第2話 魔法少女、走る
「それで……魔王を倒すって言ったけど、どうすればいいわけ?」
『お前から見て右方向に、山が見えるモヒ。あの山の向こうに、魔王が住む要塞、『タヌキソヴァ』があるモヒ』
「なにそのおいしそうな名前の要塞」
『まずはあの山のふもとを目指すモヒ。ふもとには街が栄えてるから、そこを拠点にするといいモヒ』
私は山の方角を見つめる。雲一つない空で、山があるのははっきりと見えるが、ふもとの辺りに栄えている街というのは、この丘の上からでもはっきりとは分からない。
「……ねぇ、めっちゃ遠くない?」
『お前の世界の尺度で距離を測ると、およそ100キロメートルくらいモヒ』
「遠すぎるんだけど!? うわぁ、歩いて何日かかるのよ!?」
『バカがモヒ』
遠慮のない罵声が脳内に響く。
神様だけあって、私に対して本当に遠慮がない。
『魔法少女としてお前が使える7つの魔法、ちゃんと教えたモヒ。少ない脳みそ働かせろモヒ』
「えっ、えーと……」
言われて私は、教えてもらった7つの魔法を思い出す。
1、破壊光線を飛ばす魔法、『クリスタルランサー』。
2、光の盾で身を守る魔法、『ライトシールド』。
3、閃光の剣を生み出す魔法、『セレスティアルソード』。
4、物質をすり抜ける魔法、『ホーリーワイプアウト』。
5、高いところへ跳び上がる魔法、『フラッシュジャンプ』。
6、嘘を嘘と見抜く魔法、『ライアージャッジメント』。
そして、7。
「めちゃくちゃ早く走る魔法! 『グロリアスロード』!」
魔法の力が発動する。
私の靴が光り輝き、私はバイクのような勢いで走り出した。
「うっひゃぁ〜〜〜っ!! 速い、速い!! マラソン選手みたい!!」
マラソン選手どころか、今の私はパパの車より速く走っている。時速何キロくらい出ているだろうか。
『お前の尺度で言うと、時速85キロ出てるモヒ。一時間と少し走れば街まで到着するモヒ』
「ひゃぁ、あははははっ! 楽しいぃ〜〜〜!!」
あまりに速く走れることに、私は不思議な興奮を覚えていた。私ってば、意外とスピード狂だったりするのだろうか。
『もう少し進めば街道が見えてくるモヒ。そしたら街道に沿って進めば、お前のようなアホでも街までは迷わず行けるモヒ』
「……なんだかモヒちゃん、私に対する当たりがキツくない?」
『我としては優しくしてるほうだと思うモヒ。本当に当たりがキツかったら、ここまであれこれ教えてやってないモヒ』
「んぐぐ……」
この異様にひねてて性格悪い妖精改め神様とは、うまくやっていかなければいけないのだけれど。
うまくやっていく自信がない……。
『止まれモヒ』
「えっ!? うぉっ、んぐぅおおおおおっ!?!?」
突然静止を促され、両足を思いっ切り踏ん張る。光り輝く靴がドギャギャギャギャッと音を立て地面をえぐり、急ブレーキがかかる。
「ほわっ、あっ……あぶな……。すっ転ぶとこだった!」
『気をつけろモヒ。魔獣以外の要因で死んだら蘇生できねえモヒ』
「モヒちゃんが急に止まれって言うからじゃん! で、何があったの?」
『街道の近くに魔獣がいるモヒ』
「!?」
魔獣。魔法少女が倒すべき存在。
最初、私は元いた世界に現れた魔獣を倒すために魔法少女になったわけだが、その初陣で敗北し、死んでしまって……今こんなところに来ているのだ。
再び、魔獣と戦う……緊張が走る。
またあっさり敗北して、残りの残機を使い果たしてしまったらどうしよう……という弱気な気持ちが、どうしても胸をよぎる。
『ビビってんのかモヒ。安心しろ、初陣の相手より弱い個体モヒ』
「び、ビビってなんかないよ! ……で、どんなやつ?」
私が元いた世界で対峙した魔獣は、見た目はオオカミに近いけど象ほどの大きさがある、迫力満点の魔獣だった。大きく開いた口に生え揃った牙はナイフのように長く鋭く、私のお腹をむしゃむしゃと引き裂いて……。
「うぅっ……」
思い出したら気持ち悪くなってきた。死ぬなんてホイホイ経験するもんじゃない。犬がトラウマになりそうだ。
犬型じゃありませんように……と思いながら、前方に向けて目を凝らすと。
「えっ、何あれ……ペンギン?」
そこにいたのは、漫画チックにデフォルメされた、ペンギンのぬいぐるみみたいな生き物だった。全体的にストンと丸いシルエットで、首が太くて短いため頭と胴体の境目がはっきりせず、鶏の卵みたいな形状になっている。少し遠いから分かりづらいけど、大きさはおそらく1メートルもないくらいか。短い2本の足でしっかりと立ち、ヒレのような手をパタパタしながら、よちよち歩きでこっちに歩いてきている。頭部の丸いつぶらな目と小さいクチバシがとってもラブリーだった。
「え〜、やだ、可愛いんですけど!?」
『アホがモヒ。さっさと魔法を使って倒せモヒ』
「え〜!? あんなに可愛いのに、倒しちゃうの!?」
ペンギン魔獣さんは、愛嬌を振り撒きながらこっちに歩いてくる。キュート過ぎる。頭なでなでしたい。ペットとして飼うとかできないだろうか。
のそのそと必死で歩いて、ようやく近づいてきた。頑張れペンギン魔獣さん、あともうちょっと……。
『あーもう攻撃間に合わねぇモヒ。跳んで回避しろモヒ』
「えっ?」
私が間の抜けた声をあげると同時、すぐ近くまで歩いてきたペンギン魔獣さんが、小さなクチバシをパカっと開いた。
「ド死ねやヴォケが〜☆」
クチバシから小さい女の子みたいな可愛い声で、任侠映画のチンピラみたいな台詞が聞こえてきた。




