ロッカーでお着替え
「似たようなサイズを見繕ってくれとは言ったけれど、サイズは良かったかしら?」
「……はい」
替えの服が、とクロッカスは公園で確かに言った。
でも、まさかここまでとは……
「良かった。サイズの合わない服は落ち着かない、って言う人を知っているものだから。……二人共、身支度ができたら応接室に。温かい紅茶を用意してあるから。――ちょっと、あって欲しい人が居るの。――あぁ、優しい人なので心配しないで。ちょっと面倒くさい人ではあるけれど、でも噛みついたりはしないから」
ここについた時、仁史のブレザーは焼け焦げ、私の属性はずぶ濡れに変化していた。
私に関して言えば、上着だけはクロッカスの着ていたものだったが。
――細っ! このウエストのどこに内臓、入ってるの? 胃袋とか無いわけ!?
ボタン、閉められないんですけど。
あの子、マジでモデルかなんかなんだろうか。
だからまぁ。服を脱いで着替えろと言われれば、
はい、そうですね。
と、従うわけだが。
なんでここまで簡単に、ウチの学校の制服が用意できる?
「で、なんでお前も着替えてんの?」
「うるさい!」
「なんで怒るんだよ……」
自分のゲロで滑って転んでゲロまみれになったから。
と言うのは伏せておこう。気が付いてないんだし。
いかにもな、狭いロッカールーム。
タオルをまいてシャワーから出たところで起き出してきた仁史と共に、男子も女子もないから取りあえずロッカーを挟んで二人でお着替え、と言う次第。
仁史に見られて困る事も無いが、一応私も女子高生。
少なくても隠れる場所がある以上、わざわざ見せる必要はない。
結局シャワーまで借りた上に、急遽買ってきて貰った下着まで。一式まるまる着替えることになったわけだが、さて。
……これから、どうなるんだろう。私ら。
「なぁ、桜。ここは……、何処なんだ?」
「財団法人、特殊技術産業振興会東京本部、だそうよ」
公園から車で揺られること15分。駅で言えばうつくしヶ丘駅から三つめ。
地味な三階建ての建物の地下駐車場に、迎えに来た黒いミニバンは止まった。
場所の名前はクロッカスからそう聞いたのを、そのままオーム返し。
「わからん、聞いた事無いぞ。……で、なんでここに?」
「さぁ、さっぱり」
そこは本当だからこう答える他にない。シュル、とネクタイを締める音が聞こえる。
「桜さん、クロッカスです。――もう開けても良いかしら?」
「あ、はい。――あ、良いよね?」
「なんで事後承諾だよ!」
「見られて困るとこ、どっかあんの?」
だからまぁ。
これから何がどうなっているのか確かめる。
と言う事になるんだろうけど。
どうやら私が気分を悪くしたのは、“結界”を見つけて生身で強引に突破したから。
仁史が、黒焦げにならずに服が焼け焦げただけですんだのは、火の玉の魔法を“相殺”したから。
車の中で、クロッカスからザックリ説明されたのはこういう感じ。
そういうことで、彼らの本拠地に連れてこられたわけだけど。
彼らの目的は私と仁史を尋問すること。これ以外に考えられない。
こういった場合。果たして私達、無事に帰れるものなのか?
……でも、何か聞かれたところで何一つ自分で答えられる事柄が無いんだけど、その辺はどうしよう。
誰にも言ったことが無かったブラのサイズさえ、既にさっき喋ってしまった。
こと、ここにおよんで私のスリーサイズが重要だ。などとと考えているわけではもちろん無く。
私だけが知っている。なんてことは、後は私の体重くらい。
つまりは、もう何も残っていない。
さっき公園で。
――正直に答えて。あなたは、……何処の人?
クロッカスは確かにそう言った。
今になって思えば、こんなのアニメとか映画の中の台詞だ。
素性のバレたエージェントが、顔見知りの敵に言われるヤツだよ。
質問に答えられなきゃ、家には帰れないんじゃないの?
どころか最悪……。
「あなたの服はクリーニングに出したから明日以降返すわ。南光クンのズボンは直して貰っているけれど、上着とワイシャツ、ネクタイはもうダメだったから、差し支えがなければ今着ているそれと交換、と言うことでお願いします」
クロッカスの話を聞いてる限り。拷問されたりはしなさそう、とも思えるけれど。
拷問の担当がクロッカスでないだけ、と言う可能性だってある。
「では二人共、着替えが終わったなら行きましょう」




