↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
余命わずかな公爵令嬢は、最後に最愛の婚約者からの愛を望む  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)
第三章 彼女が亡くなった後、人々は……

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/52

40 奇跡

アーヴィング公爵が亡くなる少し前。



人々が寝静まった後の深い夜。

時刻はちょうど深夜の二時だった。いくら人が溢れる王都とはいえ、この時間に出歩く人はあまりいない。



マーガレットが暮らしていた小さな町からやって来たある人物は、ローブのフードを深くかぶって夜の街を歩いていた。

彼は迷うことなく、ある場所へ一直線へ向かう。



「……」



彼がそっと扉を開けて入ったのは、王都にある大聖堂だった。

ギィ……と音を立てて重い扉が開く。そこで彼はようやく、かぶっていたフードを取った。



――生前のマーガレットの治療をしていた司祭だった。

彼が一体なぜ、何の用でここにいるのか。



中にいたのは彼だけではなく、中央にもう一人の人物が立っていた。

その人物の前で、彼は地面に膝をついた。



「――大司祭様にご挨拶申し上げます」

「……顔を上げろ」



頭上から降り注ぐ一言で、司祭はゆっくりと頭を上げた。

グレーの長い髭を生やした、老齢の男性が視界に入る。

金色の装飾が所々に施された白い祭服を着ている彼は、このウルティア王国でも数少ない大司祭だ。



それぞれの町に滞在する司祭たちのリーダーのような存在で、彼らよりもずっと大きな力を持ち合わせている。



司祭は彼の命令でゆっくりと立ち上がった。

一介の司祭である彼は、大司祭とあまり会う機会がない。そもそも簡単に会えるような存在ではないし、各地を転々としているため、どこで何をしているかもわからない。



――そんな二人が、なぜこのように人目を忍んでひっそりと会っているのか。



答えはこの大聖堂の地下室にあった。

大司祭は彼を手招きすると、そのまま大聖堂の奥へと入って行った。



隠された秘密の扉を開けると、地下へ続く階段が姿を現わした。

真っ暗で、先は見えない。この先に何があるのか、初めてここへ来る人間は想像もつかないだろう。

そもそもここは人々には秘匿されている場所で、王族ですらその存在を知らなかった。



大司祭はランプを手に、下へ降りて行った。

そのあとを、司祭も続く。先は暗く、かろうじて見えるのは足元の段差だけだ。



長い長い階段を、彼は大司祭の背中を追って進んでいく。

いくら何でも長すぎやしないか?と思い始めていた頃、大司祭が立ち止まった。



どうやら、地下室に辿り着いたようだ。

そこで彼はようやく、この地下室の正体を悟った。



最後の階段を下りると、広い部屋が彼の視界に入った。

部屋の四隅にロウソクが置かれ、暗い室内を明るく照らしている。おかげで彼は室内をしっかり見ることができた。



「ここは……!」



初めて地下室へ入った司祭は驚きを隠せなかった。

彼が今いるこの場所は、ついさっきまでいた大聖堂の中と瓜二つだったからだ。

招待客たちが座る長椅子が左右に置かれ、中心は人が通れるように空いている。ここに来る人なんていないはずなのに、なぜこのような部屋が存在しているのか。



司祭という地位にいた彼ですら、知らなかったことだった。



正面には女神の像が置かれ、最も奥の壁にウルティア王国の神殿を表す紋章が刻まれている。周囲を見渡しても、さっきと全く同じ景色が広がっている。



強いて違いを言うとしたら、地下であるため窓がないことくらいだろう。

それと、大きな違いがもう一つ。



――中央に、見覚えのある棺が置かれていた。

司祭はもしかして……と思い、ゆっくりと棺に近づいた。



「マ、マーガレットさん!?」



――何と、棺の中で目を閉じて横たわっていたのは亡くなったはずのマーガレットだった。



大司祭が亡くなったマーガレットの遺体を引き取ったことは知っていた。

しかし、こんな地下室に彼女を置いていたことは初耳だ。



「ど、どうして彼女がここにいるのですか……!?」



慌てた司祭は、すぐ横にいた大司祭に詰め寄った。

大司祭は彼のほうを振り向くと、真剣な表情で尋ねた。



「…………君は、奇跡というものを信じるか?」

「………何を」



その問いに、彼は一つの可能性を考えた。

マーガレットが亡くなったときのことを、司祭は思い返した。



傷一つなく、亡くなってもなお美しかったマーガレット。

その遺体は、ただ寝ているだけだと言われても信じてしまうほどだった。



司祭はマーガレットの死を確認していなかった。

ただ、彼女の身体が呪いに蝕まれているという事実と、セオドアから亡くなったと聞いて勝手にそう判断していただけだ。



葬儀のときも参列はしたものの、遠くから棺を眺めるだけだった。



――奇跡というものを信じるか。

その問いに、彼の探していた答えが隠されているような気がしてならない。



考えられる結論は、ただ一つ。



「マーガレットさんは……生きているのか?」




読んでくださってありがとうございます!


ブクマ、いいね、評価などしていただけたら励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。