↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベルが支配する異世界夢想  作者: 土瓶蒸しの謎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/48

# 第10話 龍燐草を求めて


 ギルドを出たかか志とヨルは、昨日とは反対側の城門へ向かっていた。


「昨日とは逆方向ですね」


「はい。こちらの門を出ると、東側の街道へ出ます」


 城門を抜けると、昨日向かったテンパール草原とは反対方向へ、広い街道がまっすぐ伸びていた。王都に繋がる道だけあってよく整備されており、荷馬車同士がすれ違えるほどの幅がある。人や馬車の往来もそれなりに多い。


「この道をずっと行けば、龍燐草があるんですか?」


「正確には、依頼主の屋敷があります」


「屋敷? 草を採りに行くんですよね?」


「はい。このドラゴンロードを進み、ブレーカー平原を抜けるとドラゴンビレッジがあります。その山の麓に、依頼主の屋敷があります」


「なるほど……その屋敷に行けば龍燐草がある、と」


 ヨルが頷く。かか志は歩きながら依頼書を取り出した。


 そこに書かれた龍燐草の報酬は、最低でも一本100万G。何度見ても、昨日の薬草採取とは桁が違う。


「それにしても、一本100万ってすごいですよね。昨日も薬草を採ったばかりですけど、こっちは一本で100万か……やっぱり、それだけ珍しい草なんですかね?」


「おそらくは」


「おそらくって……ヨルさんも詳しくは知らないんですか?」


「龍燐草が非常に希少なものであることは知っています。ただ、私も実物を見たことはありません」


「へえ……じゃあ、ヨルさんも初めてなんですね」


「そうなります」


 それなら聞いても分からないか。かか志は依頼書をしまった。


 採取依頼なのだから、現地へ行って見つけたら採ればいい。昨日の薬草採取と基本的には同じだろう。


 二人はそのまま、東へ伸びる街道を歩いていった。


         ◇


 しばらく進むと、街道の周囲から建物が減り、やがて視界いっぱいに平原が広がった。


「ここがブレーカー平原です」


「広いですね。昨日のテンパール草原も広かったけど、こっちはまた違う感じだな」


 街道は平原の中をまっすぐ先へ続いている。見渡す限り遮るものもなく、道を外れなければ行き先を間違える心配はなさそうだった。


「このまま街道を進めば、ドラゴンビレッジへ着きます」


「それなら迷うことはなさそうですね」


 そのまま平原を抜けていくと、遠くに見えていた山々が次第に近づき、やがてその麓に集落らしきものが見えてきた。


「あれがドラゴンビレッジですか?」


「はい」


「名前だけ聞くと、すごいところに来た感じがするな……」


 かか志は遠目に集落を眺めてから、ヨルへ顔を向ける。


「普通の村なんですよね?」


「山の麓にある集落です」


「そこは普通なんだ」


 少し拍子抜けしながら集落を越え、さらに山の方へ進んでいくと、一軒の屋敷が見えてきた。


「……もしかして、あれですか?」


「はい。依頼主の屋敷です」


「思ったよりちゃんとした屋敷だな……草を採りに来ただけなんだけど」


 改めて考えると、やはり妙な依頼だった。それでも、ここまで来た以上は行くしかない。二人は街道を外れ、その屋敷へ向かった。


         ◇


 屋敷の庭では、一人の男が植物の手入れをしていた。


 長い黒髪に整った顔立ち。細身の身体を屈め、一株ずつ確かめるように丁寧に手を入れている。その中には、龍燐草もあった。


「……今日も元気そうだな」


 男は満足そうに呟くと、手入れを終えて立ち上がった。


 最近この屋敷を訪れるのは、昔からの知己や顔見知りが多い。特に用事もなく、ただ顔を見せに来る者までいる。それはそれで、男にとって嫌なことではなかった。


 だが時折、冒険者が龍燐草を求めてやって来る。


 そういう時には、少しだけ心が躍る。


「さて……今回は、どんな者が来るのだろうな」


 男は立ち上がり、遠くを見る。まだ姿は見えない。だが、近づいてくる気配は感じていた。


「……来たか」


 男の表情に、ほんのわずかな緊張が走る。すぐに、いつもの落ち着いた表情へ戻った。


 ――挑戦者が、来る。


         ◇


 屋敷の前まで来ると、門のところに一人の男が立っていた。


「……冒険者か?」


「はい。龍燐草の採取依頼で来ました」


 かか志が答える。


「そうか」


 男は二人を見た。その視線が、一瞬だけかか志で止まる。


「私はチェッペリン3世だ。この屋敷に住んでいる」


「……ああ」


 かか志は一瞬だけ考えた。依頼書に書いてあった名前。確か、そんな名前だった。


「あの……依頼を出された方ですね」


「そうだ」


「山田野かか志です。よろしくお願いします」


「こちらこそ」


 チェッペリンは静かに頷いた。


 かか志は改めて庭を見る。色々な植物が植えられているが、どれが龍燐草なのかは分からない。


「龍燐草って、どれですか?」


「あちらだ」


 チェッペリンが庭の一角を指差す。そこには、他の植物とは少し違う草が生えていた。


「これですか」


「そうだ」


 かか志は近づき、龍燐草を見る。


「……普通の草に見えるな」


 もちろん、普通の草ではないのだろう。一本100万Gなのだから。


 かか志はしゃがみ込み、龍燐草を一本採った。


「これでいいですか?」


「……ああ」


 チェッペリンの返事は、ほんのわずかに遅れた。


 かか志は採った龍燐草を確認する。一本。依頼書には、一本100万Gからと書かれていた。


「じゃあ、頂いて帰ります」


「……そうか」


「ありがとうございました」


 かか志は頭を下げた。チェッペリンも静かに頷く。


「気をつけて帰るといい」


「はい」


 かか志とヨルは屋敷を後にした。


 しばらく歩いたところで、かか志がぽつりと呟く。


「……なんか、変な依頼でしたね」


「……そうですね」


「自分の庭に生えてる草を、わざわざ冒険者に採らせて、ギルドに納品させるって」


 かか志は手元の龍燐草を見る。


「まあ、一本100万Gですし。相当珍しい草なんでしょうけど」


 ヨルは何も答えなかった。


 かか志は少し考えたあと、肩をすくめる。


「まっ、いいか」


 とりあえず、依頼は終わった。あとは王都へ戻って、ギルドに納品するだけだ。


「帰ったら、100万かぁ……」


 かか志は少しだけ楽しそうに呟き、ヨルと並んで街道を歩いていった。


 その背中を、屋敷からチェッペリンが静かに見送っていた。


 その表情は、いつもと変わらない。


 ただ。


 ほんの少しだけ、困惑していた。

面白い、続きが読みたいと思っていただけたら、評価や感想をいただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。