過去の遺物
少し過去に遡ります。
「要するに、母体がまだ子供を育てる準備が出来とらん。と、数字にでてる」
シェルガード家の医師でもあるコラディウスの言葉に、エリーは、目を瞬かせる。
「私は問題ありませんけど?」
コラディウスは、眼鏡を外す。
布でゆっくりとそれを拭く。
「自覚が無いのが一番危険じゃ」
まだ納得の出来なそうな顔のエリー。
「とりあえず、栄養、睡眠、運動」
指を三つ立てるコラディウス
「その3つを守れ。話はそれからじゃ」
エリーの足音が遠ざかっていく。
それを確認してから、衝立の向こうに声をかける。
「で、実際のところはどうなのじゃ?」
陰から出てきたラオスは、コラディウスの前に座る。
「肉は、殆ど食べない。
作るが、自分の分は食べない。
夜中、時折うなされている」
コラディウスが、用紙に書き付けていく。
ラオスはそれを眺めながら、続ける。
「よく動いてはいる。本邸と別邸。
ほぼ彼女が回しているようなものだ」
ペンがミシリと音を立てる。
「そこまでせねばならんものか」
「あいつらは何をしている?」
それには、ラオスが沈黙で答える。
「…跡継ぎと抜かすなら、まず己らの行動を振り返させねばならんな」
そう吐き捨てるように言い、
コラディウスはそのまま部屋を出ようとする。
「お待ちください」
ラオスが呼び止める。
コラディウスが足を止める。
「その件で、ご相談が…」
ドサリと座ったコラディウスが、目で続きを促す。
「実は、健康度の異様に高い村がありまして」
コラディウスの眉が、わずかに動く。
ラオスは、報告書を差し出す。
すべての報告書を読み終えたコラディウスが唸る。
「管理されていないのに…」
何度か、報告書をめくっては読みなおす。
「ふむ」
顔を上げ、ニヤリと笑う。
「わしが行かねばならんな」
ラオスが何か言うより先に、コラディウスは立ち上がる。
「おい」
部屋の隅に控えていた助手を指す。
「これからこの家の主治医はお前じゃ」
「えっ?」
悲鳴に近い声を無視して、
コラディウスは机に向かい、書類を書き始める。
コツコツと響くペンの音。
「では、準備いたします。失礼します」
ラオスの方も、これからの準備のために部屋を出て行った。




