鍋の前の闘い
ぐつぐつと、鍋の煮える音。
人々のざわめき。
「ほう、効率的に栄養を取るには、様々なものを煮込むに限る。スープ然り、鍋もだ」
いそいそと器を受け取り、
コラジイは、どこか満足そうだ。
湯気で眼鏡が曇るにも関わらず、
周囲を見渡し、他のパンなどを物色している。
ふと視線がある1点で止まる。
「じいちゃん、だから、パンは危ないっていってるだろ!」
「パン粥ばかり食ってられるかっ」
ペッカじいちゃんと息子の争いは、
徐々にヒートアップしている。
周りは、いつものことと気にもしていない。
「長老殿と見受けられるが、ふむ」
コツっ。
「これではただの老害じゃよ」
ペッカじいちゃんの眉がピクリと上がる。
「もっと言ってやってください。コラジイ様」
コラジイは、息子の方にも杖をビシッと向ける。
「危ないからと、なんでも取り上げてはならん。年配は敬うものじゃ」
息子もピシリと固まる。
「では、こうすればどうでしょう?」
エリーは、パン切り包丁を受け取ると、パンを薄くスライスする。
「よろしければ、これをスープに浸していただければ」
ペッカじいちゃんが、器にそっとパンを浸す。
そして、一口。
「うんめえ。これなら何杯でもいけるわ」
ペッカじいちゃんの一言に、ほっとする息子。
「コラジイかっけえ」
「うんうん。こうだよね」
近くにいた子供たちが、コラジイの真似をして、枝をピシっと指している。
「お前ら、早く食べんとあの長老に全部食われてしまうぞ?」
はっ、とする子供たち。
いそいそと列に並ぶ。
「全部食うのは、お前さんじゃろう」
ぼそり、とペッカじいちゃん。
コラジイは、その言葉を無視して、黙々と器の中身を飲み干す。
「ふむ、シンプルなのは結構。素材を生かす味。身体にはよさそうじゃ」
空になった器を抱え、おかわりをもらおうと立ち上がりかけ、視線を落とす。
近くでラオスと一緒に食事を摂っていた、エリーの器も空なのに気づく。
器をゆっくりと降ろしながら、エリーがつぶやく。
「不思議ですね。食材以外の味もします」
ラオスもゆっくりと残りの一口を飲む。
「エリーの作るものほどではないが、身体にはよさそうだ」
コラジイは、そっと周囲を見渡す。
そして、コラジイから隠れるようにリアカーの後ろに座っているおっちゃんを見つける。
「おい、ヒヨッコ。今日は、お前さんに話がある。覚悟しとけ」
うぇー。というおっちゃんの声。
「というわけで、わしは忙しい。お前さんらは、勝手にやっとれ」
二人が顔を見合わせるのを背に、コラジイはおっちゃんの方へ力強く歩いて行った。




