お休みの登校者
昇降口で華ちゃんと別れた後。
ちょっと早く着いたので、あやめさんと仁史はまだ来ていない。
「ん? おぉ。おはよ、委員長」
「あれ、神代さん?」
スラリとした長身、眼鏡の奥の涼しい眼差し、サラサラの前髪。
……でも、なんで委員長?
「……部活は入っていなかったよね?」
「そっちこそ、どした? お休みというならお互い様でしょ?」
「ちょっと駅前の古本屋を眺めるだけの予定だったんだけど」
「……家、近所なんだっけ?」
「桜さんと同じくアパートで一人暮らし。通学は徒歩一〇分だよ」
「本屋さん、まだ開いてないよね? それに制服……」
「古本屋より先に、学校に入る用事ができたからね。――バスケ部の手伝いで、予算要求書を添削に来たんだ」
いっつも、なんか仕事してるねぇホントに。真面目なんだから。
でも彼は、――手間がかかるから休みの日で無いとできないしね。そう言って笑う。
「本当はマネージャー二年の仕事なんだけど、ある先輩が安請け合いした上に僕に丸投げしてきてね」
運動部のマネージャーの友達? 女子か! 女子なのか!!
「しかも提出日が明日なんて。……彼女は一体、僕の事をなんだと思っているのだか」
委員長を良いようにできる女子の先輩、ね。
まぁ委員長くらいのいい男なら彼女くらい、居るだろうけれど。
「委員長は人が良いんだから、もう。……断っちゃえば良いのに」
そう。そんな良い人を良いように使う人となんか、縁切っちゃえ!
……そのポジションには私が入るから。
「まぁ。彼女もバスケ部では無くて、そのお手伝いなんだけど」
くそう! 二人揃ってやたらと人が良い、話聞くだけでもお似合いの似たもの同士じゃないか!
「僕に丸投げするのを前提で手伝うことにした様だけれど。……昔からあの人には逆らえなくてね」
「昔から……? おなちゅうの先輩とか?」
「そうじゃ無いけど、まぁ似たようなものかな。今もいろいろ教えて貰っているし」
現在進行形……。私の心は朝から折れた、
「だいたい単純計算ならばともかく、集計とか注釈なんて言うのは自分の方が得意なのに。なんで僕にフッて来るものか」
しかも出来る感じの女!?
「ところで神代さんは?」
「え? あぁ、そうだよね。……華ちゃんの付き添い」
すごく投げやりな答えになった。だって心が折れたから。
「サフランさん? ……あぁ、補習。ね。――どうなんだい? 彼女の様子は」
「やたらに順調。もう一回教えてもらった。って言って喜んでるよ」
「はい? ……喜んでいる、とは? 補習、なんだよね?」
「私も補習受けて喜んでる人は初めて見たけどね。……言葉の問題があるからさ。そのせいで理解の出来なかったところもじっくり教えて貰えるんで、それが嬉しいみたい」
「口に出したらいけないんだろうけど、彼女は見た目で損をしているよ……。普段を見ていてそう思っては居たけれど、真面目な子なんだね」
実際は言葉の問題じゃ、無いんだけどね。
学校がなにをするところか、そもそも知らなかっただけ。なんだけど。
「サフランさんは午前中だろう? 後は帰るのかい?」
「彼女の“お姉様”が図書館に来ているので、多分午後から読書かな」
「お姉様? あぁ、月夜野先輩か。……二年の“白のお嬢様”、だね?」
転校してきたばっかりで、もう第三者から二つ名で呼ばれているし!
こっちはこっちで、二年生を制圧するのも時間の問題だな。
「今日は二時で完全下校だそうだから、追い出されてしまうかも知れないよ?」
「一番あっつい時間じゃん! せっかくエアコンが効いてて良いのになぁ」
「でもエアコンは、アパートの部屋にもあるんだろう?」
「電気代は親にチェックされるから……」
「……それは。まぁ、そうだろうね」
――じゃあ。休み明け、教室でね。そう言うと委員長は部活棟の方に歩いて行った。
うーむ。どうしたらあそこまで爽やかになるんだろう。
しかも委員長を手足のように使う、結構切れ者っぽい年上の彼女が居る疑惑。
だが諦めたら試合終了だ! 彼女だって確認したわけでは無い!
それに女の子はちょっとドジっ子の方が可愛いのだ! ……多分。
もっとも、彼女の有無をおいても。
私と委員長。と言うのはあまりにも難易度が高いとは思う。
普通に話ができた時点で満足している女子だって沢山いる。……私を含め。
そう言えば我がクラスにはもう一人、女子の部にも高嶺の花がいるわけだが。
その華ちゃん狙いの男子達だって、そのあまりのハードルの高さに続々、不戦敗を宣言している。とは仁史から聞いた。
その華ちゃんの気になる男子。
昨日は結局、その名前を聞き出すことは出来なかったが。
だが、そもそも聞くまでも無く、彼女の交友範囲の狭さ、そして普段の男子との距離感から言っても。
好意を持つほどの男子と言えばもう、その時点で容疑者は絞られてしまう。
本当は委員長あたりだと高身長で美男美女。誰も文句は無いんだろうけど。
でも彼とは事務的なやりとり以外、親交なんて物は無いし、何より華ちゃんが男子自体に興味を持っていないように見える。
というよりは男子とは積極的に距離を取っている。と言うのはなんとなくわかってる。
その彼女が好意とは言わないまでも、興味を持つとすれば一人しか……。
まぁ、良いヤツなんだけど。いや、ホントに良いヤツなんだよ。
そいつは、昔っから知ってるけど、どう言って良いのか。まぁ良いヤツでさ。
多分、莫迦だから華ちゃんの想いなんて微塵も気が付いてないと思うんだ。
だから、私が二人の背中を押してあげるのはやぶさかで無いし。
始めからそのつもりではあったしなんなら、今だってそうなんだけど。
でもさ、あの。うんとね、私……。
はぁ。――なんなんだ、この感じ。




