# 閑話3 ギルドの喧騒
……今回は視点を変えて、冒険者ギルドのお話です。
本編では描かれていない、山田野が冒険者登録をした日のギルドの一幕。
まあ、新人が来れば絡みたくなる先輩冒険者もいるわけで。
そんな感じのお話です。
冒険者ギルドの一角で仲間と酒を飲んでいた男が、ふと入口の方へ目を向けた。見慣れない男が一人、物珍しそうに辺りを見回している。
「お、新人か?」
男がそちらへ目を向けると、向かいに座っていた仲間もつられて振り返った。
「また声かけるのか?」
「いいだろ別に。初めてなら分からんこともあるだろ」
「お前の場合、それだけで終わればな」
「なんだよ、その言い方」
呆れたように笑う仲間を放っておき、男は近くまで来た新人へ声をかけた。
「兄ちゃん、初めてか? 登録ならあっちの受付だぞ」
「あ、はい。ありがとうございます」
素直に礼を言われ、男は軽く手を上げる。
「依頼を見るだけなら、そっちの掲示板な」
今度は仲間が横から声をかけた。新人――かか志が教えられた方を見る。
「……親切ですね」
「そうですね」
連れとそんな話をしながら、かか志は受付へ向かっていく。
男はその背中を見送りながら、ふと口を閉じた。本当なら、もう少し何か言うつもりだった。
新人なんだから無茶するな。冒険者はそんなに甘くない。先輩の言うことは聞いておけ――いつもなら、そのくらいは口にしている。
別に脅したいわけではない。ただ、新人を見るとつい一言言いたくなる。それだけのことだ。
なのに今日は、声をかけて受付を教え、それで終わった。
「……どうした?」
「何が?」
「いや。今日はやけにあっさりしてるなと思ってな」
仲間に言われ、男は何のことだと眉をひそめる。
「親切に受付教えただろうが」
「そこじゃねえよ。いつもなら、そのあと始まるだろ。『新人のうちはな』とか『冒険者ってのはな』とか」
「……俺はそんなに偉そうか?」
「今さらそこ気にするのか?」
即答され、男は顔をしかめた。
「うるせえな。別に偉そうにしてるつもりはねえよ。ちょっと先輩としてだな――」
「それを偉そうって言うんだよ」
「お前まで掲示板教えてただろうが」
「俺は場所教えただけだ」
「俺だってそうだろ」
「だから今日はどうしたって聞いてんだよ」
そこまで言われ、男は言葉に詰まった。どうしたと言われても、自分でも分からない。受付の方へ目をやれば、先ほどの新人が何やら話をしている。見たところ、特に変わったところはなかった。
「……俺も不思議なんだよ。別に何かあったわけじゃねえんだけどな」
「じゃあ、なんでやめたんだ?」
「いや、それが……」
男はしばらく受付の方を眺めてから、首をひねる。
「なんつうか……あいつには、余計なこと言わない方がいい気がしたんだよ」
「なんだそれ」
「俺に聞くな。分かってたら俺が聞きてえよ」
怖そうだったわけでもない。睨まれたわけでも、何か言われたわけでもない。むしろ礼儀正しく礼を言われただけだ。
それなのに、いつもの調子でもう一言――そう思ったところで、なぜかやめておこうと思った。
「……まあ、いいか」
「いいのかよ」
「分かんねえもん考えても仕方ねえだろ。で、昼飯どうする?」
「お前、切り替え早すぎだろ」
呆れた声を聞きながら、男は置いていた杯へ手を伸ばした。
受付では、そんなやり取りなど知るはずもないかか志が、冒険者登録を進めている。
今日も冒険者ギルドは、いつも通り騒がしかった。
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