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邪竜様の生贄花嫁~巻き込み事故で異世界召喚された私が最愛の番と呼ばれるまで~  作者: 天希莉緒
第三章

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54.さよなら、ロニー

 殺風景な路地の先に、高い石塀が聳え立っていた。

 ロニーが呟く。


「行き止まりだ……!」


 袋小路だった。

 ゴミの入った小さな木箱がひとつ、ポツンと地面に置かれている。それだけ。

 塀を越えるための梯子になりそうなものは、なにひとつ見当たらない。

 小路を囲む両側の建物の窓は、防犯のためか高い位置にあり、ご丁寧に侵入防止の柵がとりつけられていた。


 この袋小路を抜け出すには、いま来た道を戻るしかない。

 そんなの無理だ、追跡してきた騎士たちに見つかっちゃう。

 このまま静かに身をひそめて、追手をやり過ごせないかな……なんて。

 淡い期待は、背後からの怒号に打ち消された。


「路地の奥は見たか!?」

「いや、まだだ」

「探せ、念のためだ」


 追っ手の騎士たちの声だ。


「どうしよう、捕まっちゃうよ」


 既に泣き出しているロニー。

 一方、騎士たちの足音が路地の入口あたりで止まった。


「慌てるな、ゆっくり進め」

「用心しろ。あの女、妖術を使うぞ……!」

「おい、お前が先に行け」

「そう言うお前から行けよ! 俺は死にたくない!」


 私が妖術?

 ああ、スイちゃんが噴水の水を爆発させたことか。


「ねえチカ、もう一回スイちゃんに水鉄砲をやってもらえないの?」


「だめだと思う。残念だけど」


 スイちゃんは、私の腕の中でぐったりと眠っていた。

 そもそも、この子は人を攻撃するような力の使い方には慣れてない。

 ずっと宮殿に閉じ込められて弱っていたところに、さっきの巨大水鉄砲で疲れ切っているのだ。


「よし! こうなったら道はひとつよ」


 覚悟を決めて、私は路上に置いてあった木箱を持ち上げた。

 中のゴミをぶちまけると、塀の前で逆さにして地面に伏せる。

 古びた木箱が、とりあえずの踏み台になった。


「何してるの!? そんな低い台じゃ塀の上まで届かないよ」


「だから、こうするの」


 ロニーに親指を立てて見せ、木箱の上に体をのせて片膝をつく。


「私の肩を踏み台にして、塀の向こう側へ跳んで。そのあとは全力で走るのよ。ロニーならできる!」


「そ、それじゃ、チカはどうなるの!?」


「私は大丈夫。聖女だもん、捕まっても、ごめんなさーいって謝れば許してもらえるでしょ」


「だめだよ、一緒に逃げよう!」


 ロニーが縋りついてきた。


「チカ、自分で言ってたよね、聖女じゃないって。なのに国王陛下を怒らせたらどうなるかわかってる? 死刑になるかもしれないよ!?」


 ロニーの言う通りだ。

 脱走まで企てて、ゴメンナサイで済むわけがない。

 でも今、それをこの子に言っちゃ駄目なんだ。


 身に着けていた金のネックレスや宝石つきのブレスレットを急いで外し、ロニーのポケットに押し込みながら、精いっぱい余裕ぶってウインクしてみせた。


「心配しないで、うまくやるってば。宝石は売って、家族みんなで逃げるための費用にするのよ」


 一瞬迷ってから、イオの鱗のペンダントも外し、ロニーの細い首にかける。


「だめだよ! これ、チカがすごく大事にしてたペンダントじゃないか。邪竜様にもらったって……」


「どうせ捕まれば取り上げられるもの。それとね、私、足を挫いたみたい。もう走れそうにないから」


「そんな……!」

 

 パニック状態のロニーの腕に、腕の中で目を閉じたままのスイちゃんを預ける。


「ひとつだけお願い。スイちゃんを森に帰してあげてほしいの」


「僕が?」


 スイちゃんと私を交互に見て、ロニーは首を横に振った。


「無理だよ! チカを置いて行ったら僕、二度と森には行けないよ。邪竜様に殺されちゃうよ」


「そうよね、ごめんね、でもロニーにしか頼めない。スイちゃん、もう限界なの。イオの森でなくてもいいから自然の中にかえしてあげて、お願い」


「チカ……」


「行って、早く!」


 騎士たちの気配が間近に迫っている。

 私がふたたび木箱の上にしゃがむと、彼は意を決したように顔を上げた。

 スイちゃんを片手で抱き直すと、私の肩に片足を載せ、もう片方の足で勢いよく地面を蹴る。


 十二歳の体重を受け止めた私の右足首に、また鈍い痛みが走った。

 でも、それは束の間のこと。

 次の瞬間、少年の体は石塀の上にあった。

 くしゃくしゃの泣き顔でロニーが振り返る。


「チカ、無事でいて。絶対だよ」


 震える声で言い残し、彼は塀の向こうへと身を躍らせた。


「さよなら、ロニー。スイちゃんも」


 ちいさく呟く。

 ほとんど同時に、


「いたぞ! 聖女だ」

「捕らえろ!!」


 国王の騎士たちが、狭い路地裏へとなだれ込んでくる。

 まるで獣を取り押さえるみたいに地面に組み伏せられ、私の逃亡劇は呆気ない終幕を迎えた。

 


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