいたい冷静に考えれば、∨系イケメンさんをリリカの生贄にしないと、ボクの幸せが逃げていくところじゃないか!
ここで争ってる場合じゃない! ラブ&ピース作戦だ!
「……なに?! よくこれだけの命を。数えきれないな、五十兆ぐらいか?」
「わかったじゃろう、此奴には勝てん。」
「オレの親父も国まるごと三つぐらい消したとか言ってたが、そんなのガキの遊びだな……。」
∨系イケメンさんもボクが昔に何をしてきたかわかっちゃうみたい。恥ずかしい!
魔族に備わってる性能なの? 便利なの? 一家に一台なの?
恥ずかしいけど、この流れに乗らないと危険! いのちだいじに!
「ま、まぁね! っていうかー、国ぐらい何個潰したってなんの意味もないよね。 前に星を丸ごと全部滅ぼしたけどさ、暇になるだけだし。つまんないっていうかー、いまどきダサいよねー。」
「なるほど、そういうものなのか。」
∨系イケメンさんのボクを見る目が変わった。
ついでに、リリカのボクを見る目も変わった。というか戻った。ひとまず殺意が引っ込んだみたいだ。
まだ油断はできない。慎重に、慎重にいくんだ!
「ボクは棒人間のゲンさん。ええっと、ぶつかってごめんね。」
「オレはイツセ。こっちこそ悪かった。色を誤魔化して目立たないようにしていたのに絡まれてバレたから、つい、な。」
目立たないようにって、その∨系スタイルはすごく目立ってると思うよ?
「ホストです」とか言い張るのかな。この世界にホストあるのか知らないけど。
「髪の毛染めてるの? カルミナもやりたい?」
「いや、いい。この歳で染めたくないわい。」
良かった。ボクはそのままのカルミナが好きなんだ!
ううん、ババアには戻らなくていいです。今のがいいの。
「カルミナと言ったか? 混ざってるわりに力が強そうだな。」
「ボクの嫁だもんね! あ、手を出したらダメだよ!」
「出すわけがない。そっちは愛人か?」
イツセったら、ようやくリリカを視界に入れたよ。
リリカはふわふわしたスカートの裾を握りしめて真っ赤になってた。
きっと手汗がひどいんだろう。
「ち、違います! 飼い主です!」
「ゲンさんが飼ってるのか。」
「いやいやいや! そういう関係じゃないから! この娘はリリカ、家族みたいなもんだよ!」
なんてことを言い出してくれるの! ボクはカルミナ一筋なんだから!
それにリリカの飼い主とか怖すぎる。誰だってセアカコケグモを手乗りで飼うのはこわいでしょ?
だからイツセを生贄にしてボクは逃げようと……そうだ! ちょーイイ娘だって紹介しよう!
「ちょっとイツセ、こっちに来て。」
「なんだ?」
「あのリリカって娘なんだけど……、かなりの美少女でしょ、そのうえ賢いし、ハキハキして明るいんだ。しかも極悪で残虐非道で、人のことを人とも思わない扱いをしてくるし、ナチュラルにトラウマを与えてくる。それに、エグい罠が大好きで、あざとい演技が大得意で……。」
あれっ、イイ娘だって褒めちぎってオススメするつもりが、本当のことしか口から出てこなかった!
ボクってば正直者なんだからぁー。てへっ。
……じゃないよ!! リリカにバレたらどんな目に合わされるか!
ボクは慌てて周囲を見回した。リリカいないよね。
「へえ、面白そうな女だな。」
「うぇ!?」
なんか逆に興味を持ってくれたらしい。蓼食う虫も好き好きとか言うもんね。
イツセはさっそくリリカに構いに行ってくれたよ。
「あ、ボクとカルミナはちょっと用事を思い出しちゃったから! またね!」
「あとは若いもんに任せて、というやつかの。」
ボクとカルミナはその場から離脱したけど、遠くから振り向いて見てもリリカは緊張してもじもじしてて真っ赤だった。
なんか、二.五枚目のリーダーと喋ってたほうが生き生きしてたような気がするよ。
リーダーのことお兄ちゃん (ハート)とか呼んでたらうまくいくんじゃない?
でも、リーダーが穢れるのはヤダなー。ボクは複雑だよ。
「ゲンさん、色々と考えても仕方ない。リリカは自分で考えて動ける子じゃ。思ったようになるように、応援だけしてやろう。」
「……そうだね。ありがと、カルミナ。」
そうだよね! リリカならきっと自力で逆ハーレムとか形成して天下に君臨するよね!
どっかからショタとか陰険メガネとか女装男子とかアラブの石油王とか発掘してきそう。
うん、リリカならきっとやってくれる。あ、なんかボクがリリカを後ろから扇で仰ぐ係になってるのまで想像できた。逃げたい。
「じゃあカルミナ、宿屋でも行く?」
「行かんわ!」
せっかく二人きりになったのに、なぜかカルミナは無情かった。
いや、理由はわかってるけどね!
もっとムードとかいるよね。でも棒人間でどんなムード出すの?!
仕方ないから普通にデートしよう、デート!」
「カルミナー、ヤキトリ食べにいこ!」
「仕方ないのう。二本までじゃぞ。」
「わーい! カルミナ大好きー!」
あれっ、なんかボク、いつの間にか孫扱いされてない?
ムードとかいうレベルじゃない! せっかく二人っきりになったのにー!
ヤキトリは美味しく頂きました。もう一本食べたかった。
リリカとイツセは、思ったより早く合流してきたよ。
なんでかと思ったら、リリカがもう沸騰寸前って感じだった。まさか、こんなリリカを見る日が来るなんて。
ボクもカルミナをこんな感じにしたいよー!
不可能ってわかってる、だからひたすらイケメンが妬ましい。
「ゲンさん、オレん家に来い。」
「えっ、ボクの後ろの処女は決めた人がいるから!」
「違う。親父に見せたい。」
「えっえっ、いきなり婚約者? ごめん、ボクにはカルミナがいるから。」
「そういうのは無いから。」
イツセがボクを家に招待してきたよ。
友達の家に遊びに行くなんて何億年ぶりだろ? ボクが人間だった時の小学二年生以来だよ!
しかもお父さんに紹介するとか、家族ぐるみのお付き合いを希望してるの?
「じゃ、行くよ。」
「ハイっ! って今から? 近いの?」
イツセは近くの普通の民家の木戸に手のひらを当てると、手のひらの下が青緑に光った。
扉を押し開けると真っ暗な空間が広がってる。
掌紋認証かー。魔族ってハイテクなんだね!
ボクたちが扉をくぐると、真っ暗に見えた空間はちょっと豪華な調度品がある部屋だった。
闇の帝王って言っても、わりと身近な普通の民家に住んでるんだね。
やっぱり夜にだけ元気に繁華街に繰り出したりしてるのかな。
「ゲンさん、あれは移動術じゃ。本当にあの民家に入ったわけではないぞ。」
「えっ! う、うん、もちろんわかってるよー。アハハ。」
別の場所に移動してたらしい。窓の外を見ると、さっきいた場所の街並みとは違ってた。しかも外がちょっと薄暗い。
カルミナにはお見通しってわかってるけど、ボクの言い訳をスルーしてくれるところが優しいよね。
リリカもちょっと驚いてる。ボクだけじゃない。だいじょうぶ。
闇の帝王のアジトに来たわけだけど、リーダーに教えたほうがいいのかな。
ああー、でもここの場所がよくわからない!
それにそれに、リーダーの連絡先聞いてなかった!!
「話つけてくるから、適当にくつろいで。」
イツセはさっさと出ていった。
ボクとカルミナは高そうなソファに座ったけど、リリカはイツセが出ていった途端にゆでダコ状態から元に戻って、壁にかけられた絵画の裏側とか花瓶の中とかをチェックしだした。いったい何をしてるの?
ボクならベッドの下とか、引き出しを外した底とか、不自然にカバーかかってる本とかチェックするけどな。
「……カメラおよび盗聴器無し。」
リリカ、いったい今までどうやって生きてきたの? 頭大丈夫なの?
ボクはリリカから目をそらして、カルミナの胸に頭をうずめた。ゲンコツくらった。
そんなことをしてると、コンコンとノックの音が響いた。
「お客様、お待たせしました。こちらへおいでください。」
ここで働いてるっぽい女の人が呼びに来てくれた。いよいよ、闇の帝王とかいうイツセのお父さんに挨拶する時が来たよ。
「息子さんを (リリカへの生贄に)ください!」とか言うべきなのかな?
廊下を通り、立派な扉が開いた。
イツセの隣にいるのが、闇の帝王さんなんだよね?
ヤクザっていうか、極道っていうか、マフィアっていうか……あの怖そうな人だよね?
いや、こわい人だよね。確実に。たった今誰か殺してきましたみたいな顔してるよね。
「こ、こんにちは?」
「こいつがゲンさんだ。親父より強いらしい。」
「なんだと?」
やめて! 煽らないで!ボクは波風立てずに平和に生きたいんだから!
ただでさえ怖いのに、さらに怖い顔になってるし!?
そんな目でボクを見ないで! 視線で人を殺せそうだよ!
「そそそ、そんな、ボクなんて、どこにでもいる普通の人間だよ?」
「棒人間が普通なわけあるか。」
「ふむ、見かけによらんな、確かに凄い。」
ええ、ええ。わかってましたよ。棒人間が普通じゃないってことぐらい!
普通じゃない扱いは地味に傷つくけど、凄いって褒められると嬉しいなー。
見た目は怖いけど、いい人なのかもしれない。
いい人なのにごめんね。息子さんを生贄にしようとしててごめんね。
「ゲンさんというそうだな、私達の仲間にならないか?」
「えっ。」
「人間というわけでもないし、ゲンさんの嫁も魔族の仲間みたいなものだ。こちらに暮らせばいい。」
うーん、ありがたい申し出だけど、生贄の近くにいると、ボクとカルミナのハッピーライフに色々と支障が出るよね?
ここは丁重にお断りしないとね!
「あ、あの、ゲンさんはあたしの家族なんです!」
「リリカも一緒においで。」
「は、はい、いきます!」
ちょっ! リリカなに口走ってるの?!
もじもじしながらさりげなくイツセに近付いて行ってるし!
あっさり了承しすぎ! というかリリカとは離れさせて! お願いだから!
「これこれ、リリカ。お母さんはどうするつもりじゃ。」
「あっ。そっか……。」
カルミナ、助かったー!
リリカはものすごく残念そう。これで諦めるような子じゃないから、もしかしたらまた謎の作戦を立ててお母さんを説得しようとするかもしれない。
今のうちにボクは申し出をお断りさせていただかないとね!
「ボクには無理かなー。ごめんね。」
ボクがサクッと断ると、とたんに部屋の空気が張り詰めた。
闇の帝王さん、怒ってらっしゃる? こわい! 迫力ありすぎる!
「ほーう、じゃあちょっとだけ手合わせでもしてもらおうかな。」
「てっ、てあわせー?!」
手と手を合わせて、てあわせ。いや、それは手のシワとシワを合わせてシアワセだったはず。
ボクのしあわせは何処へ行ってしまったの? 身近なところにいるんじゃなかったの?
闇の帝王さんがゆっくり近づいてくる!
「あああーー、残念だなー! ボクはとっても手合わせしたいけど、イツセのお家が壊れちゃうしなー! あー残念、ホントに残念だなー!!」
ボクは闇の帝王さんから目を逸らしっぱなしだよ。
目とかついてないから、きっと気付かれてないはず! 棒人間で良かった!
「そんな心配は無用だ。」
闇の帝王さんがパキッと指を鳴らすと、すでにボクたちは荒野のど真ん中にいた。
……おかしい。ボクたちはさっきまで、街でぶらぶら歩いてコロッケ食ったりしてたはず。
なんでこの世界のラスボスと対決することになってるの?
ボクの望みはカルミナとキャッキャウフフしながら太く短く生きることだけなのに。
カルミナも余命が少ないらしいからね。ボクも百億年とか生きた経験あるし、あまり長生きに魅力は感じないんだよね。薄い無限の日々より、濃くて充実した生をおくりたいよね。
なんでこんな所でこわい人と喋ってないといけないんだろう?
ボクたちの時間は残り少ないかもしれないっていうのに!
そりゃさ、お年寄りって「そろそろ死ぬ」とか言っといて平気で二十年とか三十年とか生きるけど、それでもね、やっぱりボクたちの時間は少ないよ。こんな所で無駄遣いしてる場合じゃないよ。まだカルミナとはキャッキャウフフできる段階まで行ってないし、むしろ孫扱いだし。
っていうかさー、ヒロインに孫扱いされるってどうなの?! 義理の親子から恋人への昇格はよくありそうだけど、孫スタートって聞いたことないよ。ボクに勝ち目はあるの? どうしたらいいの? どういうフラグを立てれば孫が恋人になれるの?
「さて、はじめようか。」
ああー。はやく終わらせて、リリカだけ置いてカルミナと帰ろう。
今まで出したことのない、ボクの本気の全力を出すよ。
後悔しても知らないぞ、ボクの本気はボクだって見たことないんだから!
「ボクの体を構成せよ、レア棒! 変☆身!」
レア棒はボクを創り変える。
ボクはいよいよ、八頭身になったんだ。背も闇の帝王さんとさほど変わらない。
そうだ、二頭身や三頭身だからカルミナに孫扱いされてたんじゃない? 高身長なら脱・孫できるかも!
「黒い……デッサン人形みたい。キモっ。」
リリカ黙れ。超黙れ。
キモイとなると、いつもならリリカにへし折られる所だけど、イツセに本性を見られたくないんだね。呟かれるだけなんてびっくりだよ。
体はキズつかなかったけど、ボクの繊細なガラスのハートが粉砕されたよ。ひどい。
「うう、リリカのバカー!」
ボクは闇の帝王さんに蹴りを放った。足を取られて関節キメられた。
でもボクには関節技は効かないよ! だってただの棒だもん!
これが女子なら棒を分解させて亀甲縛りにでもしてやるのにね。いやダメだよ。カルミナが見てるし。カルミナに嫌われたら生きていけない。冗談じゃなく餓死する。
ボクはレア棒を手に持って、足を掴んでいる闇の帝王の腕に斬りかかった。
もし体に当たっちゃったら真っ二つでグロいからね。
そしたら、闇の帝王はボクから離れて、どっから出したのか手に大きな剣を握った。
ボクもレア棒をどっかから出してるので文句は言えないけど、打ち合いしたら勝てない。だってボクは剣道もフェンシングも未経験だから。バットのフルスイングならできるけど、きっとそんな隙は与えてくれないと思う。
ボクは手に持ったレア棒を闇の帝王に投げつけて、手の先に意識を集中させた。
そう。ボクにはさらに秘密の必殺技があるんだ。
手の先に高密度なエネルギーを溜めていく。青白く光り、キィンという耳鳴りのような高音がうるさい。
「なんだそれは……っ!」
ボクの手の先を見た闇の帝王が焦ってる。
これは避けられないよ。もし死んじゃったらゴメンね!
「いけ! 破壊光線!」
ボクの手から光の奔流が五本飛び出した。
説明しよう! 破壊光線とは、レーザービームみたいなのは名前だけ、ボクが溜め込んでる命のエネルギーを使った技である。一本あたり二千万、全部で一億の怨霊を敵に向かわせる追尾型高エネルギー弾なのだ!
仁王立ちして股間から出したいところなんだけど、カルミナが見てるからね。ちょっとカッコつけちゃった。
破壊光線は闇の帝王に漏れなくぶち当たって、嫌な色のキノコ雲が立ち上った。
ボクの中にいたみんな、力を貸してくれてありがとう。成仏して適当に生まれ変わってね! けっして化けて出てこないでね!
ボクは空に向かって手を合わせて、闇の帝王のようすを確認しに行った。
「い、生きてる?」
「う……、逆に吸収してやろうと思ったが、桁違いの量だった……。」
闇の帝王を見に行くと、満身創痍ながらも無事に生きてた。
魔族だとこの技は吸収されちゃうんだね、危なかった!
いちおう出力はもっと高くも低くもできるんだけど、いっぱい出しちゃうと生態系が破壊されちゃう危険な技なんだ。きっと来年辺りにはベビーブームが来るよ。全部出しちゃうと世界がイナゴの群れで覆われたりするかも。何に生まれ変わってくるかはボクにはわかんないからね。
リリカを見ると、イツセが破壊光線の爆風から守ってくれたらしく、しっかりくっついて放心状態になってる。気味が悪いから見なかったことにしよう。そんなことよりカルミナだよ!
「カルミナ、ボク大きくなったよ。どう? 惚れなおした?」
「ふふふ、ゲンさんは変わらんよ。いつも、わしぐらいの背の少年に見えとるよ。」
えっ。
その少年って、黒茶色の髪でチビで童顔、筋肉も脂肪もつかなくてリアル男の娘とイジられ続けた6.9頭身の……一番最初の、ボク?
「うわあああ、それ、カルミナにだけは見られたくなかった……!」
「今も見えとるぞ。」
「ああああああ、黒歴史が! ボクの黒歴史があああ!」
「なるほど、そんな事件が……。」
「やめて! ボクの古傷をエグってワサビを塗るのはやめて!」
「女の子からパンツを……ひどい話じゃな……。」
「その同情的な目線やめてえええええ!」
地面にへたり込んだボクを、カルミナが肩に手をおいて慰めてくれるけど、そういうの逆につらいんだけど!?
もう終わった、何もかも終わった。どうでもいいよ、こんな世界。
「闇の帝王さん! ボクと一緒に愚かな人間たちを滅ぼそう!」
「おお、いいな。」
「こ、こら、ゲンさん!」
ボクの世界征服は、カルミナからゲンコツと、……ほっぺにキスをもらうまでの短い期間で終了した。
やっぱり、ボクはしあわせです。




