第二幕 受付窓口 再開
窓口は閉じられた。
――はずだった。
だが世界は、都合よく止まってはくれない。
ダンジョンは息をし、
人は欲望を持ち、
理不尽は増え続ける。
そして今日も、
誰かが窓口に立つ。
それがたとえ、
世界の歪みを背負う役割だったとしても。
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登場人物
■ 受付男子(主人公)
異世界転生者。元冒険者志望。
スキル〈受付男子〉と加護〈ダンジョンガイド〉を持つ。
現在、受付マスターランク候補。
戦わないが最前線にいる男。理不尽耐性が異常。
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■ 皇帝姫(妻)
王の娘にして主人公の妻。現在妊娠中。
戦闘能力・権力ともに規格外。
主人公に対してはやや過保護気味。
怒ると一番怖い。
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■ 国王(義父)
この国の頂点。
娘溺愛系だが為政者としての器も持つ。
主人公を警戒しつつも認めている。
最近は「厄介な男」と評価。
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■ 受付マスター(上司)
受付制度の頂点に立つ男。
冷静沈着だが、内心では常に胃が痛い。
主人公の適性を最も理解している人物。
基本的に容赦がない。
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■ ドS級美人試験官
受付マスターランク試験官。
極めて優秀かつ性格に難あり。
主人公に対して強い興味(ほぼ執着)を持つ。
姫との相性は最悪。
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■ 受付職員たち
日々窓口で戦う無名の戦士たち。
主人公の異常さに慣れつつある。
だが毎日が限界。
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■ 冒険者たち
窓口を訪れるトラブルの発生源。
強さと問題行動は比例しがち。
受付にとって最大の外敵。
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受付窓口 再開
「窓口は再び開く」
――鐘が鳴った。
それは、いつもの朝の合図。
そして。
少しだけ違う朝の始まりだった。
「番号札一番の方ー!」
声を張る。
窓口は、相変わらずだ。
怒号も。
理不尽も。
クレームも。
何一つ変わっていない。
「遅いぞ受付!」
「本日人員不足につき遅延しております」
「昨日も同じこと言ってたぞ!」
「改善努力中です」
「してないだろ!」
「してます」
嘘ではない。
結果が出ていないだけだ。
「……再開、ですね」
隣で姫が小さく呟く。
腹部に手を当てながら。
まだ目立たないが、確かな変化。
「そうだな」
「平和ではありませんが」
「元からだ」
「それもそうですね」
軽く笑う。
この空気も、もう日常だ。
「受付男子」
背後から声。
振り返るまでもない。
「新規案件だ」
受付マスター。
いつも通りの無表情。
だが手に持つ書類が、少しだけ異様だった。
「……何ですかそれ」
「見れば分かる」
渡される。
王国印。
封印付き。
嫌な予感しかしない。
「開けるぞ」
「どうぞ」
封を切る。
一枚の文書。
そこに書かれていたのは――
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■ 緊急指定案件
ダンジョン異常増殖現象
■ 対象
全域
■ 対応責任者
受付マスターランク候補者
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「…………」
「……おい」
「はい」
「これ」
「はい」
「俺のことか?」
「おそらく」
「おそらくって何だ」
「確定ではありません」
「逃げ道残すな」
姫が覗き込む。
「……何ですかそれ」
「嫌なやつ」
「見れば分かります」
「嫌なやつですね」
理解が早い。
「異常増殖?」
「通常あり得ません」
マスターが即答する。
「ダンジョンは発生するものです」
「増えるものではない」
「だが」
書類を指で叩く。
「起きている」
空気が変わる。
「……受付案件か?」
「最悪の形でな」
短く答える。
「現場は混乱」
「情報は錯綜」
「対応機関は統制不能」
「つまり」
「窓口が死ぬ」
「やめろ」
笑えない。
だが笑うしかない。
「どうするの?」
姫が静かに問う。
分かりきった質問。
「どうもこうもない」
書類を畳む。
「仕事だ」
「そうね」
小さく頷く。
「止める気はありません」
「止めるな」
「はい」
当然のように返ってくる。
「……再開早々ハードすぎないか」
「いつも通りです」
マスターが言い切る。
「受付に平穏を求めるな」
「分かってるよ」
窓口の前に戻る。
列は減っていない。
むしろ増えている気がする。
「番号札二番の方ー!」
声を出す。
また始まる。
また巻き込まれる。
また世界が騒がしくなる。
だが――
「……悪くない」
小さく呟く。
受付男子の仕事は。
まだ終わっていない。
再開である。
だがこれは続きではない。
新しい混乱の始まりだ。
ダンジョンの異常。
国家の思惑。
そして一人の受付男子。
小さな窓口に集まる問題は、
やがて世界規模へと広がっていく。
それでも彼は変わらない。
剣を取ることもなく、
魔法を撃つこともなく、
ただ窓口に立ち続ける。
それが彼の戦い方だからだ。
――受付窓口は、再び開いた。
次に閉じるのは、いつになるか。
それはまだ、誰にも分からない。




