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第十話

父親が、来る?忙しくてろくに寝れていない父親が私のところまで来る?

私は理解できなかった。

「お父さん、来れるって言ってました?」

「うん。30分で行きますって言ってたよ」

私はさらに驚いた。

看護師として働いていて日々多忙な生活を送っている父親が、たった一人の娘のために30分で来るなんて。不可能としか思えなかった。



ガラガラガラ



「じゃあ、お父さん来るまでここで待ってて。先生も一緒に来ると思うから」

私はコクリと頷いた。

病室の前で車椅子は止まった。佐野さんは扉を開けて中まで押してくれた。窓を開けっぱなしで出ていったおかげで、透き通るような夏風が吹いた。



ガチャン



再び一人になった。佐野さんは何も持たずに部屋を出た。毎朝検査するときに使う重機もそのまま。

父親が本当に来るのか疑いながらも車椅子から降りた。ベッドのすぐ下にある部屋用のクリーム色をしたスリッパに履き替えてた。そして机の上に無造作に散らかる漫画たちを見た。

「片付けないと」

本当はこのまま漫画を読んで時間を潰したいけど、父親が来るのなら無理だな。私は漫画を決まった位置に戻した。

「よいしょっ。よし」

綺麗になった部屋を見て安堵した。これで父親が来ても大丈夫。もし部屋が散らかっていたら、潔癖症の父親にぐずぐず言われるからこうするしかない。その説教を聞くのがめんどくさくて私はいつも部屋を綺麗に保とうと努力している。

灰色の2人掛けのソファに座り、一息ついた。あとどれくらいで父親は来るのだろうか。父親が来るまでの暇つぶしとして、学校から支給されたタブレットを開いた。ホーム画面は葉那と私のツーショット。

検索ページを開くと、検索欄は全て”宮古島祭”に関することで埋まっていた。

キーボードを出して調べる必要もなく躊躇せずに宮古島祭のページを開いた。

「おぉ......すごい」

宮古島祭の公式ホームページにとんでみると、一昨年の花火大会の様子が記載されていた。

そこには、真っ暗な夜空に広がる大きな花火が咲いていた。まるで花畑のように。両サイドに赤色の花火が昇り、中央から外側にかけて白や水色の花火が昇っていた。咲き乱れる花火は画面越しでも心奪われた。

行ってみたいという気持ちがさらにさらに強くなった。

「白夜さん。何してるの?」

「うわっ!ビックリした.....」

「気づかなかったの?」

「部屋入る時ノックくらいしてくださいよ!」

「俺、ノックしたよ?入るよーとも言ったし」

あれ?私が聞こえてなかっただけ?

「すみません。私が聞いてなかっただけかもしれないです」

すると、先生は大きな声で笑った。あっはっはと等間隔に甲高い声で声をあげた。その笑顔に、少し心が軽くなった気がした。

「君は何かに集中すると、周りが見えなくなってしまうよね。いいことだね〜。何見てたの?」

先生は隣に腰掛けてきた。私は胸が弾みながらタブレットの画面を見せた。

「宮古島祭のことを、調べてました。さっき、テレビで見たやつです。」

「あぁ〜宮古島祭ね!行きたいの?」

先生は足を組み、さらには腕組みをしてこちらを見つめた。先生の目は綺麗な二重をしている。その瞳はウソをつかないだろう。私は思わず目を逸らした。

「別に、行きたくても行けないですし」

何でいつも、こんな言葉しか言えないんだろう。もっと明るく答えればいいのに。暗く答える必要なんてないのに。私は人に対して明るく振る舞えない。そのせいで、友達もほとんどいない。バカみたいな性格。

でも先生はいつも私の言うことに対して真剣に向き合ってくれる。

「実は、あとでお父さんの前で言おうと思ってたんだけど、心音に雑音が混じってて2週間外出禁止になったんだ」

「え?」

「これは仕方ないことだ。分かってほしい。ただ、2週間後なら祭りはやっているはず。だから、外出禁止が解除されたら行こう」

やっぱり先生は、私の中で大切な存在の人だ。

「雑音って、どのくらいですか」

私は少し食い気味になってしまった。

「前に一回あった時よりかは大丈夫だよ」

先生の方を見るたびに、先生は苦しい笑顔を浮かべていた。私は背筋を伸ばした。すると横にいた先生が首を傾げながら訊いてきた。

「空音は誰と行きたいとかあるの?」

「へ.....?」


キィ


先生の顔が、近すぎる。ソファの軋む音が余計に私をドキリとさせた。

「そ、それは.....」

「ん?」

先生です。

なんて、言えるわけない。視線を離してくれない先生。私はきっと、顔が真っ赤だと思う。


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