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第十一話


コンコンコン


「失礼します!!!!」

先生と話していた時、父親が病室に入って来た。ボサボサの頭をしていて、はぁはぁと息を切らしていた。そして佐野さんも一緒に入って来た。先生は立ち上がり2人の元に駆け寄った。

「足を運んでいただきありがとうございます」

「空音は!?大丈夫なんですか?」

「こちらにお座りください」

先生は父親に手招きをして私の横に座らせた。ソファが沈んだ。

「空音大丈夫か?痛むところはないか?」

「大丈夫だって。いちいち大袈裟」

「お前って奴は…….先生すみません」

「いえ」

こんな父親、恥ずかしい。たかが検査に異常があったくらいでこんな焦っちゃって。心配性すぎるよ。

「お父さん、目赤いよ?」

「あれ?そうか?ろくに寝てないからかな〜」

父親は目を擦った。

先生は、私たちとは向かいのソファに座った。彼の隣には佐野さんが腰をかけた。机上にはファイルから取り出された資料で埋まった。

「お父様お仕事でしたか?」

「いや、仕事に行く途中でしたので」

「そうでしたか」

先生と父親は、少し世間話をした。先生は話を進めるのがとっても上手。いつも感心させられる。

つい数分前まで目の前にあった先生の目も、今はただの患者と医者になっていた。

「本題に入ります。先ほど、白夜さんの身体検査を行った結果、心音に多少の雑音が混ざっていました。おそらく、薬による副作用と考えられます」

「はい……」

「このまま薬の使用を続けてしまうと、悪化のスピードが早まってしまう可能性があります」

「ということは…..」

「様子見も含めて、2週間外出禁止にしようと判断いたしました」

先生の説明は、簡潔だった。父親は分かっていたように頷いていた。

「そうですか。どうもありがとうございます」

父親は小さくお辞儀をした。それに続いて私も先生もお辞儀をした。

「わざわざ教えてくださり、ありがとうございます。それでは、私は仕事があるので」

父親は意外とあっさりしていた。泣くこともなかった。

「また何かありましたらご連絡させていただきます」

「どうもお世話になります」

先生は病室から出て行こうとする父親を追いかけた。2人は扉の近くでしばらく立ち話をした。

「それじゃあ父さん仕事行ってくるからな!」

「はいはい」

「ちゃんと食べて寝ろよ!!」

父親は笑顔でこちらに手を振った。その手は大きくてガッチリとしていた。

「バイバーイ」

私もそんな父親に対して手を振り返した。瞬く間に父親はパーっと笑顔になった。心がギュッと締め付けられた。



ガチャン



父親が去った病室は、私と先生と佐野さんの3人だけになった。騒がしかった病室も風の音だけになった。



プルルルル!



すると、病室に先生のスマホの着信音が響いた。先生はスマホを取り電話に出た。

「はい朝倉です。はい、はい。分かりました」

先生は耳からスマホを離した。誰からの連絡だろう。きっと仕事のことかな。

「それじゃ、さっき言った通り、外への外出は控えるように。この階での移動は大丈夫だから」

「分かりました」

私が相槌を打つ頃には、先生は病室の扉まで行っていた。

「朝ごはん持ってくるね!」

佐野さんはそう言い残して先生の後ろについて行った。2人は業務的な話をしながら病室を出た。

私は一人になり、再びソファに腰掛けた。

「はぁ」

外出禁止って......いつもの中庭のベンチにも行けなくなるってことだよね。葉那とも会えなくなるし。



『空音は誰と行きたいとかあるの?』



先生の言葉と顔を思い出し、手を思いっきり顔に当てた。手のひらに熱を感じた。

「そんなの、言えるわけないじゃないですか.......」

先生の顔が、ものすっごく近くにあった。それに加えて、誰と行きたいなんて。



コンコンコン



「朝ごはん持ってきましたよー」

5分ほどしてから佐野さんがおぼんに食事を乗せてやってきた。

「ありがとうございます」

「今日はこっちで食べる?」

私はベッドの上でご飯を食べることもあれば、ソファに座って食べることもある。

「気分転換にこっちで食べようかと」

「そっか」

佐野さんはおぼんの食事を丁寧に机に並べてくれた。

今日の朝ごはんは、海老のパプリカのピラフメニュー。

「召し上がれ」

私は佐野さんに向かってゆっくりと軽くお辞儀をした。

「食べ終わったらそのままにしておいてね」

「分かりました」

うん。これでいい。ご飯を食べて検査を受けて漫画を書く。それだけで十分なのだ。

私は自分の目の前にピンク色のカバーのタブレットを開いて置いた。

「いただきます」

タブレットを見ながらご飯を食べ始めた。そしてそのままにしてあった宮古島祭のホームページに目を通した。

タブレットには、相変わらず大きな花火が咲いていた。

「.......」

ぽろっと一言、言ってしまえば叶うのかな。さっきの質問、先生はどんな意図で聞いたのだろうか。

私は疑問に思いながら、スプーンを手にして再びご飯を口に運んだ。


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