表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/15

8キスの理由

「先生‥‥?」

先生の手が、私の耳に触れた。大きくて温かな手。触れているだけで安心する。

「‥‥‥。」

「ごめん。帰ろっか。」

そう言って先生は車椅子に誘導した。

「自分で、戻ります。」

「分かった。」

先生はポケットに手を入れながらどこかへ歩いて向かってしまった。

「うそ、でしょ‥‥。」

私は車椅子に座り、両手で顔を押さえた。

いま、頬にキスしたよね‥‥?

私はいてもたってもいられなかった。



「空音ー!」

「え、あ!やっほー!」

病室に戻っている途中、怪我で入院している古都波ちゃんに会った。

「ねー今からそっち行ってもいい?」

「いいよー!」

最近、古都波ちゃんは車椅子から松葉杖になった。怪我が回復している証拠だ。

「何してたの?」

「ちょっと、病院内の散歩を‥‥。」

「ふーん。なるほどねー。それ、ほんと?」

私はビクッとした。本当に古都波の言う通りだった。

「本当だよ!何で?」

もうここは嘘をつくしかない。

「うっそだー!私、見ちゃったんだよねー!」

「なにを‥‥?」

「まぁ、まぁ!部屋に戻ったら話すって!」

古都波は歩く足を早めた。私も彼女を追いかけるように車椅子を押した。


ガチャ


「ふー!疲れたー!部屋マジで変わんないねー。」

私はの部屋は派手にデコレーションしていた。完全なる私の趣味だが。

「あのさー!二人って、両思いなの?!」

「‥‥は?!」

「いやいやー!とぼけんなって!さっき、ハグしてたじゃん!あさくらと!」

私は全ての終わりを悟った。やはり、見られていたか。人の気配はなかったとはいえ、絶対に人はいるなと思ってた。どうする?どう言い訳する?

「ほんとに申し訳ないんだけどこっそり見てたんだよねー!で、どうなの?!」

「どうって。私のことキモイと思ったり誰かにチクッたりしないの?」

「え?何言ってんの?そんなめんどいことするわけないじゃーん!」

「え?なんで?」

「だって、ドッキドキじゃん!私が特等席で二人を見てやるんだからね!」

古都波ちゃんはニコッと笑って私の脇をくすぐってきた。

「やめて!やめてー!やめろってば!」

「あっはっはっは!ほんっとに弱すぎ〜!」

「このやろ!」

「やめろやめろやめろマジでやめろ!」

私と古都波ちゃんは短い付き合いではあるが、深い関係であった。陽気な彼女は居心地も良く、話しやすかった。


コンコンコン


「そらねー‥‥っと来客か。また来るね。」


ガチャン


運悪く、張本人が来てしまった。

「しかも名前呼び?!どんだけだよ!」

「しぃー!声がでかい!」

私は古都覇ちゃんを宥めるようにした。しばらくして彼女は落ち着きを取り戻した。

「詳しく聞かせてよ!偽りなしで!」

「えー。うん、分かった。まず、頭ポンポンされた時から気になってて、それで‥‥」

「うっひょー!それもうチューじゃん!」

「それで私金槌で殴られたみたいな感覚になっちゃってさー。余命の前に死ぬんじゃないかってね。」

「いやいや。まぁ、それは好きになるわね。朝倉って顔も身長も最高だし。それに医者だし。空音は見る目があるねー。」

古都波ちゃんはいつまでも私をからかった。


コンコンコン


「空音ちゃーん。夕食の時間ですよー。」

「もうこんな時間か。また来るねー!」

「う、うん!またね!」

古都波ちゃんは部屋を出て行った。と同時に夕食が目の前に運ばれてきた。

「お友達?」

「怪我で入院してる古都波ちゃんです。」

「へー。仲良いんだね。」

「ま、まぁ。ありがとうございます。」

「はーい。」


ガチャ


「いただきます。」

今日は二身揚げ。白米との相性が良くてとっても美味しい。


カランコロン


「はぁ。」

ご飯を食べれるようになったとはいえ、まだ車椅子生活なため全身に力は入らない。

「よいしょ。いった。」

箸を取ろうとした衝撃でベッドから転げ落ちてしまった。目先にある箸を見てなんて情けないんだと思った。


コンコンコン


「白夜さ‥‥空音?!」

「せん、せい。」

先生は私の肩を持って体を起こした。

「大丈夫か?」

「はい、すみ、ません。ゔぅ、ゔぅ、」

「これに吐いて。」

「おえっ‥‥!はぁ、はぁ、はぁ。」

私は気持ち悪さに耐えきれず、先生の前で嘔吐してしまった。



「ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。」

「空音は悪くないよ。体調大丈夫?ゼリー持ってこよっか?」

「いや、もう、食べれません。」

「分かった。それじゃ、戻るね。また何かあったら呼んで。」

先生は立ち上がって部屋の扉を開けようとした。

「‥‥先生!」

先生は顔だけこちらに向けた。

「ん?」

「あ、あの、しばらく、いてくれませんか?」

先生は少しだけ目を見開いた。

「あ、あぁ。」

そう言って開けかけた扉を閉めた。

「どしたの?どこか具合悪い?」

「いや、そういうわけじゃなくて、ただ一緒にいたいだけなので。」

先生は腕組みをしてニヤニヤしながら私を見た。

「‥‥何ですか?」

「いや、何でも?それよりも、呼び止めたなら何か話してよ。」

先生はパイプ椅子を私に近づけた。

「えぇ、はなし?じゃあ何でさっき、キス、しようとしたんですか?」

「‥‥あ、あぁあれか。うん、そのままの意味だよ。」

私は思わず驚いた。あの行動がそのままの意味?信じられないんだけど。それって、もう‥‥

「好き?ってことですか?」

「うん。好き。」

かぁぁぁぉ!!私は顔を伏せてしまった。そんな顔で好きなんて言ったら、私は、死んじゃうよ。

「何で俯いちゃうの?」

そう言いながら先生は私の顔を持ち上げるように起こした。

「あっはっはっは!顔真っ赤じゃないか!」

「当たり前ですよ。」

先生は笑う顔を止めて、私を見つめた。

そして、手を頭の後ろに回して互いの顔を近づけた。

「もう、好きって言ったならこれもいいよな?」

「‥‥。」


プルルルルル


「あ、電話だ。もしもし?今行きます。ごめん、呼ばれたから行ってくるね。」

「あ、行ってらっしゃい。」

「うん。いってきます。」

「え。」

先生は私の頬にキスをしてから部屋を出た。純白の白衣をちらつかせながら。

私は部屋の鏡で顔を確認した。

そこには、明太子のような顔があった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ