目だけをおいてきましたの
次の日。
あやめさんとは昇降口で待ち合わせ。その後華ちゃんと別れ、移動。
今日は図書室には行かないように大葉さんから言われた。
そして連れて行かれたその部屋。
「特に危険は無いとは思うが、今日はここから出るなよ? あのあたりには近づかないでくれ」
大葉さんは珍しく不機嫌そうにそう言うと、部屋を出て行った。
――容量としては現在9割以上だが満タンまでは2ヶ月はかかる。
――とは言え危険なことに変わりは無ぇ。特にアヤメちゃん。お前は確かに俺よりも力は強いし、執行部長様なら執行部監理課長である俺の上司だ。
――だが何度でも言う。絶対に近づくなとは言わん。もう少し調べが進むまで、それまで待ってくれ。いいな?
――建前で言っても貴重なエレメンタラーに危険なことをさせる訳にゃいかんのだ。俺個人としても執行部監理課長としても言いたい事は同じって事だ。
――だいたい、昨日来るなと電話したはずだが何故ここであったんだろうな? アヤメちゃん。
――もう一度だけ言っておくぞ? しばらくここに来んな! わかったな!?
「と言う感じで昨日電話を頂いていた上、先ほども現地で再度駄目を押されてしまいました。なので仕方なく“目”だけをおいてくることにしました」
それでも現地に行っちゃうあたりがあやめさんではあるんだけど。
そしてそれを現地で待ち伏せる大葉さんは、完全にあやめさんの一枚上手。
……って、あれ? 聞き間違えたかな? なに置いてきたって言いました?
「はい?」
「華さんほどでは無いにしろ、わたくしも一応結界師ですよ?」
「結界師の頂点、時空のエレメンタラー。……それは知ってますけど」
「なので目をおいてきました。試したことは無いのですけれど、魔法使いや結界師で無くても見えるのでは無いかしら。では、ちょっと失礼。……桜さん? わたくしの人差し指を見て頂けるかしら」
そう言ってなにかを小さく呟きながら、左手の人差し指をつきだし二回ほど指を左右に振る。そうしておいて開いている右手で指をパチン! と鳴らす。
うお!
いきなり目の前に別の景色が広がる。
これは。校舎裏だ! しかも今見えている景色は普通に見えてる!
目を置いてきたってこう言うこと!?
「見えまして? まぁさして楽しくも無い上に、慣れていないと酔ったり混乱したりするだけでしょうから、やはり当面はわたくしだけにしておきましょう。……ごめんあそばせ」
再度パチン! と指の鳴る音が聞こえると景色は元に戻る。
なんだ、なんなんだ今の?
流石は日本で数人の時空のエレメンタラー、何気なくすることが既にハンパない。
私と仁史とあやめさん。
誰もいない施設管理室、いわゆる用務員室にいる。
人払いとかそう言う事では無く、今日は大葉さん以外全員がお休みであるらしい。
「見えるんすか? 月夜野先輩。――桜、何が見えたんだ?」
「単純に定点カメラのようにあの場所が見えるだけ、特に面白い物でもありませんよ。そうだったでしょう? 桜さん。それに何かあったらすぐに大葉さんに連絡をしないと怒られてしまうので、わたくしは見続けていないといけないのですが」
机が六人分くらい有って、その奥に畳敷きの休憩室、ちゃぶ台とTV。畳まれた布団が二組。全くもってイメージ通りの部屋ではある。
――退屈だろうからTVを見てても良いし、俺のパソコンは使っても良いぞ。と言い残して帽子をかぶって大葉さんは出て行った、のだけれど。
この時間のTVと言っても奥様向け情報番組、パソコンで何か時間を潰そう、という気にもならない。
今日も華ちゃんは、午前中トイレ以外は完全拘束。
……とは言え本人はむしろわからないところを教えて貰える事について喜んでいたりする。世の中って変わった人ばっかりだ。
いや、私の周りにいる人達だけが変わっているのかも知れないな、その方が可能性は高そうだ。
何せ魔法使いだもの。




