ギフトはランダムスクラッチ
クリスマスにひと月前にAR型ゲームのヘッドセット・コントローラ『BARLE』が発売された。希望小売価格20万円と高額ではあるが、全世界同時発売にもかかわらず売り切れにならないぐらいに供給していることを見るとその発売企業の熱意がうかがえる。
日常を遊戯に。
そんなCMが多くのメディアを賑やかし、とある懸賞にあり当選者3名という希少枠に応募したところ当選していた。
普及型AR機器のセットと、「World Lost World Order」と言う名のFPSゲームの同梱セット。それが始まりだった。
幅の広い後頭部を覆うヘッドホン状に傷の付きにくい加工が施された透明のバイザーが顔前まで伸びた、この装置を着けている人はよくわかる仕様だ。右腕に他者との通信を行う機能が、左手には装着者の行動をバイザーのカメラ情報とすり合わせる機能が、極短距離通信技術でヘッドホンと両腕のバングル状情報端末が通信し合うらしい。難しいことは解らないな。ともかく、軽量化とこの処理能力というすごい技術が詰め込まれている。
対応アプリはメモリーカード式で、ヘッドホンの右耳側にスロットがある。つまり、同じアプリをいれていない限り、別ゲームをしている事も考えられる。睡眠の6時間で充電をしっかりして、早朝から全てを装着し起動する。
バイザー部にかっこいいロゴが表示されると、視界に薄いガラス状のものがあるだけで日常と変わらない。
自動的にチュートリアルが始まる。どうやら、熟さない限りは進まない親切仕様になっているみたいで、飛ばせない。
ビスケット状の栄養バーで軽く腹を満たすと、そのチュートリアルを繰り返した。まるで軍隊の新兵指導のように細かく、何度もだった。
利き手設定、右手装置に左手を乗せると装備等の設定。利き手を前に差し出すと装備している銃が表示され指が動くと発砲される。当然のことながら、しゃがめば視線は低くなり、寝転んでも同じ。なにより、障害物があれば弾が当たった跡を一定時間表示している。
これが最新ARの力なのか。人を殺すこと無く体験できるとは。すごい時代になった。
チュートリアルがやっと終わると、目の前に革靴を収めた靴箱みたいな黄色い箱が表示された。
やっと報酬か。
箱を開けると、ピストルが2つ、説明書らしき紙が収まっている。右手で触ると取得しました。と、小さなメッセージが表示され、空箱が残った。手には説明所が握られている。
意識は説明書に向くので、直ぐに両手で持つような仕草をするとはっきり読める表示がされた。
【チュートリアル達成おめでとうございます。対人戦闘用のグロック17、スキル取得ゲーム用のCz75をご用意しました。】
【この説明書を装備した状態で利き手を前に差し出しますと再度チュートリアルを繰り返すことが出来ます。報酬はありません】
【 スキル取得は、Cz75を装着して構えると自動的にスキル取得ゲームとなります。それでは良き対戦人生を。 】
固定なのは装備だけで、スキルはミニゲーム制なのか。ゲーム説明書が無いからこそ丁寧なチュートリアルなのだと
いきなりの対人戦は恐ろしい。だが、する事は無い。チュートリアルを繰り返したところ、別のチュートリアルが解放された。
【ランダムターゲット訓練が解放されました。チュートリアル中に対人銃器へと持ち替えることで現在の環境にやや融和した】
【的が現れるモードとなります。残り弾数が無くなり次第リザルトが表示されますのでご活用下さい 】
指示通り、チュートリアル中にグロック17を装備すると、戦闘画面なのであろう輝度が落ちた空間で、壁の向こう側から自動車の耐衝撃実験に使われるダミー人形みたいな的が現れた。その手には銃器が握られている。
初回の結果は散々だった。16発中、命中2発。しかもかすっただけ。
なんて難易度の高いゲームなんだ。スキルを取る事も忘れひたすらに練習した。的は地面から顔を出したり、天井から半身を乗り出したり。まったく油断は出来ない。
気がつけば16時。おなかが鳴るのも忘れて集中していた。中途半端な時間ではあるが、ヘッドセットをスリープモードにするとかなり遅めの昼食を食べた。バッテリー残量は既に1/3。よく遊んだものだ。放置していたスマホにはテニスを学生時代にしていた親友も『懸賞で当たった。ARゲームのWorld Lost World Order一緒にしないか?』とのメッセージ。マジか。簡単に負けないように、練習を重ねなければ。
おなかを満たした後、文面で悩んだ。今すぐ!では負けそうだし、共闘か?では皮肉すぎている。
読めない親友に そのうちにな。 との返答が一番しっくりきた。
バッテリー残量の10%の警告がでるまで訓練した。本気で練習じゃない。訓練だ。
明日からは熟すべき日常の隙間時間を当てるしか無いけれど、親友も同じ条件だ。
空き時間はすべて的当て。それが日課に組み込まれた。
ようやくヒットレートが70%に届こうかという頃、今度はリアルに走ったり、避けたりする動きに変わった。
もう沼った。睡眠時間を削りつつも、命中率が少しずつ上昇していくのは楽しかった。
ヘッドセットを着けていない日常でも、人の動きを観察してしまう。周囲からも変わったね。と言われた。
1ヶ月は長いようで短かった。命中率が向上すれば、今度は撃ってはいけない対象が現れる。子ども、女性、老人。肌色がその時によって違うより慎重かつ大胆に攻めなければならない訓練も追加されていた。飽きることは無かった。そして途中リロードを行えば継続できることも知った。
親友のメッセージもあれから止まったままだ。多分、同じであろう。
深夜。そろそろ眠ろうかと充電を行っているときに電話が鳴る。相手は親友。
「あー夜中に悪い。対人戦デビューし興奮していて電話した。」
既に差は開いていた。
「聞いているのか?なぁ。」
あいまいな相づちを返すと、対人戦のメリットを伝えてきた。
銃器が買えるようになるんだ。
持ってないスキルなら取得するチャンスがあるんだ。
スキルには相性があるみたいだ。
いつもより饒舌に、確かに彼は興奮している。
「なんせさ、ショッピングモールの中が戦場というのは楽しかった。」
自分も人のことは言えないが、既にモラルなんて者を親友も失っている。
「なぁ、対戦しよう。」
親友の弾丸は明らかに獲物を狙うそれだった。
「そうだな、次の休みが共通する日は・・・・」
電話は30分も繋がっていた。
翌朝。朝食の前に準備運動をし、ヘッドセットとバングルを着ける。朝Cz75を装備して構えると残弾2と表示されていた。
「さて。どんなミニゲームになるのやら。」
取得できる未知のスキルへの期待と想定されるゲーム内容に思わず独り言。厨二病でもここまでならないだろうに。
比較的見通しの良い場所で窓の外を狙うように構える
耳元でスキル取得モードに移行しますと無機質な音声が流れた。バイザーの側面が遮光され、遙か先に数多くの風船が密集している。
お約束ではあるが、射撃なのは変わらない。
やはり中央を狙うべきなのか、それとも端に希少スキルがあるのか。そんな情報は一切無い。ただ単に訓練が活きる事だけを望んだ。
単純に目の前に銃を構え、正面に1発。どうやら貫通は無いみたいだ。1発で何個もスキルを取得するゲームでは無いのだろう。
左下目の床すれすれに2発目。どの様に処理されたのかは判らないが、どうやら命中しているみたいで当たった風船が目の前に表示され、割れる度にスキル名が表示される。
【 SSR 精密な射手 を入手しました。】
【 USR 回避の達人 を入手しました。】
ランクがあるのかよ!それでも、親友に圧倒的勝利まではさせなくて済む。そう思うと顔がほころんだ。
実装できるスキルは4個まで。そして1つは非公開かつ入手チャンスにならない仕組みとなっている。
非公開枠には回避の達人、公開枠には精密な射手をセットし訓練を行うと、初めて命中率90%を達成した。
これで勝機はある。
以前公開していた作品のリメイクになります。




