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真説・公園の魔法使い  作者: 弐逸 玖
実法学院うつくしヶ丘高校 普通課一年B組
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初めての学校 英語の時間

「キミがミス・サフランだね」

「……はい」

「カナダに居たので日常会話は出来ると聞いているが、実際にはどの程度イケるのかな? 僕よりも流ちょうとすれば、それはそれでキミにお願いしたいことがあるのだが」


 来た。経歴詐称のできが試される英語の時間が。

 ……それはそうだ、当然確認はするだろう。


 進学校とは言え姉妹校三校の中でももっとも偏差値が低いとされる我が校のこと、英語の授業はネイティブの先生になって、完全英語化するのは二年から。

 一年生時は日本人の英語教師。


 とは言え彼もアメリカの大学を、なんの意図があったのか、二度も卒業した強者ではある。

 もちろん、ごく普通に英語で日常会話ができる。なんならイタリア語もいけるらしい。

 ……なんでウチの学校で教師なんかしてるんだろう、勿体ない。


「直近のバンクーバーには事実上半年ほどですが。それ以前はチェンマイ、ジュニアスクールの前半まではペキンとプノンペンで、基本的にはインターナショナルスクールだったので、話すだけならそれなりに」



 なるほど、そこまで言うなら英語がネイティブレベルで話せる。というのは嘘では無いんだな。

 ……書けないんだけど。どうする気なんだろう、そこ。


 そしてアジアの都市名を出して煙に巻く。

 とうとうと、よどみ無く答えてるところを見ても。事前に想定して作っておいた問答の内。なんだろうな。

 仕込んだのはあやめさんで間違い無いだろうけど。たいしたもんだなぁ。



「わかった。それでは今日から少し様子を見て、授業内容そのほかで思うところがあったなら。そこは言ってくれるとこちらも助かる」

「わざわざ、ありがとうございます」


「僕としても、受験用の教科としてで無く、ネイティブの生きた英語を教えたいんでね。もちろん受験の英語で点数を取ることも必要なんだが、その辺は教師としての解消しがたいジレンマ、と言うところだな」


 それにカナダはともかく。東南アジアに関して言えば何処の国かは知らないが、屋台を荒らし回る少女として本当に居たんだろうし。



「では今日は、教科書に入る前に。……ニュースで昨日の夜、大臣が辞任したニュースをやっていたがみんな、知ってるかな? ――ほぉ、意外と時事にも関心を持っているね、結構なことだ。で、今朝の新聞の見出し、彼の発言を取りだして一面になっていたんだが、読んだものはいるかな?」


 英語なのに時事ネタから入るの?

 この先生は元から結構変わってるんだけど、だから授業は飽きなくて助かる。



「意外と知ってるな、感心々々。そう。豚に真珠、と新聞各紙でも一面でデカデカと見出しになってるんで、何があったのかは、帰ったらちょっと読んでみて欲しいんだけど」


 豚に真珠 政治腐敗に反省の色無し。

 なんて見出しで新聞に載ってた。

 新聞は取ってないけど朝のテレビでやってたな。


「……で、一般的にこう言うのは慣用句というな? ――うん、でだ。英語でもこう言う、言葉だけ聞くと直接意味が取れないような言い回しはあってな、“idiom”という。スペルは、……こう」



 黒板の音と共に、右隣で一生懸命に書き取りを始めた気配。

 まぁ基本的には板書を全部写すのだ、とはさっき話したばかりだけど。



「そして、豚に真珠。については面白いことに英語でも全く同じ言い回しが存在するんだ。実はこれは聖書から来ている言葉で“cast pearls before swine”。直訳すれば豚に真珠を投げる、だな」

 へぇ、さすが世界一のベストセラー。いろいろ書いてあるんだな。


「だから意味もほぼ日本語と同じ。価値の理解できない人には良いモノを与えても無駄である。と言う感じになる。ん? スペルか? こうなる。……この“swine”が豚。実はこれ、少し古くさい言い方なんだがまぁ、これは出典が聖書だからな」


「cast pearls before swine……」

 隣からはやたら本格的な発音での小さな呟きと、そして意外にも流暢な筆記体でそれが書かれたノート。

 知らないのはホントにスペルだけってこと?


 先生が喋ったことで気になった事も書いたりするんだよ?

 確かにそれもさっき言った。

 なので右隣は、自分で呟いた言葉以外、ほぼひらがなではあるが、何かをノートに書き付けている。……気になるのか、豚。



「いいかな? 実はこの言葉、語源が英語でそれがそのまま日本語になったんだ。元々の日本の言い回しなら猫に小判、なんてのもある」


『桜、ごめんなさい。ネコに、なに?』

『ん? あぁ、ねこに、こ・ば・ん』

『KOBAN? こばん、で良いの? こばんってなに?』

『昔の日本のお金』

『……なるほど』

 この喰い付き方はなんなんだろう。そこまで興味を引くことだろうかねぇ。


「ミス・サフラン、理解はできているかな? 僕の話し方に問題は?」

「ありません」


「オーケィ、続けよう。――いつも言うように勉強はただ覚えりゃ良い、と言うものでは無くて生活にシームレスにつながっているのだ、……と言う僕からのありがたい話が終わったところで授業に入ろうか。はい、では教科書は、えーとB組は。……25ページからだったかな? うん、そうそう。この真ん中のとこだな。お母さんの話の続きから」

『華ちゃん、教科書開いて? 25ページだよ?』

『……はい』


「ではミス・タケダ。……竹田さーん? ――ハァイ! モーニン、ヒトミ。ご飯のあとは眠くなるよな。では眠気覚ましもかねて昨日の続き。二〇行目、ハイスクール云々のあたりから、ざっと読んで貰いたいんだけど、ちゃんと起きたかぁ? じゃ、よだれを拭いたらぼちぼち25ページを開いてくれないかな?」


 高等数学も、古文も、世界史も。通常の生活には一切関係なさそうに見えるけれども。

 実際にはそれを気が付かずに取り入れて、応用して生きているのかも知れないな。

 ふむ、やはり勉強は必要か。


 ……そして右隣の人の英語のノート。栄えある1ページ目に、

「ブタにしんじゅ cast pearls before swine」

 と書いてあるんだけど、それは今後、何処かで役に立つのかな……。 

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