第36話 魔法少女、命を懸ける
「ひぃッ、ひぃッ!? しっ、死ぬッ!? これっ、死んじゃうッ!?」
消失した右腕の肘から先……存在しない部位からの激烈な痛みと吹き出る大量の血が、一気に私の生命力を奪っていく。
今まではほとんど即死していたけど、こいつはまあよくよく人をいたぶってくれたせいで、私は強烈な死へのストレスに長いことさらされ続けた。
「う、うぅ……」
痛い……辛い、キツい!
死ぬまでこんな痛みに耐えてないといけないなんて……気が狂いそうだ……。
「うぅぅぅ…………!」
私から齧り取った右腕だったものをペッと吐き捨て、オオカミ魔獣が最後の一撃を加えようと構えてくる……。
「ぐぅぅぅ〜~っ!!」
イヤだ……喰われるのだけはイヤだ!
あんな死に方は二度とごめんだし……何より、私がまったく成長してないみたいじゃないか!
「まっ……けて……たまるか……っ!」
血が出過ぎたせいなのか……死の恐怖で半ばパニック状態だった思考が、急にスッと落ち着いた。
ほっといたら私は死ぬ……死ぬ前に、何か勝つための糸口を掴まないと……!
「ガオオオオッ!!」
強烈な叫び声と共に、オオカミ魔獣が口を開けて突っ込んでくる!
「……『グロリアスロード』!」
魔法を唱え、一瞬だけ全力で走る!
飛び上がったオオカミ魔獣の足元をくぐって反対側へ回り、落としてしまった望遠鏡を拾い上げる。レンズがひび割れてしまったそれを、右脇に挟んで力を込める。多少の止血にはなるはず……!
「……モヒちゃん、血が足りなくて死んでも、生き返られる?」
『魔獣によるダメージだから大丈夫だモヒ。死ぬ前に少しでも一矢を報いておけモヒ』
「……上等!」
距離が離れたことで、また警戒の姿勢を見せるオオカミ魔獣を左手で牽制しながら、破裂しそうな脳をフル回転させる。
「モヒちゃん……あいつの『意識を飛ばす能力』……頭にオリハルコン巻いたら、防げる?」
『完璧ではないがある程度は防げるモヒ。具体的には、3秒以上目を見なければ意識を飛ばされないくらいまで抑えられるモヒ』
「3秒ルール……!?」
『しかし、オリハルコンを巻いたらお前の魔法も出力が落ちるモヒ。相手は能力が無くても、フィジカルもとんでもなく優れているモヒ』
「それでも……やれるだけのことはやっておきたいよ。失敗したらどうせ死ぬんだし、その前にやれるだけ、さ」
『まあ、せいぜい頑張れモヒ。亜空間ピピピピピでお前の帰還を待っているモヒ』
その激励だかなんだか分からない言葉に苦笑しながら、私は背後に手を伸ばした。背負っているザックの一番上に、さっきまで頭に被っていたオリハルコン箔がある。
「バカっぽいとか言ってごめんね……力を貸して、オリハルコン!」
オリハルコン箔を取り出し、頭に被る!
そしてこれみよがしに、相手の目を一瞬だけにらみつける!!
「グオオオオッ!!」
それを待っていたとばかりに、魔獣は私の目を睨みながら、こちらに向かって突っ込んでくる! だけど、私の意識は……飛ばない!!
「ぐぅぅぅっ! 危ないっ!」
左に飛び退いて、相手の突撃をかわす。オオカミ魔獣の爪が頬を掠め、背中にイヤな汗が流れる。
オオカミ魔獣は、私に突撃をかわされるとは思っていなかったのだろう……今なら、隙だらけだ!!
「『クリスタルランサー』!!」
私は左手を構え、破壊光線を放つ!
しかし、光線は太さも輝きも通常のものよりだいぶか細いものになり、しかも左手1本のみで構えたためか照準が定まらず、オオカミ魔獣の耳をかすめる程度に終わってしまった。
『クリスタルランサー』じゃダメだ……そうなると、私に残された攻撃手段は……
「『セレスティアルソード』!!」
私の左手に閃光の刃が生み出される……それはソードと呼ぶにはずいぶん心許ない、あえて呼ぶなら『セレスティアル包丁』くらいの代物だった。
見た目は弱そうだけど……今の私には、これしかない!!
「こ……来いっ、犬……犬っころ!!」
私は『セレスティアルソード』を解除し、オオカミ魔獣に精一杯の挑発を決める。
来い、などと勇ましく言ってはいるけど……実際のところは、こっちから仕掛けるのがほぼ不可能なレベルで、私が衰弱してきているだけだった。
魔獣を牽制しながら、足りない頭で必死に考える。この短い閃光の刃で切り結んでも、さすがに勝ち目がない。足を狙っても致命傷にならない以上、この長さでも当たればヤバい頭部や首を狙うしかない……!
(どうやって狙いを付ける……《《あれ》》でカウンターを仕掛けるしかないか……?)
視界がだんだん暗くなってきた。何度か魔獣の目をチラ見してやるが、飛びかかりを一度かわされたことで慎重になっているらしく、なかなか仕掛けてこない……!
「や……ヤバい……足にきてる……」
立っているのにも限界が来ていた……『セレスティアルソード』の維持を解除して、地面に片膝をつく。
その様子を見て、それまで引き気味だった魔獣が、牙を剥いて突進してきた!
「チャンスは一度……絶対決めてやる……!」




