魔法の落とし穴
「きっとアヤメちゃんの勘も当たりだと思うぜ。そこが落とし穴の入り口ならホレ、ここの用具倉庫が丸々充電器に使える。すぐに両方場所だけ確認して、夜になったら本格的に調べてみる」
そう言うと大葉さんは、まだ中身が残っている私とあやめさん以外の缶を掴んで立ち上がる。
「本当にそうならうかつに解放しただけで大変なことになる、アヤメちゃん、クロッカス、時空のエレメンタラーだからっつって絶対に触るなよ?」
「具体的にどんなことが起きるんですか?」
「あれだけのおぞましい気配の魔力だ、完全に薄まって放散するまでの間、学校の雰囲気が非常にイヤな感じになる。ギクシャクして空気が悪い、そんな感じだ」
それは確かにイヤだけど。でも大葉さん、――実害が、無い様な気が。
「場の空気って言うのは本当に不味い物なんだ。例えばイジメのような事があった場合、エスカレートして命に危険が及ぶところまで一気に行く。落ち込んでる人間は何処までも落ち込んでそのまま屋上の金網を上り始める。ご機嫌なヤツだって増長して他人を見下し自分よりも下と見なした人間を純粋に本気で死ぬまで叩く。一週間もあれば間違いなく複数の人死にが出るし、その後の人生が捻れるヤツはもっと出る」
「そこまでの物だという根拠が無い以上、わたくしは早めに解放してしまった方が良いのではないかと思います、今は試験休み中で生徒数も少ない状況ですし爆発するよりは被害は少なくすむかと」
「そうじゃねぇという根拠もまた、今んところねぇだろう? 浄化装置とか安全バルブが作ってあれば良いがそうじゃねぇとなら直接解放さえヤバい。それに媒体がその辺の紙や木だったら、ただの雨でも術が崩壊しかねねぇし、最終的に容量もわからねぇ。だから先ずは調べる」
素人臭い結界だったと大葉さんは言った。
ならば術自体が不安定で危険なのかも知れない。
そして大きな魔力を受け止める為にはそれなりの材質が必要。
人の意思、それを溜めておくのであれば悪意を浄化したり、物理的な爆発を防いだりする結構緻密な魔法的回路だって必要。
現状何一つ確認出来ていない。
そしてそれは途方も無い力を蓄えている可能性がある。
「大葉さん、そんなに溜めた魔力はいったい何に使うんですか?」
「普通は魔法の行使に使う。だが既に大きすぎて人間が制御できる代物じゃない可能性があるし。俺はそう思ってる」
「……だったら」
爆発するしか無い?
「当然それが元々入っていた大本のアイテムがあるはずだ。封印の切り方知ってるくれぇだ、少なくとも仕掛けてるヤツぁ多少なりとも知識がある。こっくりさんできゃあきゃあいう様な、そう言うレベルじゃねぇはずだ。そして会長はきっとネタを掴んでる。あのタヌキオヤジ、またギリギリまで何も教えねぇつもりだな……?」
「と言う事はまたしても他国の魔法協会や国自体と衝突して国際問題になりかねないようなもの、と言う事でしょうか」
「おそらくそれしかねぇな。こないだの呪いの王冠事件の時も準国宝だっただろ? そして会長が黙ってる以上まだアイテム自身か、それを媒介に使うのかは知らんが発動は出来ねぇと踏んでんだろう。ただ今回は校舎が近い。絶対爆発させるわけには行かん。大至急当たりだけは付けねぇと」
華ちゃんが黙って大葉さんが持っていたゴミと缶を引き取る。
大葉さんは右手でありがとう、と言う仕草をしながら左手は携帯電話を引っ張り出す。
「バリアアウト。…………もしもし執行部監理課の大葉です、会長を大至急。――アイリス? 会長は何処行った! ――電話に出られねぇ? ふざけんな、今すぐ電話代われ! ――はぁ? 今はそう言う場合じゃ。――いや、経費は。それは確かに困るんだが、――いやアイリスさん? 別にそう言う話はしてないよね? 俺の報告書お前も見てるよね? ――だから今はそう言う話をだな……」
どうやらアイリスさんに話をうやむやにされたんだな、これ。
さすがはナンバー2で経理部長。大葉さんさえあっさりとやっつけてしまった。
【あなたを大切にします】
大葉さんはどうやら“あなた”には含まれていなかったらしい。
「アイリス屋のヤツめぇ! 今月の経費精算書を人質にしやがった!!」
――いずれにしろ。結局会長に取り次いで貰える事も無く電話を切られてしまった大葉さんは電話を仕舞いながらこちらを向く。
「フィールドワークは俺に任せろ。それに知っての通り、以前から総務が諜報課を送り込んでいる。どこに何人居るのかは知らんが、な」
実際の執行部隊である執行部の執行課や監理課と違って、調査課や諜報課は総務課と共に総務部の配下にある、
特に諜報課は構成員や何をしているのか等の詳細は、総務部長であるアイリスさんしか知らない。
彼らが掴んだ情報は総務経由であがってくるものの、職員が人前に出る事はほとんど無く、だからその人達の顔だって誰も知らない。
政治や軍事向きの仕事をしている事が多いからだ。
ただ、その諜報課までがうつくしヶ丘高校(学校)に入り込んでいるのなら。
やっぱりただ事じゃ無いんだろうな、この現状。
「だからお前らは有事に備えて待機。いいな?」
そう言うと大葉さんはゴミ袋を片手にその場から去って行く。
「とにかく各方面への調整と現地調査は大葉さんに任せて、わたくし達は下校時刻になるまでは図書室で監視を続けましょう。今はそれしか無いようです。……華さん?」
「はい」
「爆発の危険性が出てきた以上、有事の際にはわたくしのことは無視して結構。桜さんと仁史君を間違いなく守りなさい」
「しかし」
「わたくしもグレード2の時空使い、自分の身は自分で守ります。あなたの方が確実性が高いのは紛れもない事実でしょう。頼みましたよ?」
と、魔法使い二人は結構な感じの臨戦態勢をとったものの……。結局。
『まもなく下校時刻です。校内に残っている生徒の皆さん、現在行っている活動は直ちに終了し、扉、窓の施錠を確認して、速やかに下校して下さい』
と言う放送がかかるまで、何も動きは無かった。




