用務員室のお茶のみ話
「ふむぅ、……そういったことも、あるのですねぇ」
って、あやめさんが和室のちゃぶ台の前に座って情報番組を食い入るように見てる……。
なんて違和感の強い絵面だろう。
さっきの多重写しの景色よりよっぽどショッキングだわ、これ。
「……月夜野先輩もああ言うの、見るんだな」
こっちに私よりショックを受けているヤツが居た。
「あやめさんの普段って、ちょっと想像しづらいよね」
「だいたい家族構成とか聞いた事ないしなぁ」
「ん? 毎朝一緒に登校してきてるのに、なに話してんの?」
付き合っているわけでは無い、仲良しの幼馴染みでバイト先も同じなだけなのだ。
と言う必死の弁解は、今回については聞き届けられ、一応の誤解は解けた。
とは言え。美人のお姉様と毎日並んで登校してきて、その上お弁当も作ってもらえるうらやましいヤツ。
としてやはり、男子からは妬まれているようではある。
でもだったら、行き帰り。どんな話してるのよ。
「まぁたわいも無い話だよ。でも意外と、って言ったら悪いけど、結構俺の話を聞いてくれるんだよな」
あやめさんのイメージとすれば、一方的にまくし立てられて、何処で口を挟んだら良いんだか見当がつかないうちに、いつの間にやら話は終わっている、と言う感じ。
仁史の話は聞いてくれるんだ。
「そして先輩はサフランのことを凄く心配してる。先輩の話はほとんどサフランだもん。あいつがお姉様って呼んでる以上に、先輩は妹だと思ってるんじゃないかな」
「華ちゃんの話ばっかりで自分の話はしない?」
「うーん。考えてみたらそうだな」
「まぁ、なんだかんだであの二人、結びつきは見た目以上に強いもんねぇ」
私が入り込めない位にね。
私も魔法使いだったら、華ちゃんともっと仲良くなれるだろうか。
取りあえず勝手にお茶っ葉と急須、湯飲みを借りてお茶を入れる。
とっても男所帯な感じだし、あとで洗っときゃ誰も気づくまい。
ついでだからお茶菓子も頂いちゃおう。これは大葉さんが食べちゃったことにしちゃえば良いんだし。
お、ミニカップケーキに醤油せんべい。わかってるねぇ、
「あら、わたくしも頂けるのですか? ありがとう桜さん」
あやめさんの居る和室にも一応お茶を持って行ったんだけれども。
これでちゃぶ台に片肘突いてせんべいをかじりながらTV見始めたらどうしよう。
そんな事に成ったらイメージ大崩壊だわ、これ。
「ところで桜」
事務机を挟んで私と仁史。
「なによ? 急に改まって」
「サフランは、おとこには興味が無いだろうか?」
……っ! 危うくお茶を吹くとこだった。唐突に何言い出すんだコイツは。
「げほっ、お茶変なとこ、ゴホっ、入ったじゃない。――何が言いたいの?」
ここしばらく、華ちゃんは同じクラスの女子とはかなり普通に近い会話が出来るように成った。
(主に下着についての)雑談にも応じるし、あやめさんと約束がなればお弁当を教室で食べるし、携帯のアドレスやIDも交換してSNSでのやりとりやゲームのハイスコアの競り合い、アイテムの融通さえしている。
大進捗だ。
一方、男子は苦手。
仁史以外とはおはよう、くらい。積極的にあいさつ以外の会話はしない。
話しかけられれば普通に受け答えはするけれど。
もしかすると過去のトラウマが原因かも知れないが、そこは本人のみが知るところ。
「いや、アイツって見てると女子にはそれなりだけど、男子には基本ツンケンしてるだろ? そこに持ってきてお前とは異常なくらいに仲良いし、更にはほら」
――心配するとこ、違くね? それはともかく。
「あぁ、……お姉様。ってね」
ほぼ全校中で有名になりつつあるしね。だいたい私としては、
『キミはリアルでお姉様、なんて呼ぶ人を見たことがあるか?』
と各方面に聞いて回りたいくらいだ。
『私はあるぞ、すごくあるっ!』
私はほぼ毎日あるぞ。
……ただねぇ、これについては。
そう呼ばせてる方だって、大概アレな感じなんだけど。
「そういう事。あの容姿だし、基本的にはもう男子全般にほぼ無理、って諦めムードが広がると共に、サフランには百合疑惑が浮上して……」
「なんてアンタまで乗っかってるのよ、友達でしょ! 全力で否定しなさいよ、そう言う噂は!」
――別に乗っかっちゃ居ねぇだろ! そう言う話があるって事をだな。そこまで言ってからはぁ、とため息を吐く。
「まぁいいや」」
「良かないわよ、全く。ため息つきたいのはこっちだっての! 華ちゃんが普通に見える様に、私がどんだけ苦労してると思ってるの!?」
「あの容姿で普段がポンコツだぞ、サフランは。人気出ない方がおかしいだろ」
「そうでなくて……。はぁ、わかるけどさ」
まぁ、……見てれば、わかるもの。




