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真説・公園の魔法使い  作者: 弐逸 玖
うつくしヶ丘高校本校舎 職員室の前
32/66

電池の残量

 ちゃぶ台の上のお茶にはほぼ手を付けず、湯気が上がらなくなってきた。

「はい。お姉様。――いえ、そうでは。――わかっています。でも私は……」

 華ちゃんは正座で電話中。

 ……うん、取り替えてあげようか。



 結局、――後ほど事務所で。

 と言って別れたあやめさんとは結局、時間が合わずに会えずじまい。

 仁史はアイリスさんの護衛の元、電車では無く彼女の運転する車で家に帰った。


 その後、華ちゃんと二人で家に帰ってご飯を食べたところであやめさんに電話した。

 内容としては明日駅前で待ち合わせをしましょう、と言うだけの話だったんだけど。


『電話をお借りして申し訳ありませんが。華さんと、代わって頂けますか?』


 と言われてから既に三十分はこうしている。

 ――立場的には文句を言わなくてはいけないですから。

 とは確かに言っていた。


 補習を受けることに対する叱責なんだろうけどさ。

 なにもここまで文句を言わなくたって。

 華ちゃんの答える声しか聞こえないが、なにを言われているかは聞かなくてもだいたい分かる。



 ――わざわざ自分の試験勉強の時間を押してまで、あなたの勉強を見て頂いたのでしょう?


 ――落第点はお二人の力で脱したとはいえ、結局補習を受ける事になるなど、お二人に申し訳無いとは思わないのですか?


 ――それにあなたが補習を受けている間は桜さんと二十四時間同行しろ。という会長からのご指示までをもないがしろにすることになるのですよ?


 ――いったいお二人から教えて頂いたことを何処に置き忘れてきたのです。


 ――わたくしは横で聞いているだけでしたがあれ程に分かり易く、あなたのレベルにあわせて優しく教えて頂ける家庭教師など、他には絶対に居ません。


 ――それは間違いなく断言出来ます。そもそも……。



 多分こんな感じだろう。

 これを電話で延々と聞かされる。そして携帯は昨日、アイリスさんの手引きで連続通話時間最長を誇る最新機種に変更が完了したばかり、しかもバッテリーは満タン。

 電池切れでお説教が終わることはあり得ない。


 ……なんかゴメンね、華ちゃん。


「今回だけは許して下さいお姉様。――はい、もちろん問題があるのは私なのであって、桜と仁史君は何一つ悪くないです。どうか、そこだけでも良いですから私の話を聞いて下さい! ――はい、ありがとうございますお姉様。――はい、もちろんです……」


 結局あやめさんのリモートお説教はその後四十五分にわたって続いた。

 振興会の関係者に電話をかけた場合、どういう契約をするとそうなるのか知らないが電話代は振興会持ちになる。

 だからいくら長電話しようと家に怒られることは無いんだけど。


「はい、ではおやすみなさい。お姉様」

 そして華ちゃんががっくりと肩を落とした姿勢のまましばらく動かなくなり、電話をちゃぶ台においた。


 画面には“通話が終了しました 月仍野あやめ 通話時間82分”と表示される。


 そうか、電話は目上の人が先に切るんだったよね。

 前に華ちゃんに教えて貰ったんだ。

 まぁ、なんで華ちゃんがそれを知っているのかなんて、聞くまでもない話だけど。

 そして、電池残量はまだ75%だった。凄いや、最新機種……。



 で、その後。


 先ずは拗ねてお風呂に入ろうとしない華ちゃんから、何とか服をはぎ取ってお風呂場に放り込み。

 ボロボロのタオルを引っ張り出して、下着だけで玄関のたたきで寝ようとする彼女をなだめすかし。

 せっかく似合うのに勿体ないよ、と持ち上げて何とかパジャマを着せて。

 もう今日は時間的に電話はかけてこないから大丈夫。と言ってちゃぶ台の前に座らせ。



 そして今、やっと牛乳の入ったコップを彼女の前に置いた。

 赤点は免れたのになんでこんな苦労を……。


 まぁ、彼女にとってわがままを言える相手はきっと私しか居ないんだし、そう思えばその辺は仕方が無いのかも。

 学校では口数少なくおすまし顔で通しているし、仕事中のクロッカスはそれこそ任務以外はどうでも良い、といった具合だし。

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