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真説・公園の魔法使い  作者: 弐逸 玖
うつくしヶ丘高校 本校舎三階の図書室
48/66

乙女の秘密

「ねぇ、桜」

「なあに?」


 少し早めにベッドに入った。

 集中的に授業を受けている華ちゃんはたった半日とはいえ、かなり消耗しているように思えたから。


「間違ったらごめんなさい。あの。仁史君と、喧嘩した?」

 ……!! いや、け、喧嘩はもちろんしてないですよ?

「や、……そ、そんなわけ無いじゃん。――なんでそう思ったの?」


「なんとなく」

「そうか。……そうだよね」

「はい?」


「ううん、喧嘩はしてないよ。いつも通り仲が悪いだけ」

「桜、私はそう言う言い方は嫌い。二人の仲が悪いのは冗談でもイヤ」


「怒るほどの事でも……。いや。うん、そうだね。ゴメン」

 既に照明を消したベッドの中。

 消灯してから5分間限定の照明器具の薄明かりと、四角い天井。

 あとは何も見えない。


「でもさ、言う程仲が良いとも、思わないんだけどなぁ」

「きっと兄弟というのはあんな距離感なのだろうな、と思って二人をみているの。私にしては珍しく、うらやましいって素直に思える」 


 あえて天井を見ながら話す。5分で終わるかな。

「ねぇ華ちゃん。男子って、どう思う?」

「どう、と言われても。……おつきあいする。みたいなこと?」

 ――正直良く分からないけど。そう言って少し身じろぎする。

 でも彼女も天井を向いたまま。


「男と女は引かれ会うものだと、それは頭ではわかってる。子供の時だってよく見たことがあった。でも、だから男の人は嫌いだった……」



 何を見たのかは聞かないでおこう。

 男の人全体に不審を抱くような、そんな光景を何度も見た。と言うくらいなら。

 それはきっとあまり思い出したくないことだろうから。



「でも今は。男性に引かれる、その気持ちはわかる気がする」


 ……虚を突かれる。そう言う表現がまさにピッタリくる感じ。


「え? 居るの? 好きな人」

「良く分からない。そういう事ではないのかも知れないし、友達が増えて嬉しいだけかも知れない。一番有力なのは、私が壊れてしまった可能性」


 意外と言えば意外な展開、華ちゃんが引かれる男子が居たとは。

 彼女の行動半径中の男子と考えれば絶対ウチのクラス。

 それが自分だとわかったら、当人は喜ぶだろうなぁ。


 故障なんかしてない。逆に普通のことだと思うよ。――ちなみに、誰?


「例え桜でも言えないし、言わない。今は私の中にしまっておく」

「言わないと、明日から一緒にお風呂に入ってあげない。って言っても?」

「え? いや、ちょっと待って桜、それはちょっと! でも、ごめんなさい。私……」

「なーんて、うそうそ、冗談。……ゴメンね」


 ――桜の冗談は、たまにお姉様のそれより恐ろしい時がある。そう言うと、ごろん。こっちを向く。


「ねぇ、桜。男の子を好きになるってどんな感じ?」

「今の華ちゃんが、まさにそうなんじゃ無いの?」

「自分で良く分からない。桜を好きなのと。……どう違うの?」


 そう言うと、私の胸に顔を埋め、背の高い体を丸めて抱きついてくる。

 ……そうか、怖いんだね。背中に手を回して、優しく撫でる。


「私だって良く分かってないけどさ、男は女を求めるのだろうし、その逆に女だって男を求めるもんなのよ、きっと。そんな感じにできてるんじゃない?」

 ――アイリスさんの小説、何冊読んだの? みんなそうだったでしょ?

「アレはお話の中の事で。……それに私が、男を求める? そんな事は絶対……」


「話をもっと簡単にしよう。エッチなことはどうでも良い、キスだって今はポイ。そんな大変なことで無く。うーん、例えばね。――その彼の横に立って、手をつないで、お話ししながら公園歩く、とか。……二人きりでね。想像してみ? ジェラートも買おうか」

 びくん。予想を上回る反応があった。わかって、貰えたかな?


「どう? ――そんなの、してみたくない?」

「…………っ!」


 華ちゃんは言葉を出せずに、熱くなった顔を胸に押しつけてくる。

 ……うんうん、可愛いなぁ。


「自分で言った通り、わかるまでずっとしまっておけば良いよ。でも、その間に誰かにとられちゃうかも知れないけど、でも初恋なんて、そんなものなんだよ。困ったことにさ」



「それでも良い。ううん、それが良い。きっと彼の隣に立つのは、それは私以外の女の子、その方が良い。私みたいな変な女が隣に居るより絶対良い……」


「……良いって思う? 華ちゃん以外の子が、手を繋いで楽しそうに話してて、……それでも本当に良かった、って思える?」


「それで良い……、それで良いはず。彼にとってもその方が……。良いのに……。なんで? 桜。なんで私はイヤだって思うの……?」



 ……超絶美少女が恋する乙女になったら。

 もう強力すぎて誰も勝てないな。


 声を立てずに泣き始めてしまった彼女を優しく抱きしめたところで、照明がすぅっと音も無く消えた。

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