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2花火の約束

ピーピー、ピー


私は小鳥の鳴き声で目を覚ました。病室の窓を閉めているのにも関わらず、小鳥の声が聞こえる。小鳥は私なんかよりも生命力があるんだな。

私は体を起こした。毎朝思う、痩せ細った骨組みだけが浮き彫りになっている足を見て、私は病気なんだと。

ベッドのそばに置いてあるスリッパを履いて窓の方に向かった。


ガラガラガラ


片手で窓を押さえながら片手で窓を開けた。

「すぅ〜‥‥はぁ〜‥。」

私は目を瞑りながら空に向かって深呼吸をした。気持ちのいい朝が私を向かい入れてくれた気がした。

私の病室は棟の一番端っこにある。右隣にはあまり話したことのない老婆が一人いる。

左隣には誰もおらず、宮古島の街が鮮明に映し出されていた。

宮古島には、約53000人の人口が住んでいる。例えば、関東地方に位置する東京都に比べると、264倍もの差がある。私はこの情報を知った瞬間、驚きを隠せなかった。

私は窓際に手をついたまま、空を見上げた。鳥が一匹、二匹、三匹。仲良く大きな羽を広げて飛んでいた。それに加えて、目を背けたくなるくらいの太陽が街全体を照らしていた。

視線を空から街に移した。

制服を見に纏って自転車で登校する生徒。

大きなキャリーケースを待って急いで歩いているスーツの人。

どこか見覚えのある顔の人が街を埋め尽くしていた。たったの53000人ならば、一人一回は顔を見たことあるはずだ。

私は近くのパイプ椅子に腰掛けて、リモコンを手に取りテレビの画面をつけた。

『一ヶ月後に宮古島祭が始まりますね。』

テレビキャスターの女性が言ったこの一言に、私の心はギュッと狭くなった気がした。

私は急いで立ち上がり、カレンダーを見た。

「ほんとだ‥‥。」

過去の私が、特定の日付に丸をつけていたのだ。それに加えて、『宮古島祭』と大きく書かれていた。相変わらず汚い字だなと思う。

『宮古島祭』これは、宮古島内で開催される大規模なお祭りである。町内の職員が一ヶ月前から準備を初める。主な行事は、綿飴やチョコバナナが提供される出店、花火、神輿などといった定番的なお祭りだ。

その中でもトリを飾るのは、花火だ。

島外から何十人もの花火職人が集まり、暗闇に染まった宮古島の島を色鮮やかに彩る。私は毎年友達の葉那と見に行っていた。ある年からは入院が続き、行かなくなっていた。

私は宮古島祭の特集をテレビで見ていた。いつもは先生がどのタイミングで来るのか、と気になっていたが、今はテレビの方が気になる。


コンコンコン


私は病室の扉が叩かれたのに気づかなかった。

「おはよう。白夜さん?おはよう。」

『今年の宮古島祭は、一味違います!』

「‥‥!」

今年の宮古島祭は5000発の花火が打ち上がるらしい。5000発‥‥想像がつかないな。

「すげぇな。」

「え?!」

私は、真後ろにいた先生に気づかなかった。突然の先生の呟きに私は居ても立っても居られなかった。

「いつからいたんですか?!」

先生は腕を組みながらテレビを見ていた。目線を上に向ければ、先生がいた。

「5000発ってすごいな〜。去年は雨で中止になったから今年は見たいな。」

その先生は、いつもとは少し違った雰囲気だった。仕事に集中して聴診器を私の胸に当たる時とはまるで人が違かった。

「こっち、座ります?」

私は先生に隣のパイプ椅子を勧めた。ただ隣にいればいい。それだけ。

先生は分かっていたように隣に座った。少し距離が近くなったら先生の横顔は、本当にかっこよかった。

鼻が高くて顎もしっかり出ていて。おまけに二重目がぱっちりと出来ていた。

不思議なことに、先生はいつも看護師さんと一緒なのに今日は一人で部屋にやってきた。大きな重機と一緒にやってくる佐野さん。私はテレビよりもそちらの方が気になってしまった。

先生に聞こうとも思ったが、先生は子供のようにテレビを見つめていた。そんなに花火が気になるのかな?

「先生、花火好きなんですか?」

「まぁまぁかな。」

「そうですか。私は、大好きです。」

「ふ〜ん。」

先生は相槌を打つだけで再びテレビを見た。先生がテレビを診始めて10分が経とうとしている。

早く診察してよ、なんて、思うわけなかった。先生が隣に座って、一緒にテレビを見るという今の環境が、幸せで仕方なかった。

大きな幸せが、私の心を満たしてくれた。

一生このままでいい。このまま時間が止まれば、ずっと幸せでいられるのに。


コンコンコン


「すみませんっ!遅れました。」

二人でテレビを見ていると、少し焦った様子の佐野さんがやってきた。

「先生何してらっしゃるんですか?」

先生は佐野さんの声に気づいたのか、急いで立ち上がった。

「あーすみません。」

先生は立ち上がりながら佐野さんの疑問を回収し、佐野さんと会話を始めた。

「これもお願いします。」

「了解です。」

二人は、治療のことを話していた。全ての会話が医療用語で成り立っていたため、私は理解することどころか、耳を傾けることすら難しかった。

私は二人が話している間に、立ち上がりベッドに移動した。毎朝の診察は、私が毎晩寝ているベッドの上で行われる。

私がベッドに座ったタイミングで、先生が近くのパイプ椅子を持ってきて目の前に座った。

その顔つきは、やはりさっきとは全く違っていた。同じ人間なはずなのに、雰囲気が対照的だった。

「それじゃ、心音聞くね。」

先生は自分の耳に聴診器をつけて私の心臓の音を聞いた。


トクン、トクン


心臓の音はいつもと変わらなかった。平常に、静かに音を鳴らして生きていた。

「うわっ。」

私は思わず声を上げた。それは、病室に厳しい眩しさの太陽が部屋をいっぱいにしたからだ。

明るい日差しが私たちを思いっきり照らした。私は手で顔を覆いながら太陽から顔を守った。

微妙に太陽に照らされている先生は、相変わらず綺麗な顔をしていた。

「う〜ん。」

なんだか、いつもより長く聴診器を当てている気がした。いつもだったら数十秒で終わってしまうのに。

私は、少しだけ焦りを覚えた。

何でこんなに長いの?早く終わらないの?

何かがいつもと違った。

そんな中でも、太陽は容赦なく私たちを照らし続けた。こんなに元気な光を当てられるのは、きっと太陽だけだ。

私は聴診器を使って私の心音を聞いている先生の手を見た。大きくて、包み込んでくれそうな手をしていた。

そして一言、先生が呟いた。

「白夜さん、もうちょっと詳しく検査しよっか。」

「検査?」

「うん。少し心音に雑音が混ざってるの。大丈夫。すぐ終わるからね。」

「‥‥分かりました。」

私は、怖くて怖くてたまらなかった。いつものように診察を終えて、いつものように食事をして、いつものように中庭に座って。今日も変わり映えのない日を過ごすのかと思っていた。

「一緒についてるから大丈夫だよ。」

佐野さんが、私の肩に手を置いた。私は、下を向いて怯えていたからだ。自分の肩が震えているのが分かっていた。

「あの、検査って、どのくらいで終わりますか。」

「20分くらいで終わるよ。」

先生は優しい声で教えてくれた。

こんなにも優しくしてくれるのに、怖さが軽減することはなかった。佐野さんの声も、先生の声も、鳥の鳴き声も、みんな優しい。

でも、たかが声だ。

声なんかで病気に対する恐怖は変わらない。

「私、車椅子持ってきます。」

佐野さんはそう言って部屋を出た。

「白夜さん。怖いのは分かるけど、すぐに終わるから。大丈夫大丈夫。」

「そんなこと言ったって、何も変わりません。今は先生の声を聞くだけで、恐怖が増していくだけです。」

私は発言した直後、随分と言いすぎてしまったと思った。

でも、もう引くことは出来なくなってしまった。

私は下を向いたまま、何も言わなかった。目の前にいる先生のことなんて、絶対に見れなかった。

先生は今、どんな顔をしているのだろう。

「分かったよ。」

先生は一言それだけ。これ以上に、喋ることはなかった。

先生は立ち上がり、何かを準備し始めた。


ガラガラガラ


病室の扉が開いたことにより、部屋の空気が少し軽くなった気がした。

「空音ちゃん、ここに座って。」

佐野さんが私に車椅子を持ってきてくれた。

「ありがとうございます。」

私はお礼を言って、車椅子に座った。佐野さんの表情は見ることはなかった。座ったら、前しか見えなくなる。車椅子を押してくれる人の顔は、一切見えない。

「それじゃ、行きますよー。」

佐野さんの声が、耳にしっかりと行き届いた。

何となくだが、後ろには先生も一緒にいる。そりゃあそうだ。先生は、私の担当医なんだから。


ガタン


車椅子が動き出して、部屋の入り口に向かって直進していった。


ガラガラガラ


「今日は暑いね〜。」

佐野さんが一人で話し始めた。これは、独り言?それとも、私や先生に対する応答待ち?

「そうですね。」

私はとりあえず、返答してみた。これが彼女の求めていた答えとマッチするかは分からないが、とりあえずだな。

病院内はすでに話し声で溢れていた。

私がいる4階の大広場では、多くの老人が看護師と話をしていた。

顔にたくさんのシワを作ってみな、大きく笑っていた。

「おーい!」

誰かの声が特に大きく響いていた。誰かを呼ぶ声だろう。私はただ大きな声だな、と思いながら前を見ていた。

すると、佐野さんが車椅子を押すのを辞めた。私は不思議に思い後ろを振り返ると、派手な杖をついたお爺さんがいた。その人は、どこかで見たことがあった。

「君だよ君!」

私のことを指差しながら歩いてきた。

「あの‥‥どちらさ‥」

「山おじちゃんだ!覚えておるかい?」

「‥‥あぁ!山おじちゃん!」

かつて、この階で会った入院している山おじちゃん。

私はなぜかこの人に話しかけられたのだ。特に前々から知り合いと言うわけでもないのに。

「どうしたんだい?」

山おじちゃんは歳を召しているはずなのに、驚くほど元気なのだ。

「今から、検査に行くんです。」

山おじちゃんは視線を私の方から先生や佐野さんの方に向けた。

「あ、あぁそうか。頑張るんじゃぞ!」

私は山おじちゃんに向かって小さく頷いた。

そのまま車椅子は山おじちゃんの横を通り過ぎていった。

私は山おじちゃんの方を見るために振り返った。

すると、山おじちゃんは少しだけ微笑んでシワが溜まった手をゆっくりと上げて手を振ってきた。その手は遠目から見ても震えているのが分かった。

「空音ちゃん、知り合い?」

「知り合いというか、この間話しかけられて。」

「あの方いい人だよね〜。」

私は佐野さんに、そうですね、と答えた。

対して、先生はいるのかってくらい静かであった。

しばらく車椅子を押してもらい、私たちはエレベーターに乗り込んだ。


ピー


佐野さんは一階のボタンを押した。

エレベーター内は、3人だけの空間となった。誰も喋ろうとしなかった。無言の状態が続き、気まずすぎる環境となった。私は、早く一階に着け!とだけ思った。


ピー


『一階です』

エレベータの音声が響き、私は少しだけ安堵した。

「よいしょっ!」

先生が先に降りてエレベーターの扉を押さえておいてくれた。

「ありがとうございます。」

佐野さんがお礼したのに続いて、私もコクリと頷いた。先生はニコッと優しく微笑んだ。綺麗な歯が合間見えた。

「第三CT室でよろしいですか?」

「あぁ。」

私はどうやら、第三CT室に行くようだ。今となり、急激な緊張感に襲われた。いつもの毎朝とは違う、ということが私の命取りになる。

「ちょっとここで待っててね。」

佐野さんは車椅子の安全装置を作動させてから部屋の中に入ってしまった。先生もそれに続き部屋に入った。私はCT室の前で一人になってしまった。

部屋の少し前には診療待ちの人が座っていた。少数だったが、恥ずかしかった。

とりあえず私は周りをキョロキョロと見渡した。何か気が紛れるものはないか。例えそんなものがあったとしても恥ずかしいのは変わらないけど。


ガラガラ


「あはようございまーす。」

耳鼻咽喉科から、一人の医師が出てきた。彼もまた、先生のように首に長身気をつけていた。身長が高くて驚いた。

私はその医師に視線をやっていると、医師がトコトコとペンギン歩きのようにしながらこちらにやってきた。

「君、こんなところでどうしたの?」

「え?あ、あぁ、ええと‥‥」

私は咄嗟に言葉が出なかった。急に見知らぬ医師から声をかけられて、咄嗟に言葉が出る方がおかしいと思う。

「あ!もしかして置いてかれちゃったの?!」

はぁ?そんなんじゃないし。ただの検査だし。何なのこの人は?ちょっと失礼なんじゃない?

「そんなんじゃないです。今から検査をするんです。」

「そうなんだ〜。俺暇だから一緒にいよっか?こんなところで一人の方がいやでしょ?」

「あ、そんなことは‥‥」

「も〜う!そんなこといいから!ここにいるねー。」

「え、あ!ちょっと!」

その医師は、私の車椅子の安全装置を外して近くのソファまで動かした。

そして、彼はソファに座った。

「あ、俺、小林悠仁。耳鼻咽喉科で働いてるんだー!君の名前は?」

「私は、白夜空音です。」

「白夜そらね、いい名前つけてもらったねー!白夜なんて珍しいね!そらねって言う漢字はどうやって書くの?」

「青空の空に、音色の音です。」

小林先生は大きな声で、かわいい〜!と叫んだ。そのせいで、余計に視線を集めてしまった。この人と一緒にいるくらいなら、一人で恥ずかしがった方がマシだと思う。

「小林先生のゆうじん?どんな漢字何ですか?」

「えっとね、こう書くの。」

彼は私の手を握り、私の手のひらで漢字を描き始めた。

その瞬間、不甲斐にもドキリとしてしまった。

「へぇ〜!素敵な漢字ですね。どんな意味があるんですか?」

「あぁ〜何だっけなー。悠仁の悠は、『広い心』って意味で、悠仁の仁は、『人を思いやる』って意味。二つ合わせて『包容力があり、人を大切にする人物』って意味。って、なんか恥ずかしいな。」

「いえ、とっても素敵なお名前ですね。」

お世辞なしにも、本当に素敵な由来だと思った。初対面で話して、こんなにも会話が続いて楽しいと思えるのは、彼が初めてだと思う。


ガラガラガラ


「白夜さん準備できましたよ‥‥って、悠仁くん?」

部屋から佐野さんがやってきた。その瞬間、佐野さんの頬が少しだけ赤くなっていたのを、私は見逃さなかった。

「あ!佐野ちゃん!久しぶりだねー!」

小林先生は立ち上がった。

気づかなかった。そういえばこの人、身長高いんだった。

私を置いてけぼりにしつつ、二人は仲良く話し始めた。

「最近会わないからどこに行ったの?って思ったよ!変わらず循環器内?」

「うん、そうなの。悠仁くんも、変わらずあそこ?」

「あそこ。イかれた患者が多くてもう、大変。」

「耳鼻咽喉大変って噂聞くもーん!」

こんな佐野さん見たことない。声が少し高くなっていた。小林先生は、両手を白衣に突っ込んでいた。

「あ、空音ちゃんごめんね。じゃあ、悠仁くんまたね!」

佐野さんは車椅子を押しながら部屋に行こうとした。私は小林先生の方を見ると、手を振っていた。

「空音ちゃんまたねー!」

「また。」

私も小林先生につられて手を振り返した。


ガラガラガラ


「すみません、遅れました。」

「どうやら楽しそうな声がしたんだが。」

「小林先生と話してました。」

「悠仁と?」

「はい。」

先生は、小林先生の下の名前を知っていた。私は驚きながら先生の顔を見上げた。

「どうした?」

先生は少し怒ったような表情をしていた。

「‥‥いや、何でもないです。」

私はそう返答するしかできなかった。先生はなぜか、耳鼻咽喉科に勤めている小林先生のことを知っていた。そして、佐野さんも小林先生と知り合いのようだった。

小林悠仁先生。二人とどんな関係なんだろう。

私がぼーっと考えていると、佐野さんが目線を合わせて話しかけてきた。

「それじゃあ、画像撮るからここに寝転がってね。」

私の体は、いつの間にかCT台の目の前にいた。考え事をしてまうと周りが見えなくなってしまうとは、まさにこのことだ。

「分かりました。」

私は軽くなった身体を持ち上げて、CT台に乗った。私は、この検査が大っ嫌いだ。なぜかって?寝心地の悪さがピカイチだからだ。

しかし、検査はしなくてはいけない。生死に関わる診断が出るかもしれないからね。

私はCT台に寝転がり、ただひたすら天井を見つめていた。

「そのまま動かないでいてね。」

私は佐野さんに向かって頷いた。


ガチャン


佐野さんは部屋を出ていってしまった。

CT室は、私一人となってしまった。先生と佐野さんは向かいの部屋にいるはずだ。


ピーーー


少しずつ台が動き出した。この検査はつまらない。長くてただ寝転がっているだけだから。こんなことするなら別のことをしたい。

今の私には、したいことの欲で溢れていた。

早く中庭のいつものベンチに座って漫画を描きたい。

早くご飯を食べたい。

早くお父さんに会いたい。

数々の欲求のせいで、私の心はいつまで経っても満たされないのだ。

病気が治らない限り、全てが完璧でも満たされることはないだろう。

天井が隠れたら、もっとつまらなかった。変なドーナツ状に身を置いて、低所恐怖症の私にとっては最悪な検査だった。


ピーーー


再び謎な音がした。

台全体が、反対方向にゆっくりと進んだのだ。

これにて、検査が終わりか、と安堵した。徐々に視界に天井が映し出された。ここの病院の天井は、やはりなぜか安心する。


ガチャン


その瞬間に、佐野さんが部屋に入ってきた。

「お疲れ様ー。起き上がっていいよ。」

私は自分の身体を起こした。そして一度、背伸びをした。

「うわぁ〜!疲れた。」

「疲れるよね。今検査結果出してるから先に病室戻ろっか。」

「分かりました。」

私は再び車椅子に座った。

佐野さんは車椅子を押し始めた。CT室の扉を開けてCT室を後にした。

別室には先生がいた。検査結果と睨めっこをしていた。

「先生?白夜さん先に病室行かせちゃいますね。」

「あぁ、分かった。」

こちらはチラッと見た後、先生はパンを使って何かメモを書き始めた。

「動きまーす。」

先生のことを見ていると、車椅子が動き出して部屋を出た。


ガチャン


検査結果に何か異常があったらどうしよう。私は病室に戻っている途中に謎の恐怖感に襲われた。

私は恐怖を紛らわすために佐野さんに話をふっかけた。

「佐野さんは、小林先生とお知り合いなんですか?」別に特別気になってわけではない。私の中の恐怖心を消し飛ばすために聞いたまでだ。

「そうだよ。私が研修医時代の時に知り合いになったの。もともと小林先生、朝倉先生、私が同期で一緒に研修したんだ。」

佐野さんはゆっくりと話しながら車椅子を押した。


ピンポーン


「私と小林先生は元々同じ学校で授業とか受けてたの。そこにここの現場で朝倉先生が加わって、よく3人で飲みに行ってたりしてたんだー。もうマブたちくらいの仲なんだよ。」

「そうだったんですねー。」

私は自分で聞いたのにも関わらず、あっさりとした返答しかできなかった。

どんなに話をふっかけようが、どんなに話の話題を考えようが、恐怖がなくなることはなかった。

20歳までしか生きられないと言われたとき、私は14歳であった。あと6年もの猶予があるじゃないか、と思った。

しかし、改めて感じる回復のなさ。ここ一年、回復した瞬間が一度でもあれば、私は生きる希望を捨てなかった。でも、そんな瞬間が感じられることはなかった。

生きたいと思う方が間違った理論なのかもしれない。そう思うようになってきた。

多数が生きたいと思っているから自分も生きたいと思うのかもしれない。多数の人が死にたいと思えば、自分も死にたくなる。多くの人はそれを決めれる権利を持っている。ほぼ義務に近い。

しかし、ごく一部の人間には、そんな権利すら与えられない人がいる。それが余命宣告を受けている人だ。

最初から生きる希望なんて与えられないのだ。それは誰が決めるとかじゃない。運なのだ。

私は生きたいなんて強く思ったことない。早く死んで生まれ変わりたいと思う。

でも、最近は変わったのだ。

病気だろうが何だろうが関係ない。

私は、少しの希望に賭けてみようと思う。

少しでも長く、生きたいのだ。


ピンポーン


「少し揺れまーす。」

考え事をしている間に4階に着いた。

「お父さんに連絡して来てもらうことになったから。」

佐野さんの一言に、私は硬直してしまった。

父親が、来る?忙しくてろくに寝れていない父親が私のところまで来る?

私は理解できなかった。

「お父さん、来れるって言ってました?」

「うん。30分で行きますって言ってたよ。」

私はさらに驚いた。

看護師として働いていて日々多忙な生活を送っている父親が、たった一人の娘のために30分で来るなんて。私には不可能としか思えなかった。


ガラガラガラ


「じゃあ、お父さん来るまでここで待ってて。先生も一緒に来ると思うから。」

私はコクリと頷いた。


ガチャン


再び、一人になった。

佐野さんは何も持たずに部屋を出た。

本当に父親が来るの?私は疑いながらも車椅子から降りた。そして、机の上に無造作に散らかる漫画たちを見た。

「‥‥やばいやばいやばい!」

私は急いで漫画を本棚にしまった。


ガタンゴトン!


「よいしょっ!よし‥‥。」

私は綺麗になった部屋を見て安堵した。これで父親が来ても大丈夫だ。

なぜこんなにも私が部屋を綺麗にするのか。それは、父親が過度な潔癖症だからだ。看護師として働いている父親は、常に部屋が綺麗でないと落ち着かないのだ。もし私の病室が汚くなっていたら、強く怒るのだ。たかが少し汚れていただけでもだ。

その説教を聞くのがめんどくさくて私はいつも部屋を綺麗に保っているのだ。よく先生にも言われるし。

私はソファに座り、一息ついた。あとどれくらいで父親は来るのだろうか。

父親が来るまでの暇つぶしに、私は学校から支給されたタブレットを開いた。

Safariを開くと、検索欄は全て宮古島祭についてだった。

キーボードを出して調べる必要もなく、躊躇することなく宮古島祭について調べた。

「おぉ‥‥すっご。」

宮古島祭の公式ホームページにとんでみると、一昨年の花火大会の様子が記載されていた。

そこには、真っ暗な夜空に広がる大きな花火が咲いていた。まるで花のように。咲き乱れる花火は画面越しでも心奪われた。

私は突然にして、行ってみたいという気持ちが強くなった。

誰と行きたい?それはもちろん‥‥

「は〜くやさん。何してんの?」

「うわっ!ビックリした。」

「えへへ、気づかなかったの?」

「てか、部屋入る時くらいノックしてくださいよ!」

「俺、ノックしたよ?入るよーとも言ったし。」

あれ?私が聞いてなかっただけ?

「すみません。私が聞いてなかっただけかも。」

すると、先生は大きな声で笑った。その笑顔に、少し心が軽くなった気がした。

「あっはっはっ!君は何かに集中すると、周りが見えなくなってしまうよね。いいことだね〜。てか、何見てたの?」

先生は隣に腰掛けてきた。私はドキリとしながらも、タブレットの画面を見せた。

「宮古島祭のことを、調べてました。さっき、テレビで見たやつです。」

「あぁ〜!宮古島祭ね!行きたいの?」

先生は足を組み、さらには腕組みをしてこちらを見据えた。大きな二重瞼がこちらを見つめている。その瞳はウソをつかないだろう。私は思わず目を逸らした。

「別に、行きたくても行けないですし。」

何でいつも、こんな言葉しか出ないんだろう。もっと明るく答えればいいのに。暗く答える必要なんてないのに。私は人に対して明るく振る舞えない。そのせいで、友達もほとんどいない。バカみたいだ。

しかし、先生は違った。私の発言に対して、必死に考えてくれた。

「実は、あとでお父さんの前で言おうと思ってたんだが、心音に雑音が混じってて二週間外出禁止になったんだ。」

「え?」

「これは仕方ないことなの。分かってほしい。二週間後なら祭りはやっているはず。だから、外出禁止が解除されたら行こう。」

やっぱり先生は、私の中で大切な存在の人だ。

「本当ですか?!一ヶ月後なら、まだ夏祭りやってます!!」

私は少し食い気味になってしまった。宮古島祭に行けるなんて、こんないい機会もう二度とこないだろう。

「すごい食いつきだね〜。よし、分かった!相談してみるね。」

私は先生の思わぬ回答に、立ち上がってしまった。

「ありがとうございます!お願いします!」

何度も何度もお辞儀をした。

先生の方を見るたびに、先生は笑顔を浮かべていた。

「大丈夫だよ。座りな。」

「あ、すみません。」

私は再びソファに座った。すると、いきなり先生は距離を縮めて来た。

「空音は誰と行きたいとかあるの?」

「へ‥‥?」


キィ


先生の顔が、すぐ近くにあった。これは、どういう状況だ?先生の顔が、近すぎる。

ソファの軋む音が余計に私をドキリとさせた。

「そ、それは‥‥」

「ん?」

先生です。

なんて、言えるわけない。離れることのない先生の顔。私はきっと、顔が真っ赤だと思う。


コンコンコン


「失礼しますっ!空音?!」

その瞬間、父親が泣きながら病室に入って来た。佐野さんも一緒に入って来た。

それと同時に、先生が一気に距離を離した。

「あ、お父様。わざわざすみません。」

「いえいえ、それで、空音は?!」

「落ち着いてください。まず、こちらにお座りください。」

先生は次第に父親と同じ目線に立った。

「あ、すみませんね。」

先生は私の隣父親を座らせた。こんな父親、恥ずかしい。たかが検査を受けたくらいでこんな焦っちゃって。とことんお馬鹿さんなんだな。

そして先生は、私たちとは向かいのソファに座った。

まるで魔法のように飛び出た資料とともに。きっと私の部屋に来る時に持って来たのだろう。

「わざわざ足を運んでいただきありがとうございます。」

「いえいえ。仕事に行く途中だったので。」

「そうでしたか。」

先生と父親は、少し世間話をした。私はただ、それを見つめていた。

さっきまで先生の顔は、私の目の前にあった。かなり近い距離に。それなのに今は、真剣に医者をやっているのだ。ほんと、多重人格だよね。

「先ほど、白夜さんの身体検査を行った結果、心音に多少の雑音が混ざっていまして。おそらく、薬による副作用と考えられます。このままでは悪化のスピードが早まってしまうので、二週間外出禁止にしようと判断いたしました。」

先生の説明は、簡潔かつ核心をついていた。誰が聞いても分かるはずだ。

バカな私でも分かるのだから。

「そうですか。どうもありがとうございます。」

父親は小さくお辞儀をした。それに続いて私も先生もお辞儀をした。

「わざわざ教えてくださり、ありがとうございます。それでは、私は仕事があるので。」

父親は意外とあっさりしていた。

看護師という職は朝だろうが夜だろうが呼ばれたら行かなくてはならないのだ。

「分かりました。また何かありましたらご連絡させていただきます。」

先生は部屋を出て行こうとする父親に続くように着いていった。

「それじゃあ父さん仕事行ってくるね!ゆっくり休んでろよ!」

父親は笑顔でこちらに手を振った。その手は大きく、ガッチリとしていた。

「いってらっしゃい。」

私もそんな父親に対して手を振り返した。


ガチャン


薄々気づいていたが、多分、父親は泣いた。目を擦った跡が派手に残っていたからだ。

父親が去った病室は、私と先生と佐野さんの三人になった。

「朝ごはん持ってくるね!」

佐野さんは思い出したように言った。そして、小走りで病室を出た。


プルルルル!


すると、病室に先生のスマホの着信音が響いた。先生は光の如くスマホを取り、電話をかけた。

「はい朝倉です。はい、はい。分かりました。」

先生は耳からスマホを離した。誰からの連絡だろう?きっと仕事が入ったのだろう。

「それじゃ、さっき言った通り、外への外出は控えるように!この階での移動はオッケーだから。」

「分かりました。」

私が相槌を打つ頃には、先生は病室の扉まで行っていた。


ガチャン


先生はあっという間に部屋を出た。私は一人になり、再びソファに腰掛けた。

「はぁ。」

そして、首と背中を背もたれに預けて天井を見上げた。


『空音は誰と行きたいとかあるの?』


先生の言葉と顔を思い出し、手を思いっきり顔に当てた。

「そんなの、言えるわけないじゃないですか‥‥。」

先生の顔が、ものすっごく近くにあった。それに加えて、誰と行きたいなんて。先生の‥‥バカ‥。


コンコンコン


「朝ごはん持ってきましたよー。」

私は扉のノック音を聞いて、すぐに姿勢を元に戻した。外からは、おぼんに食事を乗せた佐野さんがやって来た。

「あ、ありがとうございます。」

「いえいえ。今日はこっちで食べるの?」

私がソファに座っているからだ。普段はベッドの上で食事を摂っているからこんな質問をしてきたんだ。

「はい。気分転換にこっちで食べようかと。」

「そっか。」

佐野さんはおぼんの食事を丁寧に机に並べてくれた。

今日の朝ごはんは、海老のパプリカのピラフメニューだ。

「はい召し上がれ。」

私は佐野さんに向かってゆっくりと軽くお辞儀をした。

「食べ終わったらそのままにしておいてねー。」

「はーい。」

うん。これでいい。ご飯を食べて検査を受けて漫画を書く。それだけで十分なのだ。

私は自分の目の前にタブレットを設置した。

「いただきます。」

私は、タブレットを見ながらご飯を食べ始めた。

そのままにしてあった宮古島祭のホームページに目を通した。

タブレットには、変わらず大きな花火が咲いていた。

「先生と、行きたいんです‥‥。」

ぽろっと一言、叶うはずのないことを言った。さっきの質問、先生はどんな意図で聞いたのだろう。

私は疑問に思いながら、スプーンを手にして再びご飯を口に運んだ。



朝食を食べ終えて、私は手と手を合わせた。

「ごちそうさまでした。」

一人でご飯を食べるとなっても、いただきますとごちそうさまは欠かさなかった。食事があるということは作る人がいるということ。そんな人に感謝を込めるのが礼儀だからだ。

私は立ち上がり、引き出しから描き途中の漫画を取り出した。この引き出しは何があっても私以外開けてはいけないのだ。

漫画とペンを手にした。そして、点滴を押しながら部屋の出口に向かった。


ガラガラガラ、ガチャン


少しずつだが、4階の大広場に向かって歩き出した。

朝食の時間が終わったばかりであったため、人の気配はなかった。きっと私が一番乗りなんだろう。

「おはようございまーす。」

通りすがりの看護師に挨拶をされた。私は小さくゆっくりとお辞儀をした。

私の病室は階の一番奥にあるため、大広場まで少し離れている。

大広場が目に映った瞬間、少しだけ嬉しくなる。

私は大きな窓がある椅子に向かった。ここは、窓が吹き抜けになっており、宮古島の街が一望できる。私のお気に入りの場所だ。

「よいしょ。」

最近は少し歩いただけで息切れしてしまう。明らかに入院前より体力が減ったと思う。

「よしっ!」

時計を確認すると、時計の針は10時を指していた。

目標、12時までに二つのストーリーを描き終える!自分の中で目標を定めた方が描き進み具合もよくなる。

私はペンを待ち、頭の中のストーリを描き出した。

今回の内容は、私の父親について‥‥。



「よしっ!完璧!」

私は描き終えた漫画を手に待ち上に掲げた。我ながらいい感じのものが描けたと思う。

父親が看護師として出世して医院長になる。そんな上手い話はないだろうけど。

てか、看護師から医院長になんてなれのかな?周りから優秀とされる医者がなるものなのかな?先生みたいな人が?それとも‥‥。

「は〜くやさん!」

「え?わぁっ!先生?!」

考え事をしていると、先生が肩を叩いて来た。いっつも先生は私を驚かせてくる。その度に私の心臓は、はち切れそうになるのだ。こんな気持ちにさせてくる先生は、重罪だ。

‥‥待って、漫画!

私は急いで描いた漫画を裏にして太ももの裏に隠した。

「白夜さん、もうすぐお昼ご飯の時間ですよ?」

「え?もうそんな時間ですか?」

先生は、隣に座らずに後ろでソファに肘をついて私の方を見ていた。その眼は、なんて綺麗で美しいんだ、と思った。

私の筆では、到底描けることないほどだ。

「佐野さんが、お昼ご飯持って待ってるよ。」

「あ、分かりました。」

私は隙を見て、描いた漫画を小さく折ってポケットにしまった。こんなくだらない物見られたら、それこそお終いだ。

「一緒に戻りましょっか。」

そう言って、先生はこちらに手を伸ばしてきた。

「え?」

「ん?戻ろ?」

先生は手を伸ばすだけで、それ以外何も言わなかった。先生の手が、こちらに伸びているのだ。今置かれている状況に理解が追いつかなかった。

しかし、私は恥ずかしながらも、そっと手を添えた。

先生の大きな手が、私の手を包み込んだ。

そして、病室に向かって歩き出した。

お昼時だからか、人はほとんどいなかった。受付カウンターにも、看護師一人もいなかった。

「白夜さんの手は小さいね。」

先生が前を向きながらポツリと呟いた。

「そうですか?」

きっと私は顔が真っ赤だと思う。恥ずかしすぎてまともに先生の顔を見れないでいたからだ。

私は今、先生と手を繋いでいる。改めて思うこの状況に、理解が追いつかなかった。

先生の手は、暖かくて安心した。こんなにも私の恐怖心を消し去ってくれる人は先生が初めてだ。これ以降現れない人だろう。

そんな人といる時間こそ、早くすぎてしまうものだ。私たちはあっという間に病室に着いたのだ。

「ここまでで大丈夫?」

「はい。ありがとうございます。」

私は先生に向かってお辞儀をした。すると、先生は私の頭をポンと撫でた。

「それじゃあ、お大事に。」

先生は徐々に私との距離をとって歩き出した。

今までのことは、何だったんだろう。先生は患者として手を繋いだのか、別の感情を抱いて手を繋いだのか。どうせ、私の思い違いに違いない。


ガチャン


私は病室に戻った。それでも、先生のことは忘れられない。頭からあの温もりが忘れられないのだ。

先生はお昼の時間と言っていたが、まだお昼ご飯が来る時間ではなかった。

私はまた、一人になってしまった。静寂に包まれた部屋の中は、寂しさを倍増した。

私はそのままの足で窓際に行った。そして、空に向かって先生と握った手を掲げた。

「‥‥ふふ。」

私は一人で微笑んだ。私って、ほんとに気持ち悪いな。過去のことを思い出して一人で笑うなんて。

自分の手を見つめ続けると、余計に思い出してまた思い違いをする。この感情が消え去ることはない。私が生きている限り、先生への気持ちはあり続けるのだ。

「何やってんの?」

私は声のする方に目を向けた。誰?!と思ったら、そこには、制服姿の葉那がいた。白いポロシャツに黒いスカートを履いていた。

「いつからいたの?!」

「今だよ。部屋に入ったら空音が手をさらに掲げてるからビックリしたよ〜。はぁ〜疲れた!」

そう言いながら私のベッドに座った。

私は掲げていた手をそっとおろした。見られていたなんて恥ずかしい。はたから見たら、空に手を掲げている人がいたらおかしいと思うに違いない。

しかし、葉那はそんなこと気にしていないようだった。

葉那は学校帰り、毎日のように私のところに来てくれる。でも、今日はいつもより早かった。

「今日なんか早くない?」

「終業式だったんよ〜。だから皆んな早帰り。」

「そっか〜。一学期お疲れ様。」

葉那は、母親か!とつっこんだ。私と葉那は互いに大きな口を開けて笑い合った。

彼女の笑顔も、私の笑顔も似たような顔をしていた。

こんな幸せな時間を潰すわけにはいかないと、私は外出禁止のことを言いかけたことを辞めた。

その代わりに、今日の先生との出来事を話した。

顔が近かったこと、手を繋いだこと。

すると、彼女の表情が一気に乙女に変わった。

「え?!あのイケメン医師?!そんなに発展してたの?!」

彼女は恋愛マスターと言えるほど恋バナが大好きだ。

「え、それであんたは何て答えたの?」

「恥ずかしくてしばらく硬直してたらお父さんが入ってきて、結局答えてない。」

葉那はガッカリした表情をしながら両手で頭を抱えた。

「はぁ〜!そこは答えろよ!絶対今日中に答えろよ!それ、多分だけどあっちも気になってるよ。あんたのこと。」

「うそっ?!そんなことないでしょ!」

葉那と喋っている時間はあっという間にすぎるほど楽しい。自分が最も自分でいられる瞬間だった。猫も被らないし自分を隠さない。彼女の前では常に楽でいられるのだ。


コンコンコン


「空音ちゃ〜ん、お昼ご飯持って来たよ〜。」

佐野さんが昼食を運んできてくれた。そういえば、いつの間にか朝食が片付けられていた。

「ありがとうございます。」

「あれ?葉那ちゃん?」

「そうです!お邪魔してまーす!」

佐野さんはニコニコしながら昼食を並べてくれた。

「どうも。」

「はいどうそ。遅くならないようにねー!」

「ありがとうございまーす!」


ガチャン


佐野さんは病室を後にした。

「いただきます。」

私は葉那の隣で昼食を食べ始めた。彼女は羨ましそうにこちらを見ていた。

「はぁ〜!腹減って来た!今日は2時から家の手伝いがあるんだよ!」

「そりゃあ、大変だね。居酒屋は忙しいからね。」

葉那の家はいざかやを経営している。そのため、彼女は家の手伝いをしているのだ。

「ほんとだよ!客が多すぎなんだよ!だから、帰るね!また!」

彼女の喋り口調は嵐のように去っていく。彼女の話は展開が早すぎるのだ。ま、そんなとこが好きなんだけど。

「ありがとー!またねー!」

私は葉那に向かって手を振った。彼女も部屋を出ていく前に手を振りかえしてくれた。



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