ハードボイルドな女子高生
「それよりも! パジャマ、着てみた?」
「着るには着たのだけれど……」
「サイズはどう?」
「すこし大きい気がするけれど、桜はこれくらいで良いのだと言っていたよね?」
――どれどれ。手を拭いてエプロンを外しつつ茶の間に戻る。
既にライトグリーンの地味ーなパジャマを着て恥ずかしそうにしている華ちゃん。
これも危うく大特価男女兼用スウェット上下セットMサイズ現品限り。になるところだった代物。
それはそれで、この子の場合は似合っちゃうんだろうけど
「……わたしがこれを着ても、本当におかしくない?」
「うわ、なにこれ可愛い! 鏡見ておいでよ! ホントに何着ても似合うんだね、うらやましいぃ!」
そう言って昨日と同じく首に抱きついてみる。今日はリアクションがあった。
「ありがとう、桜がそう言ってくれるならきっと大丈夫なのね」
「だいたいパジャマ持ってないとか、今まで寝る時はどうしてたの? 裸とか?」
「昨日の応接室で寝ていたから裸は無いけれど。当初、下着だけで寝ていたらお姉様にだいぶ怒られたので、普通に服は着ていたわ」
「そう言う生活してるのは、映画に出てくるハードボイルドな探偵さんくらいだよ!」
「ソファで起き上がって、夜に残った冷たいピザをコーヒーで流し込んで、服は着ているからそのまま緩んだネクタイを締めなおして、帽子を被ってそのまま仕事へ。……私としては一切の無駄が無い効率的なスタイルだと思うのだけど」
「なんでそういう事だけは詳細に知ってるのよ!」
「廃倉庫が事務所兼自宅、とか。憧れる……」
「居ないよっ! 居ないからね!? そんな女子高生っ!!」
ハードボイルド女子高生。彼女の場合はそのまま当てはまっちゃうけど。
それだって、偶にはベッドで寝てるシーンはあるんだし、シャワーだって浴びる。
……布団は持ってなかったんだっけ、そう言えば。
「事務所では、どうやって寝てたの?」
今の話を聞く限り。聞くまでもないんだけど、ね。
あの大きなソファで寝起きしてたなら、まぁ普通にベッドで寝てるのに近いか。
「事務所のソファとか、あと暑い日は床で寝ていたの。事務所の床、あの薄いビニールタイルのしたはもう、直接コンクリートだから、夏はタオルを敷いても冷たくて気持ちいいの」
前言撤回。冗談じゃない!
何処の世界にコンクリートの床で寝る女子高生がいるってのよ!
大事に持ってきた、あのすり切れて薄くなったタオルはそれか!
確かに昨日、寝る時も大事そうに握りしめていたけれど……。
「敵に襲われたらすぐに起きなきゃいけないし……」
「はい質問。振興会の事務所、襲撃された実績は?」
「……ゼロ、です」
「うむ。わかっているようでよろしい」
ここで唐突に、友達が飼っている犬の話を思い出す。
夏になると涼しいところを探して家中を一日うろうろしている、と言っていた。
そして寝る前にエアコンを止めると、お気に入りのタオルを咥えて玄関の三和土に行くのだと……。
「今後は床で寝るの禁止!」
「それは、いつまで? 夏はやっぱりたまにコンクリートの……」
「もちろん一生っ!!」
……昨日、玄関で寝るって言ってたの。
冗談でも何でも無くてそれはそれで本気だったんだ。
そんな女子高生がどこに居るのよ、本当に……。
一応裸で寝ないようには教えたようだけど。
その辺はちゃんと全部教えてあげてよ、あやめさん!!
その後、今日は彼女の方から恥ずかしげにお風呂に誘われた。
どうやら私と二人で入るのをデフォとして認識したらしい。
うむ、非常によろしい。
そして寝る前。電気を消した後。
「今日は本当にありがとう。私一人では学校どころか、普通に生活する事さえ出来ないんだね。……アイリスやお姉様があなたから離れるな、と言った意味が良く分かった」
「いや、あのそこまで深い意味は無かったんじゃ無いのかな……、だって護衛って」
「それはもちろん。何があっても、桜は絶対に私が守ります。……あのね、学校を卒業したら絶対に恩返しをするから、絶対に世の中の役に立つような立派な人間になるから。――だから、せめてそれまでは。……お願い、桜。私の手を。離さないでいて……!」
電気を消したあと、彼女は私の手を両手でぎゅっと握ってそう言った。




