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真説・公園の魔法使い  作者: 弐逸 玖
実法学院うつくしヶ丘高校 普通課一年B組
23/66

ハードボイルドな女子高生

「それよりも! パジャマ、着てみた?」

「着るには着たのだけれど……」

「サイズはどう?」

「すこし大きい気がするけれど、桜はこれくらいで良いのだと言っていたよね?」


 ――どれどれ。手を拭いてエプロンを外しつつ茶の間に戻る。

 既にライトグリーンの地味ーなパジャマを着て恥ずかしそうにしている華ちゃん。

 これも危うく大特価男女兼用スウェット上下セットMサイズ現品限り。になるところだった代物。

 それはそれで、この子の場合は似合っちゃうんだろうけど


「……わたしがこれを着ても、本当におかしくない?」

「うわ、なにこれ可愛い! 鏡見ておいでよ! ホントに何着ても似合うんだね、うらやましいぃ!」

 そう言って昨日と同じく首に抱きついてみる。今日はリアクションがあった。


「ありがとう、桜がそう言ってくれるならきっと大丈夫なのね」

「だいたいパジャマ持ってないとか、今まで寝る時はどうしてたの? 裸とか?」


「昨日の応接室で寝ていたから裸は無いけれど。当初、下着だけで寝ていたらお姉様にだいぶ怒られたので、普通に服は着ていたわ」

「そう言う生活してるのは、映画に出てくるハードボイルドな探偵さんくらいだよ!」



「ソファで起き上がって、夜に残った冷たいピザをコーヒーで流し込んで、服は着ているからそのまま緩んだネクタイを締めなおして、帽子を被ってそのまま仕事へ。……私としては一切の無駄が無い効率的なスタイルだと思うのだけど」


「なんでそういう事だけは詳細に知ってるのよ!」

「廃倉庫が事務所兼自宅、とか。憧れる……」

「居ないよっ! 居ないからね!? そんな女子高生っ!!」

 

 ハードボイルド女子高生。彼女の場合はそのまま当てはまっちゃうけど。

 それだって、偶にはベッドで寝てるシーンはあるんだし、シャワーだって浴びる。


 ……布団は持ってなかったんだっけ、そう言えば。

「事務所では、どうやって寝てたの?」

 今の話を聞く限り。聞くまでもないんだけど、ね。

 あの大きなソファで寝起きしてたなら、まぁ普通にベッドで寝てるのに近いか。


「事務所のソファとか、あと暑い日は床で寝ていたの。事務所の床、あの薄いビニールタイルのしたはもう、直接コンクリートだから、夏はタオルを敷いても冷たくて気持ちいいの」

 前言撤回。冗談じゃない!

 何処の世界にコンクリートの床で寝る女子高生がいるってのよ!


 大事に持ってきた、あのすり切れて薄くなったタオルはそれか!

 確かに昨日、寝る時も大事そうに握りしめていたけれど……。


「敵に襲われたらすぐに起きなきゃいけないし……」

「はい質問。振興会の事務所、襲撃された実績は?」

「……ゼロ、です」

「うむ。わかっているようでよろしい」



 ここで唐突に、友達が飼っている犬の話を思い出す。

 夏になると涼しいところを探して家中を一日うろうろしている、と言っていた。

 そして寝る前にエアコンを止めると、お気に入りのタオルを咥えて玄関の三和土たたきに行くのだと……。



「今後は床で寝るの禁止!」

「それは、いつまで? 夏はやっぱりたまにコンクリートの……」

「もちろん一生っ!!」


 ……昨日、玄関で寝るって言ってたの。

 冗談でも何でも無くてそれはそれで本気だったんだ。

 そんな女子高生がどこに居るのよ、本当に……。


 一応裸で寝ないようには教えたようだけど。

 その辺はちゃんと全部教えてあげてよ、あやめさん!!


 その後、今日は彼女の方から恥ずかしげにお風呂に誘われた。

 どうやら私と二人で入るのをデフォとして認識したらしい。

 うむ、非常によろしい。




 そして寝る前。電気を消した後。

「今日は本当にありがとう。私一人では学校どころか、普通に生活する事さえ出来ないんだね。……アイリスやお姉様があなたから離れるな、と言った意味が良く分かった」

「いや、あのそこまで深い意味は無かったんじゃ無いのかな……、だって護衛って」


「それはもちろん。何があっても、桜は絶対に私が守ります。……あのね、学校を卒業したら絶対に恩返しをするから、絶対に世の中の役に立つような立派な人間になるから。――だから、せめてそれまでは。……お願い、桜。私の手を。離さないでいて……!」

 電気を消したあと、彼女は私の手を両手でぎゅっと握ってそう言った。

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