皆に見守られながらの結婚式
応接間の中には陛下だけではなく、王妃殿下も隣に腰をかけていた。
お二人は私の顔を見ると立ち上がり、わざわざ私の元へ来て挨拶をしてくれる。
「よく来てくれましたね、あなたの事は陛下から聞いていますよ。 ベラトリクス様の事も知っています……今までよく頑張ってこられましたね」
王妃殿下は私の頭を撫でながら、とてもお優しい言葉をかけてくれて……気付いたら涙がとめどなく流れていた。
お母様に言われているみたい。
私の涙に皆が慌ててしまったので、私は泣き笑いのような表情で感謝の気持ちを伝える。
「有難いお言葉、感謝いたします。 お会い出来て嬉しいです」
その日、リンデンバーグでの暮らしやお母様の事、私の事など、沢山の事をお二人にお話しした。
お二人は時折お母様の話で険しい表情になる事もあったけれど、話を聞くことができて満足していらっしゃる様子だった。
リンデンバーグの王族はおそらく国王、王妃、側妃たちは処刑され、その子らは離島に流され、幽閉される事になると伝えてくれる。
実の父親と兄姉たちは血が繋がっているので少し胸が痛むけれど、もうこんな事を繰り返さない為には、これで良かったのだと思う。
リンデンバーグ王国は国として機能していないとは言え、このままでは無法地帯になってしまうので、ベルンシュタットで管理するという形はどうかと提案された。
私は自分が生まれ育った国でもあるし、あそこで生活している民が少なからずいる事を知っているから、そうさせてもらいたいとお願いしたのだった。
領地の経営学などを学んで、住みやすい土地にしたい……今はそんな思いが私の中で湧いてきている。
そして私はお母様の日記を陛下に渡そうか迷っていた……その話をすると、やはり陛下は迷っておられて――――
「ではそれは私が預かりましょう」
「王妃殿下……」
「私が持っておけば、陛下の御心が落ち着いた時、いつでもお読みになれるでしょうから」
「すまないな」
「いいえ」
素敵なやり取り、素敵なご夫婦の姿に私は目を細める。
お母様がいなくなってから、王妃殿下はずっと陛下をお支えしてきたのだろうなと思うと胸が温かくなった。
「ロザリア、そなたの存在を国中に知らせようと考えておる」
「え?あの……混乱させてしまうのでは……」
「ベラトリクスの事は民も心を痛めていたのだ。 その娘であるそなたが無事に我が国に戻ってきた事を知れば国中が喜ぶだろう」
「分かりました。 陛下の御心のままに」
失踪した王女の生涯と、その娘として私の事はたちまち国中に広まり、多くの民の反響を呼ぶ事になる。
王宮前に建てたお母様の慰霊碑には、毎日沢山の献花が後を絶たない――――
そして私のお披露目も兼ねて、挙式は王宮で盛大に行われる事になったのだった。
~・~・~・~
リンデンバーグが消滅してから3ヵ月経った晴天の良き日に、私はテオ様と本当の夫婦になる。
純白のドレスを身に纏い、肌は磨かれ、髪は襟足を少し残して緩く巻き、残りは全てふんわりと結い上げている。
頭上には光り輝くティアラをいただき、お花などの装飾に長いベールが後ろに流れていた。
そんな私にエリーナが綺麗にお化粧をしてくれている。
純白のドレスはテオ様が私の為にデザインしてくれた。
舞踏会の為にせっかく贈ってくださったドレスが、攫われた事で汚れたり破れてしまったりで、私がとても落ち込んでいたので……それならば式でのドレスを贈らせてほしいと言ってくださった。
私は落ち込んでいたのも忘れて喜び、私のそんな姿にテオ様は張り切ってドレスを贈ってくれたのだった。
純白のドレスは本当に美しくて……腕の部分はパフスリーブで余裕を持たせ、手の甲までイリュージョンレースが施された長袖になっている。
首にはティアラに負けないほどのダイヤモンドのジュエリーが本当に美しい。
ハートカットの胸元にはシンプルな刺繍とビジューで装飾されていた。
スカートの後ろ部分のトレーンはとても長くて、お化粧の間、座っているのがとても大変だった。
スカートの前側はシンプルな作りだけど、トレーン部分は素晴らしいレースと刺繍で……王女をイメージしているのが伝わってくる。
このドレスを来ているだけで、テオ様の愛を感じて胸が温かくなるわ。
「ロザリア様、全て準備が整いました! とってもお綺麗です~!!」
「ありがとう、エリーナ……今までも今日も」
「幸せになってください、姫様……あ、ロザリア様!」
エリーナは興奮すると姫様に戻ってしまう事があるらしくて、その度に訂正している姿が面白くて笑ってしまう。
「ふふっ。 どちらでもいいのよ」
「いいえ! 明日からは絶対に奥様にします!ロザリア様とお呼びするのは今日で卒業です」
明日から……それは今日の式が終わった後に初夜が待っているから、という事?
頭の中にテオ様が浮かんできて、顔に熱が集まってきてしまう。
「ふふふっ。 ロザリア様、真っ赤ですわ! 何をご想像されたのです?」
「だってエリーナが変な事を言うから!」
エリーナはとても意地悪な顔をしてからかってくる。
今夜……テオ様と本当の夫婦になるのよね……せっかく考えないようにしていたのに!
「変な事ってなんだい?」
「ひゃっ!」
「あ、旦那様! まだ来てはいけませんよ~~」
突然のテオ様の声が後ろから聞こえてきて、変な声が出てしまう。
今テオ様に私の顔を見られるのはいけないわ……私は最愛の人に背を向けた状態で固まっていた。
「ロザリー? 肩まで赤いけど、体調でも悪いのかい?」
後ろから私を心配する声が聞こえてくる。
今日という晴れの日にテオ様に心配をかけてはいけないわね。
私は振り返って何でもないという事を伝えたけれど、旦那様はすでに私のドレス姿に夢中になってしまっていた。
「ロザリー……女神みたいだ……とても美しいよ。 私の花嫁は世界一だな」
「もちろんです! ロザリア様以上のお方はおりませんわ。 さあ、旦那様もロザリア様も、ホールに参りましょう。 皆さまがお待ちですよ!」
テオ様が私の手の甲に口づけながら「では参りましょう、ロザリア姫」と言った。
その言葉で、デボンの森で私を見逃してくれた時の事が頭に思い出される。
私はエリーナを守る事に必死で……冥王と呼ばれるに相応しい威圧感と存在感を示し、去っていったその人と結婚する事なんて、その時は想像もしていなかったわ。
嫁いだ先でテオ様に沢山甘やかされ、愛されて、皆が優しくしてくれて、私の出自や国王陛下が伯父様だったという事が分かり……リンデンバーグからも解放され、今日最愛の人と本当の夫婦になる。
ここまでの道のりを思い出しながら、隣で微笑んでくれるテオ様の腕に手を置き、式が行われるホールに移動した。
お母様、見ていてくれていますか。
ロザリアはお母様の国で生き、お母様の分も幸せになります――――
私とテオ様の式には国中の貴族が参列してくれて、そこにはもちろん国王夫妻のお姿もあった。
ステファニー様やヒルド様のお姿も……18歳の誕生日の時は二人きりだったけど、今日は皆に祝福され、神の前で誓いの口づけを行う。
自分がこの国に認められた感じがして、身が引き締まる思いがする。
式の後、王宮の大きなバルコニーに出て民の前に姿を現すと、私とテオ様は割れんばかりの歓声に包まれた。
そしてそこへ国王夫妻が現れて陛下は私の隣に、王妃殿下はテオ様の隣に立ち、さらに王太子殿下など王族の皆さまが並んで民に手を振ると、更に大きな歓声が沸き起こったのだった。
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